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転校したいです
うわぁ……緊張するなぁ……
窓から見える紅葉が綺麗な秋の季節。
俺は2年B組の教室の扉の前で高鳴る心臓を抑えようと何度も深呼吸をする。
教室の中からは朝のSHRをやっている担任の先生の声がする。
楠木(くすのき)柚(ゆず)。高校2年は親の転勤の関係で今日から自由(じゆう)学園に転校することになった。
前までは共学だったけど、ここは男子校。
初めての男しかいない世界に不安が募る。
それに、男子校ってヤンキーとか不良が多そうで喧嘩ばっかの怖いイメージしかない。
でもさ、先生とクラスメイトとのやり取りを廊下で聞いてるとそれよりも、もっっっっと不安になる事があるんだけど……
それはーー。
『おいそこ! バイブで遊ぶな!』
『いいじゃねぇか。このイボすげぇ気持ちいいんだぜ?』
『コンドームしまえ! ローターを胸に当てるな!』
『んあ……やべ、イク……』
『イクな!』
な……なにこのアダルトな教室は……
絶対この教室18歳未満入っちゃダメでしょ。
俺、まだ18歳だからクラス絶対間違えてるでしょ。
今日はだいぶ涼しいのに嫌でも変な汗が滝のように流れてる。
「帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい。帰らせてください。お願いします」
手を合わせてお経のように唱えてるとガラッと扉が開く。
まだ若い担任の先生が爽やかな笑顔で、「待たせてわるかったな。入っていいぞ」と促してくる。
……いや! 絶対ダメでしょ!? 今ダメでしょ!?
なんて心の中ではツッコミを入れるも、コミュ障で陰キャの俺は震える口角を釣り上げて頷いた。
そして、セメントで埋められてるんじゃないかってくらい動かない足をどうにか上げて教室の中へと1歩踏み入れた。
い、イカ臭い……
なるべく席の方は見ずに扉の真正面にある窓を見つめ教壇まで行き、数回呼吸を整えてから意を決してクラスメイトの方を向いた。
「ひっ……」
覚悟は出来ていたものの想像を絶するクラスに思わず小さな悲鳴をもらす。
はだけたワイシャツ姿の人もいれば、もはや全裸の人もいるし、バイブを咥えてる人もいれば、シコッてる人もいる。
な、なにこのクラス……羞恥心ってものがないのか……この人達……
顔から血の気が引いていくのがわかり、歯をガタガタさせながら小さく息を吸う。
「く、楠木……柚……です。よ、よよよろしく、お願いします……」
緊張と恐怖が混ざった感情のせいで声が裏返りながらも言い切りお辞儀をする。
顔を上げると、まばらな拍手が起こったと思ったらいつの間にか盛大になり、歓迎ムードになった。
担任の方を見ると微笑みながら何度も頷き拍手をしてくれている。
歓迎してくれてるのに。ごめんなさい。
ーー俺、今すぐ転校したいです。
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