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ジン・デイジー7
懐が潤ってるせいで次の働き口を見つけようという気も起きず、衝撃の日から一ヶ月もの間、一日ベッドの上で過ごす俺は廃人と化していた。
ツイてない俺は、これからも何かと凹む人生を送るんだと腐った。
唯一の癒しだった伊織さんまでも、俺を裏切ったから。
オアシスの枯れたそこはヒビ割れてボロボロだ。
ほんとに好きだった。
初恋の人を追い掛けた、瑞々しく若い気持ちを思い出させてくれた。
今にも頭やほっぺたを撫でてくれそうな、包容力のある視線や気使いにも惚れていた。
「うぅ……っ」
思い浮かべるとダメだ。
笑顔が見たくなる。
羽交い締めにされて眠った腕枕の心地よさを思い出してしまう。
イかされた事を棚に上げて、気持ち悪いと心にもない暴言を吐きかけた己を恨んだ。
どんな伊織さんでも好きでいます。
好きでいるのは勝手ですよね。
俺はママに、そう断言した。
見た目より中身だと、嘘八百を堂々と言い放つ最低男みたいな心境に陥ってさらに落ち込んだ。
「……そういえば、なんでマルガリータだったんだろ……」
伊織さんは、俺が初めて来店した日にマルガリータを出してくれた。
以来まったく作らなかったそれを、あの日俺が潰れるまで寄越したのは何か意味があったのかな。
ふと思い立ち、充電器が繋がったままのスマホを起動させてマルガリータを調べてみた。
「え、……」
カクテルにはそれぞれ意味がある。
バーテンダーである伊織さんは、その意味を熟知してるはずだった。
「そんな……」
腐りかけていた俺はカッと目を見開き、ドクドクと脈打つ心臓付近を押さえてゆっくりと上体を起こした。
……どうしよう。 これが伊織さんの気持ちだったら、どうしよう。
今ここに書いてある言葉を知らないはずがない伊織さんが、意味も無く「上出来」なんて言いつつ微笑んだりしない、よな?
"喋ってないんだから嘘にはならない"
じゃあ伊織さん……何だったんだよ。
どういうつもりでマルガリータを作って、俺にどう思ってほしくてそれを飲ませたんだよ。
「一時か。 まだ開いてるよな」
時間を確認して、何かに突き動かされるかのようにいそいそと寝間着から外着に着替えた。
会わなきゃ。
会って話をしなきゃ。
マルガリータのカクテル言葉。
それは、 "無言の愛" だった。
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