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「この世界では、異世界より神子様を召喚し、国に留まって頂くことでその国に平和がもたらされると言い伝えられております。あなた様はこの国の第二王子・ジーク様によって、神子様として我が国に召喚されました」 「……」 「…ここまではご理解頂けましたか?」 「…はぁ」 「……」 神子様に意識が戻ったことはすぐさま国王に伝えられ、国王と医師と数名の重役がすぐに神子様の元へ訪れた。 大臣により異世界から召喚されたことや神子様について簡潔に伝えられたが、神子様は相変わらず目線をぼんやり下に向けたままで、驚く様子も戸惑う様子も全く見受けられず、その事に国王たちの方が驚いていた。 「…神子様も突然のことに驚いておいででしょう。怪我のこともありますので、我々の話はこれくらいにして…後は医師と少し怪我についてお話しされてから体をゆっくりと休めてください」 早々に話を切り上げて退室する役人たち。国王が去り際にこっそりとジークも退席するように顎で示したため、医師だけを残し、神子様の部屋を後にした。 「…こちらの言葉も通じた。あの方は神子様で間違いないだろう」 国王と王妃と王子たち、そして重役数名だけが集められた会議室で、国王のその言葉が響き渡った。 「しかし国王様!あの方が神子様だとしたら、なぜあの方が訪れた途端に王都に豪雨災害に見舞われたのですか!なぜ魔物が出たのですか!」 右大臣がガタリ!と椅子を大きく鳴らして立ち上がる。 彼は神子様に対してまだ疑念を拭いきれていないのだろう。顔も不信感を露にしていた。 「…しかし、神子様が目覚めてから豪雨が小雨に変わりました。怪我をし、意識がない状態では神子様の本来の力を発揮できなかったのかもしれません」 椅子に座ったまま挙手をして発言したのは、左大臣であった。 彼は神子様を庇った―…というよりは、他の考え方を提案したと言うのが正しいだろう。 表情は冴えず、神子様だと信じきってるようには見えなかった。 国王は両者をじっくり見てから静かに頷くと、 「両者共の言い分はわかる。しかし私はあの方が神子様だと信じたい」 そう言って、ジークの方を見つめた。 「…しかしながら私自身も、あの方に対して疑念を抱いたことがあるのも事実だ。…神子様はまだ怪我が治るのには時間がかかる。対外的に神子様を召喚したと公表するのは、神子様が完全に治ってからとしようと思う。その頃にはきっと、疑いも晴れているであろう」 その国王の言葉により、大臣たちもひとまず頷く。 結局神子様と認める発言はされたものの結論は先伸ばしにされただけで、神子様のことは儀式に居合わせた者以外には内密にされたまま、神子様の回りにつく従者も、"神子様"とは知らず"大切な客人"として遣えることとなった。 ジークは途中で何度も口を挟もうと思ったが、自分も一瞬でも神子様を疑ってしまったことを思いだし、なにも言えずに俯くことしかできなかった。 * 「頭を強くぶつけたようで、1週間以上意識を失っておられました。腕や足に骨折がございましたが、他にも打ち身や擦り傷が広範囲に及んでいました。…今現在、痛みや不快感などございませんか?」 「…痛いは痛いですが、怪我の様子を見れば仕方ないかなぁと」 「…左様ですか。痛み止は飲まれますか?」 「……」 その問いには、小さく首を振られる。 相変わらず淡々としたその様子に、医師は何かを感じ取った。 「……この怪我に、心当たりはございますか?」 神の使いであるはずの神子様がこれほどの怪我をされたのは、召喚が上手くいかなかったせいと考える者も少なくなかったが、もしそうだとしたらこんなに冷静に受け止められるものだろうか。 異世界から来たことを受け入れていた時は、冷静と言うよりも何かを諦めているような、悟っているような感じにも見えた。 しかしこのような命にかかわるほどの酷い怪我まで、そう易々と受け入れられるものだろうか。 …だから、もしかしたらこの怪我は召喚とは別の問題なのではないかと、医師はそう思ってしまったのだ。 「……あまりの衝撃だったので、死んだかと思っていました」 そうぽつりと呟くと、何かを思い出すように遠くを見つめられた神子様。 今はそれ以上を語るつもりはないのだろう。 その言葉だけでは、怪我をされたのが召喚のせいなのかそうでないのかはわからないが…怪我の状況を覚えているのは確かなのだろう。 医師も神子様の視線の先を追うように遠くを見つめると、その先には窓があった。 窓ガラスが雨に濡れているせいで、外の景色はモザイクがかかったようにぼやけている。 止まない雨を見つめていると…何故だか、泣けない神子様のかわりに空が泣いているようだと感じてしまった。

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