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2-5 変わらない街なのに
退院の日。
お父さんは、仕事で忙しいみたいで、咲父さんと夏兄が来てくれた。
「これで、忘れ物はないね。」
咲父さんは、病室を整理し、荷物をまとめてくれた。
「うん!大丈夫!」
「行くか!」
僕たち三人は、病院を後にする。病院から自宅までタクシーで帰ることになり、窓から見える景色は、何も変わっていなかった。
ボッーと変わりゆく景色を見ながら、ふとした違和感を覚える。
「男の人、ばっかりだね。」
何となく呟いた一言。
「何言ってるんだ。男しかいないだろー」
夏兄が、不思議そうに僕の顔を覗き込む。
「そう、、だよね、、ははは、、」
どこか曖昧な記憶で男性以外の人もいた気がする、、
なぜだか違和感を感じる、、
流れゆく景色を見ると、男性同士のカップル姿もあった。
その光景が、なかなか目から離れない、、、、
「外に、そんないいモノがあるか?」
「ん、、、別に、、」
「おい!あの店、覚えてるか?よく家族で飯を食いに行く店だ。」
夏兄が僕の肩を叩き、お店を指差す。
「うん、覚えている。あそこのハンバーグ美味しいよね。」
「そうそう、今度、行こうな!」
「うん、」
ハンバーグよりも、その店の前で手を繋ぎ楽しそうに歩くカップルに気をとられる。
男性同士のカップル、、、
しばらくして自宅に着いた。二階の自分の部屋に行くと、何も変わっていなくて、写真が何枚かあり、それを手に取ってみる。響君が教えてくれた凛君という人がいた。その人を何度見ても、思い出せなかったけれど、ずっと仲がよかったような気がする。
もう一枚写真を見つけた。そこには、優君という人がいた。この人ともずっと仲よしだった気がする 。
記憶が曖昧で、どうして思い出せないのか、わからない、、
ベッドに横たわり、何とか記憶を思い出そうとした。
気づくと僕は眠りについていた。
これも夢なのかな。家族みんなで仲良く食事をしている。そこには、お父さん、お母さん、皐姉、夏姉がいて、当たり前の光景なのに、どこか懐かしいと感じる。夢は続き、気づくと学校にいて、優ちゃん、凜ちゃん、響君、藤澤君、武藤君たちと話している。いつもの学校の風景で、何一つ変わらない光景。僕は、その場にいるのに、どこか遠くから眺めている気がした。
目覚めたら朝になっていた。昨日の夢を思い出そうとしたけれど、ところどころ人の顔がぼんやりとして、思い出せなかった。
なんとなく、昨日の写真を見つめる。
「優ちゃん、凛ちゃん、、」
口にしたその言葉が、よくわからない、、
どこか遠い昔の響きのように感じる、、
一階に降りると、咲父さんと夏兄がいた。
「おはようーあれからずっと寝てたのか?」
「そうみたい、へへ、、、」
「寝坊助だな!」
「夏、愁ちゃんは、退院したばかりで、まだ、疲れてるんだよ。」
「そうですねー!」
夏兄は、笑いながら咲父さんをからかっていた。
「今日から、学校に行く?先生は、いつから来ても大丈夫だって。」
「うん、じゃあ、行ってみるよ。みんなに会いたいし。」
「じゃあ、気をつけて行ってらっしゃい。」
「はーい。」
僕は、不安を抱きつつも学校に行くことにした。
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