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螺旋階段は同じ所を通らない(2)
ライブは終わってみればあっという間だった。また絶対に参戦しようと心に決めていると、宮下がまた真壁の肩を叩いてくる。
「初めてのライブ、どうでした?」
「めちゃめちゃ良かった。次も絶対行きます」
「僕も今回かなり楽しめました。好みの曲が多かったので」
「俺もそうなんです。昔のシングルが好きなんですけど、スパイラルって有名な曲もコアな曲もライブでやってくれるって本当だったんだなあ」
「……真壁さん、今からご飯食べに行きませんか? 僕、まだ喋り足りないです」
「良いっすね。ぜひ行きましょう」
二人で駅近くの洋食屋に入り、あの曲が良かったとかこの曲が好きだとか、尽きない話で盛り上がる。宮下はデビュー当初の曲に詳しくないが、真壁は最近のアルバムの曲を開拓し切れていない。お互いが知らない曲を音楽プレーヤーで聞かせあって、感想を言い合った。真壁には身近にファン仲間がいなかったので、口を開き話を聞く度に新鮮さと喜びで胸が満たされていく。
「真壁さんが勧めてくれたこの曲、すごく良いですね。スパイラルって、切なさと格好良さを併せ持った歌を作るのが本当に上手いよなあ。俺……じゃなかった。僕こういう曲好きです」
「良かった、俺もその曲大好きなんです。あと宮下さん、今プライベートなんで、口調とか気にしなくても良いですよ」
「すみません。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」
宮下と話していると時間があっという間に過ぎていくことに、真壁は驚いた。また時間を作って会おうという話になるのも無理はないほど、宮下との会話は楽しかったのだ。こんな気持ちになったのは久し振りのことだった。この日は連絡先を交換して、お互い笑顔で別れた。
それから、真壁と宮下はプライベートでも会うことが増えた。
宮下の職場は土日祝休みだが、真壁は平日休みが多い。予定を合わせるのは少し難しいので、とりあえず晩御飯だけでも一緒にどうか、と宮下から誘いがあったのだ。
仕事終わりに一旦帰宅して、白黒の細いボーダーのTシャツとデニムに着替え、待ち合わせの駅に向かった。
待ち合わせ場所では、恋人と待ち合わせている様子の女子大生や、サークルか会社の集まりであろう人の輪が不規則に群を為していた。金曜日の夜ということもあり、人の数が尋常ではない。人と待ち合わせて会うなんて一年ぶりだった。何せ、職場の同期とも疎遠になりつつあり、年に一度しか会わないようになったからだ。
人混みの中から長身の宮下を探すのは苦労しなかった。真壁から声をかけると、宮下は人好きのする笑顔を浮かべて、人の群れから抜け出した。水色がかった白のYシャツと黒のスラックスの組み合わせは、月一で店舗に訪れる普段の宮下の服装と何ら変わりない。一般的な会社勤めの男性が身に纏う制服のようなものなのに、細身で長身の宮下には良く似合っている。
そもそも、彼に似合わない服などない気がする。多少の違和感は、爽やかに整った顔の良さでねじ伏せてしまうのだろう。彼ならどんなにダサいTシャツでも無難に着こなしてきそうだな、と真壁は密かに想像した。
向かった先は、野菜を中心とした創作料理が推しの居酒屋だった。菜食志向の女性から密かな人気を集めているらしく、客層は二十代から三十代の女性が半分を占めている。カップルは殆ど見当たらず、友人同士で訪れる客が多いようだ。テーブルと椅子は木目調の柄が入った茶色で統一されており、ディスプレイのガラスケースの中には、パプリカや人参などの色とりどりの野菜達が綺麗に並べられている。
「宮下さん、こういうところよく知ってますね」
「会社の忘年会の二次会で来たことがあるんですよ。料理が美味しかったので、また来ようと思ってたんです」
「へえ、楽しみだなあ。お勧めを教えて下さいよ」
「勿論。この野菜たっぷりアヒージョとレンコンのピザはお勧めですよ」
「レンコンの、ピザ……?」
「ピザにレンコンが敷き詰められてるんです。あの、本当に美味いので、俺のこと信じて頼んでみて下さい」
眉間に皺を寄せた真壁に、宮下は自信ありげな視線を寄越した。
宮下は、「僕のこと信じてやってみてください」という台詞を最後の一押しに使うきらいがある。自分に自信のない真壁にとって、その言葉をトドメに使おうとする精神状態は理解できなかった。
それでも、宮下がそう言うと、少し信じてみようかという気持ちになるのだから恐ろしい話だ。宮下は平時から自信満々の振る舞いをしているかというとそうではなく、普段は腰が低く、謙虚で誠実で穏やかな性格だ。そんな男に信じてくれと言われたら、多少の力になってあげたいと思うのは人の性ではないだろうか。そして、大抵彼を信じて動いてみると、上手くいくことが多いのだ。
なるほど、彼が職場のおば様方に好かれるわけだ。真壁は一人で勝手に納得していた。
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