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前編

   目を開けると、生成り色の天井と、カフェにあるようなおしゃれな照明が見えた。ベッドに寝転んでいるがここは自分の部屋ではない。 「ようやく目が覚めたか」  そんなセリフ、ドラマとか映画でしか聞いたことなかった。  すぐ隣に座る幼馴染みを、まだ覚醒しない頭のままボーッと見つめる。 「(たまき)……俺……?」 「あぁ、死ななくて良かった。護身用のスタンガンでコロッと気絶して起きねぇんだもん。ちょっと焦ったわ」  そうだ、思い出した。  俺は学校からの帰宅途中、急に襲われたんだった。後ろから羽交い締めにされ、口を手で抑えられ、挙げ句の果てには電流を流され気絶した。   「ていうか高校生が普通そんなの持ち歩くかよ! 死んだらどうすんだ!」 「ふっ。状況をよく見ろ伊織(いおり)。ギャンギャン吠えている場合じゃないだろ」  ハッとして、両手を拘束されていることに気付いた。  頭の上にある両手は手錠が嵌められていて、うまいことヘッドボードに固定されている。何度か引っ張ってみるが外れる様子はない。 「なんだこれ! 外せよ!」 「素直に謝れば外してやる」 「はぁ? 何を謝るって?」 「とぼけるのか。まぁいい。すぐに分からせてやる」  環は仰向けになっている俺の体に馬乗りになって見下ろした。  俺はぞくっと身震いした。  環、めっちゃキレてる。その理由に心当たりはあるといえばある。たぶんあのことだろう。  案の定、環は俺のネクタイを解いて、シャツのボタンを上から順に開けていった。耳まで熱くさせながら、俺は顔を背ける。 「やっ……めろよ」  全てのボタンを外し終え、シャツを左右に開いた環は、俺の首の下を人差し指で押した。 「これ、誰にやられたんだ……?」 「む、虫刺され」 「こんなところを? 今春だけど?」 「虫は年中いますっ」  子供みたいな言い訳をすると、環の機嫌がますます悪くなってくる。  学校では、怒りや妬みや恨みなんて言葉とは無縁ナンバーワンだと言えるくらいに優しくて穏やかな環。  それは表の顔。  本当の環は、口が悪くて俺に対する束縛がひどい。昔からずっと一緒にいるからか、俺を自分の所有物みたいに思っている節がある。例えばこんな風に、俺が親友にキスマークを付けられただけでも怒り狂ってしまう。  乳首をぎゅっと摘まれて、ひぁ……っと変な声が漏れた。 「とぼけるのもいい加減にしろよな…。俺、見てたから。教室からお前らのこと」  俺はその時、環のいる校舎の下で親友と弁当を食っていた。  その時にちょっと仲良くしていたところを見られていたようだ。 「だからなんだよっ……俺っ、別にお前の恋人なわけじゃ……」 「友達にキスマーク付けられるのは許すのに、幼馴染みの俺がこういうことをするのは許さないってか?」  それって矛盾してるよねぇ。  環は言いながら、俺の乳首をグニグニとこね回した。つねったり、指の腹でこすったりされるとあっという間に脳が蕩けてくる。  足の間がジンジンと痛くなってきて、早くこの痛みを取ってほしい衝動に駆られる。  だがそれは、イコール環に触ってほしいと願うことで。  それはダメだ。乳首とそこからなるべく意識を逸らすように、下唇を思い切りかんで声を殺した。

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