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第44話 誕生日
「先パ~イ!」
今日は先輩の誕生日。
僕と先輩はまず、リバイバル映画を見る事にし、映画館で待ち合わせた。
先輩の選んだ映画はどういう事か、お父さんが初めて主演したリバイバルの物が来ていたので、それを観る事に。
僕は今まで、お父さんの映画を一度も映画館で観たことが無かったので、
自分の父親の映画を、映画館で観ると言うのはどうにもくすぐったかった。
「あ、要君、こっちこっち。」
そう言って先輩は大手を振って自分の待っている場所を知らしてくれた。
人ごみをかき分けて、先輩の所まで来ると、先輩は何時のも様にニコニコとしてそこに立っていた。
先輩を見ると、やっぱり好きだな~と思ったけど、もっと穏やかな、変わった感覚へと変わりつつあった。
僕は先日のやり取りを凄く心配したけど、佐々木先輩が良いように説明してくれたのか、矢野先輩は
その事については、一切僕に振れなった。
僕の父親は芸能プロダクションを経営する祖父の元に、生まれ、小さい時から芸能界に所属していたが、
本格的に活動を始めたのは16歳になってからだった。
この映画はその処女作、変装ヒーローものだった。
お父さんの変装癖はもしかしたら、ここから来ているのかも知れない。
「先輩がヒーローもの好きだなんてちっとも知りませんでしたよ!」
「ヒーローものと言ったら小さい子たちの憧れでしょう?要君も憧れたりしなかった?」
「僕は余りヒーロー物見たこと無いですね~」
「えー!小さい子達ってヒーロー物見て育つでしょう?」
「僕はピアノを習わせられました…テレビはあまり見なかったですね~。ま、ピアノは向いてないって分かって辞めたんですけどね。
そのおかげで絵を始めました!あの頃は絵ばっかりかいてましたね~。でも、そのおかげで先輩に会ったので良しですね!」
「要君はお父さんの様に芸能界に入ろうとは思わなかったの?」
「僕がですか?」
「うん、要君、奇麗な顔してるし、芸能界だったら、秘密裏にお父さんに守ってもらえたんじゃないの?あんなに要君の事溺愛してるお父さんだし…」
先輩の的確なその言葉に、僕は只、苦笑いするしかなかった。
「僕はダメですね。人前に出るの恥ずかしいし…」
「あ~要君ってそんな感じだよね。」
「先輩は人前に出たりとか大丈夫なんですか?」
「え?僕?僕は全然平気。逆に沢山の人と話する事好きだしね。」
「先輩もそんなかんじですよ!」そう言って僕は笑った。
「じゃ、そろそろ行こうか?もう映画も始まるし。はい、チケット。」
「え?先輩もうチケット買ったんですか?いくらでしたか?ここは僕が払います。何てったて先輩の誕生日ですからね。」
「いや、ここは僕が払っておくよ。このあと要君の家で食事をごちそうになるからね!」
そういって先輩はウィンクをした。
「じゃあ、ここはお言葉に甘えて…」
そう言って僕はお辞儀をした。
「あ~そう言えば、おめでとう言ってませんでしたね。
先輩、お誕生日おめでとうございます!
18歳か~何か今までと変わりましたか?」
「う~ん1日じゃそんなに変わらないけど…」
「けど…?何ですか?」
「もう親の許しなく結婚できるんだよ。」
と先輩は目配せした。
それに僕はちょっと気恥ずかしい気持ちになった。
「要君はお父さんの映画ってよく見るの?」
先輩が座席に着きながら訪ねてきた。
「そうですね~お父さんが出た作品は全て家のシアターで上映するので家族総出で見ますよ。」
「あ~あの部屋だね。お父さんのポスターがいっぱい張ってある!」
僕はハハハと笑いながら、「そうで~す。」と答えた。
「家族総出って、要君とお母さん?」
「はい、あと、僕の両親のお祖父ちゃんとお祖母ちゃん。それと叔父さんや叔母さん、従妹たちも皆集まりますよ。」
「それは楽しそうだね~」
「はい!お祖父ちゃんも、お祖母ちゃんも、従妹たちも皆僕に甘いんです!」
「従妹たちって同じくらいの年?」
「いいえ、皆小学生ですよ。」
「そうなんだ~。若いのに頼もしいね。」
「そうですね。家のお父さんの方は皆αなんです。従妹たちも皆αで、本能なのかΩな僕を守ろうとしてくれるんです。
そんな彼らが僕は大好きで…」
「要君って本当にいい家庭で育ったんだね。」
僕は先輩の方を向いて思いっきり微笑んで、「はい!」と答えた。
それくらい、僕は僕の家族が大好きだった。
そうこう話しているうちに館内が暗くなり、予告が始まった。
予告は、今お父さんが撮影している映画の予告だった。
僕はまだ今撮影中の映画については聞いてなかったので、へ~こんな映画だったのか~と思いながら見た。
映画が始まったのと同時に、先輩が僕の手を握って来た。
え?
先輩、座席のアームレストと間違ってる?
館内に入る前に買った飲み物を探してる?
それとも僕の手だとちゃんと分かってる?
え?
え?
えええええ~?
僕は先輩の方を少しチラッと見た。
でも先輩は涼しい顔をして予告を見ている。
やっぱり僕の気のせいかな?
自意識過剰?
増々訳が分からない。
僕はもう一度先輩の方をチラッと見やった。
でも、先輩は涼しい顔をしてスクリーンを見ている。
緊張でジトジトと手に汗が滲んで来始めた。
僕は居たたまれなくなって先輩の方をあからさまに見た。
先輩は僕に涼し気にニコリとほほ笑んで、更に僕の指に先輩の指を絡めて、
「どうしたの?もうすぐ始まるよ。」
そう言ってスクリーンの方を向き直した。
絡めた指はそのままにして。
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