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焔(続編)19

「おめえの好みかどうかは分からんがな。確かにツラ構えはいい方だと言えるかもな」 「マジ? お前とどっちがいい男?」  そんなふうに訊かれれば悪い気はしない。 「いい男――なんて言ってくれんのはおめえくれえだがな」  それを言うならこの紫月だって充分にいい男だろう。先程冰が「紫月は昔からモテていた」と言っていたし、実際好き嫌いは別としてほぼ万人が綺麗な男だという印象を抱くはずである。  俺は掛け布団をめくって紫月の隣へと腰を下ろした。  何故だろう、今まで誰にも話すつもりのなかったいろいろなことを――この紫月には聞いて欲しいという衝動が込み上げていた。  親父がパートナーの麗さんと愛し合っていたこと、これくらいは源さんも知ってはいるが、お袋が俺に抱かれようとしたことまでは言っていない。というよりも言えなかった。  例え昔から家族も同然で、尚且つ裏の世界を知り尽くしている源さん相手でもそこまでは打ち明けられなかったのだ。てめえの胸にだけしまって墓場まで持っていこうとさえ思っていたことだ。  だが、紫月には知っていて欲しい。過酷な事実があったということよりも、俺自身のことを少しでもこいつに知っていてもらいたいというような思いだったかも知れない。  逆にこいつのことも、もっともっと知りたい。何でもいいから、些細な笑い話やくだらない小さなことでもいいから何でも知りたいと思う気持ちが止め処ない。  二人並んでベッドの上で腰掛けながら、気付けば俺はまるで独白でもするかのように胸に抱えていることを話し出していた。 「なあ紫月――」 「ん?」 「俺の親父は――いわゆる堅気とはいえない職に就いていた」 「……え? 堅気じゃねえって……まさかヤクザ……とか?」 「いや――いわゆる日本のヤクザとは少し意味合いが違うが、まあ世間一般から見れば括りは同じだろうな。親父はもちろん、その家族である俺たちも同じ裏の世界の人間として認識されていた」 「裏の世界……? えっと……じゃあマフィアとか?」 「マフィアとも繋がりはあった。親父自身がどこかの組織に与していたというわけじゃねえが、そのマフィアと組んで仕事をしたり、時にはマフィアから依頼を受けたり――な。危険を伴う案件も多かった。親父だけじゃなく、お袋やガキだった俺も含めて恨まれることも多い、そんな環境の中で俺は育ったんだ」  紫月は驚いていたが、そう言われてみればどこか自分たち凡人とは違う雰囲気を持ってると思っていたと言って、曖昧な微笑をみせた。 「お前……転校初日の時からさ、どっか俺らとは違うっつーか、何となく大人びてるっつーか、そんなふうには思ってたけど……」 「――こんな俺を軽蔑するか? それとも怖いと思うか?」  たいがいはそう思われて当然だろう。マフィアだのヤクザだのと聞けば、関わり合いになりたくないと思われても仕方ない。だが、紫月は小さく首を横に振ってくれた。 「んと……裏の世界とか俺にはよく分かんねえけどさ。お前のことを怖えとかは思わねえよ」 「そうか――」  そう言ってもらえただけでも俺は充分うれしかった。

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