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落ち穂拾い

「あー……でろでろに甘やかして、喘がせて、感じさせまくって、わけわからないこと口走るくらい蕩けさせてだらしなく開いた口に突っ込みたい」  計都は買い出しでおらず、客もいない店でいきなり呟くと、壱はまるで獣を見る目でこちらを見てから、「あ、雇用主だったんだ!」と言う表情をし気を取り直したように返事をしてくれる。 「ナニを?」  日本語は本当にうまく出来ていると思う。  カタカナで受け取るか漢字で受け取るかだけで印象が違うもんな。 「野菜炒め」 「あ……そっちですか」  光に透して汚れを確認し、次のグラスに手を伸ばした壱はさしてオレの話に興味はなさそうだ……が、雇い主の特権で愚痴の一つくらい聞いてもらってもいいだろう! 「野菜ジュースでもいいんだけど、ちょっとでも葉物が入ると勘付くんだよ」 「野菜を食べさせるレパートリーが尽きたんですか?」  返事を返してくれるけれど、口調はホント付き合いで仕方なく と言った感情が滲みまくっている。  冷たくないかなぁ⁉︎ 「うん、カレーばっかも良くないだろう?和食は食いつきが悪いからついつい洋食になるんだけど、野菜が少なくなるし味付けも濃くなっちゃうからさぁ、濃い味に慣れるのも良くないだろ?」 「ママですね」  人がちょっと気にしていることをズバッと言うのはー……壱の良いところだと思う。  きっとそう! 「そうなんだよー聞いてくれる?参考に育児書読んでたら隠し子かって責められてさぁそーじゃないんだって!」 「そこで育児書読む辺りが恭司さんですね」 「もうっだってっ  育児だろぉぉぉ」  生活のマナーを教えたり、  好き嫌いを治したり、  リズムのある生活させたり、  健康を考えたり、  公園デビュー は、違うな。 「あー……あれですよね、カクテルのレシピもアレでしょ?牛乳にレモンってカルシウムに吸収補助を考えた骨折対策でしょ?」 「あ、バレた?」 「まぁ、……あ いい案ありますよ。うちの弟もこうすると良く食べてくれるんですけど……」   『ちょっとデコったりすると食べてくれたりとか、ありますよ』  と、アドバイスをもらったのに、どうしてこううまくいかないのか…… 「それはね、キョウちゃんのデコが本気のデコ過ぎるからだよ」  一瞬花束に見間違うそれは、ダイコンやニンジンで作られた花だ。  デコってこう言う事だろう? 「だめか?  この蝶なんか傑作だと思うんだけど……」 「タクミのワザだね」  今にも飛び立ちそうなそれは薄い羽根も繊細な触角もちゃんと再現しているし、花を包むリボンやレースも再現してみたが、計都は感情の籠らない顔で眺めているだけだ。  これは   ダメ だったのか…… 「器用貧乏って言われる?」 「よく言われる」  …………育児って、難しい。     END.

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