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焔(続編)3
「――冰、帰るなら止めねえが、その代わり俺が家まで送る」
そう言った瞬間に、冰も紫月も驚いた表情を見せた。
「……送るって、ガキじゃねんだ。一人で帰れるって」
冰は言い張ったが、とてもじゃないがうなずける気分ではない。
「いいから言うことを聞け! 電車は論外だ。俺が車を拾って送る。おめえを一人で帰すつもりはねえからな!」
少々語気を荒げて言うと冰はやれやれと肩をすくめてみせた。
「冗談! 勘弁してよ、そーゆーの! 俺ァてめえの持ちモンじゃねえっての。第一、今日だって紫月がどうしてもって言うから付き合ったけどよ。正直もうアンタの家は見たし、ここに居る理由もねえしな」
俺は焦燥感からか、ついヤツの胸倉を掴み上げてしまった。
「本当に家に帰るんだな? まさかこの後てめえ一人で何処かへ出掛けようってんじゃあるめえな?」
「は? 出掛けねえって! つか、俺が誰と何処へ出掛けようがおめえにゃ関係ねえだろが」
「――関係なくはない! 俺は……」
「何だよ。つーか、手ぇ離してくんね? おめえ、背でけえんだからさ、いつまでこうされてりゃ首吊っちまうっつの」
「あ、ああ……すまねえ」
咄嗟に手を離したが、やはり己の中の本能が彼を一人で帰してはならないと告げる。
「――分かった。だったら送るとは言わねえ。その代わり、せめて車を拾わせてくれ。階下でオートン拾うから、それ乗って帰れ」
そうすれば送るのは諦める。車を拾い、運転手には俺自身でこいつの自宅を告げればいい。しばしの押し問答の末、冰が渋々ながらも承諾したので車で帰すことにした。
それからすぐに階下まで付き添って車を拾った。運転手には俺の口から行き先を告げて、事前に料金も握らせる。
「運転手さん、頼んだぜ。くどいようだが行き先は絶対に変えねえでくれな!」
わざと圧のある声色でそう頼み、冰を乗せて送り出す。部屋に戻ると紫月が怪訝そうな顔で俺を迎えた。
「驚れえた。もしかお前、マジで冰にイカれちまってるわけ?」
呆れ口調――というよりも半ば侮蔑が勝ったような言い方で紫月が見つめてくる。窓辺を背に、何だか突っ掛かるような口ぶりで苦笑まじりだ。
「別に――そういうわけじゃねえ。ただあの冰は……」
「……何よ」
「いや――何でもねえ」
紫月と冰は俺が転入する前からある程度親しい間柄だったはずだ。もしかしたら紫月も冰の境遇を知っているのかも知れないと思ったが、今のこの態度を見ていると、どうもそうではないらしい。もしも知っていれば一緒にとめただろうと思えるからだ。
「なあ、紫月――お前らは……」
どの程度の仲で、どの程度互いのことを知っているんだ――そう訊きたかったが、仮に冰がまったく事情を打ち明けていなかった場合、ヤツの秘密をバラすことにもなり兼ねない。俺は言葉を呑み込んだ。
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