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第59話 お父さんと矢野先輩

「お父さん! いくら矢野先輩が優しくしてくれるからって 甘えすぎじゃない? その前に僕にも、 矢野先輩にも、 佐々木先輩にも、 言うことあるでしょう?」 そう言うと、お父さんは少しシュンとして、 「ごめんなさい」 と小さくなって言った。 「要君、良いじゃない! お父さんも反省してるみたいだし。 お母さんも来るって事だから 今回は御相伴に与ろうよ!」 そう言って矢野先輩も楽しそうだ。 「ほら、そこの君もどうかい?」 そう言ってお父さんは佐々木先輩にも声を掛けていた。 佐々木先輩はチラッと矢野先輩の方を見て、 「いえ、折角のお誘いですが、 生徒会の仕事が残っていますので、 これで失礼致します」 そう言って、僕達を後にした。 「かっこいい子だね~ 颯爽として…… 僕の若い頃にそっくり! 彼、αでしょ? それもとびっきり強い!」 お父さんがそう言ったので 僕はびっくりしたようにして お父さんの方を見た。 お父さんは腕を胸の前で組んで、 片方の親指と人差し指で顎を支え、 「見てよ……ほら! 彼、怒ったオーラ丸出しだね。 いや~ 怒られなくてよかったね。 くわばら、くわばら これからは気をつけるよ~ でも、高校生の内からああいうオーラ 出せる子が居るんだね~ いや~ びっくりしたよ~ 彼は将来大物になるだろうね~」 と感心している。 僕はお父さんのそんなセリフにびっくりして、 「分かるの? 佐々木先輩が強いαって分かるの? どうしてお父さんには分かるの?」 と聞くと、矢野先輩が 「αだから他のαが分かるって事もあるけど、 要君のお父さんってかなり凄いαなはずだよ。 気付いた事とかない?」 と尋ねてきた。 びっくりしてお父さんの方を振り向くと、 お父さんは只ニコニコとして、 「いや~ 僕はそこまでも~ でも照れるな~」 とまたバカみたいな事を言っている。 僕は小さい時から、 変装癖のある、 どこからどう見ても、 変なおじさんにしか見えないお父さんしか知らないので、 矢野先輩のコメントには腰を抜かすほどびっくりした。 以前お父さんから、α社会には、 弱肉強食の世界があるとは聞いていたけど、 お父さんは普通のαだとずっと思っていた。 でも、所々で、そう言う節はあったかもしれない。 特にお母さんや僕が絡むと。 僕は矢野先輩の方をみて、  「今日の100M走の走りを見ると、 もしかして先輩も隠れパワフルαとか?」 と尋ねると、お父さんと先輩が顔を見合わせて、 お父さんが先に 「矢野君からは凄く柔らかいオーラがしてるよね」 と言った。 「それ、どういう意味?」 と僕が尋ねると、矢野先輩が意味深に、 「どういう意味なんだろうね?」 と微笑んで言った。 お父さんは只、ニヤニヤとして僕と矢野先輩を見ていたけど、 僕は思い立ったようにして、 「あ、僕、佐々木先輩にも もう一度謝罪に行ってきますので、 矢野先輩、お父さんを父兄席に案内してください!」 そう言って、僕は生徒会役員席のテント目掛けて走り出した。

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