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第28話

「これって……、ホタル、ですか?」 「そう。ゲンジボタル」  小さな光が、ぽつん、ぽつんと灯っている。  優しく息づくように明滅し、ふわりと宙を飛ぶものもある。 「綺麗だ」 「峰松くんは、ホタル初めて見る?」 「はい。でも、こんなに幻想的だなんて」  画像や動画でなら、群舞を見たことがある。  だが、現実に自分の眼で見るホタルの光は、翼の心を大きく揺さぶった。 「毎年この頃になると、飛ぶんだ。三面張りの側溝みたいな小川だけど、逞しいよね」  そして、雨や風のない日を選んで、恋の光を灯しながら飛ぶ。 「昨日は雨がたくさん降ったけど、今日はもうやんだよね。ホタルは雨の多くなるこの時期に、限られた時間の中で精いっぱい輝いて恋をするんだ」  だから、と和哉は翼の肩をぽんと叩いた。 「峰松くんも、雨がやんだらまた輝けばいい。うんと光って、次の恋をするといいよ」 「渡さん」  ありがとうございます、と翼はうなずいた。  僕は大丈夫。  もう、次の恋は始まっているから。

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