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第70話 気のせい?
「要君は何があっても僕の特別だよ。
僕にとっての要君って、
一緒に居ると楽しいし、
話も合うし、
何より、一緒に居て安心するんだ」
先輩のその言葉に、
少なからず僕の体温が少し上昇した。
「じゃあ、僕は先輩にとって……」
もし僕と同じ思いだと言われたら、
どうしよう?
別にそうだったからと言って、
佐々木先輩と付き合うと決めた僕には、
どうなると言う事でもなかったけど、
正直に言うと、少なからずの期待はあった。
「うん、もう、本当の弟の様に
可愛くて大好きで。
全てのものから
君を守りたいと思ってるんだよ」
あ……やっぱりそこか。
「ねえ、要君、お願いだから、
僕に隠し事はしないで。
今にでも君が僕から
離れていきそうで不安なんだ」
何故先輩は僕が先輩を離れる事に
こんなにこだわるんだろう?
そんなことは絶対ないのに。
何時かお互いに恋人が出来ても、
結婚しても、先輩はずっと
僕の特別な人なのに……
でも僕は思った。
きっと今が、
佐々木先輩とのことについて
伝える良いチャンスだ。
勇気を噛みしめて僕は口を開いた。
「実は僕……
少し前から佐々木先輩と
付き合っているんです!」
下を向いて、目を閉じて、
思い切って言った。
そこには沈黙があった。
僕は片目を開いてそっと
先輩の方を伺った。
先輩は少し悲しそうな顔をして、
「それって好きだから付き合ってるの?
僕の事はもう好きではないの?
……それとも彼が運命の番だから?」
先輩が僕と佐々木先輩が
運命の番だと知っている事に、
少なからずのショックを覚えた。
「先……輩……
佐々木先輩が僕の運命の番だと
知っていたんですか?」
先輩は少し悲しそうに
微笑んで、
「まあ、ここまで
“匂い”
が絡みついてくればね……」
そうか……
そうだよね……
先輩、匂いに最近敏感になってたよな。
「僕も最初は分からなかったんです。
でも、佐々木先輩の傍に居ると
何時も心地いいんです。
あの匂いを嗅ぐと、
先輩とは違った意味で安心できて……」
「それは裕也を好きだって意味で?
それとも裕也のフェロモンが
そう思わせてる?」
僕は少し戸惑った。
先輩は僕の事を、
僕と同じ気持ちでは見れないのに
何故、先輩の口からは
僕と佐々木先輩を
とどまらせるような感じで
返ってくるんだろう?
「いえ、僕は先輩の事は今でも大好きです。
でも、やっぱり僕の目標は
僕だけの番を見つける事だから、
前を見て進んでみようと思って。
何か変わるかもしれないし……
佐々木先輩も矢野先輩が好きな僕を
受け入れてくれるって言ってくれたし。
それに掛けてみようと思ったし、
先輩も僕に可能性があればって
言ってくれたじゃないですか!」
僕はそう言って先輩をじっと見た。
すると先輩は腕を組んで下を向いた。
「うん、実は後悔してるんだよね……」
ボソボソと小さな声での、
独り言の様だったが、
僕には先輩がそう言ったように聞こえた。
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