85 / 201

第85話 お母さんと恋バナ2

「先輩の家って、ほら、 事情が事情じゃない? 凄く厳しいみたいだし、 多分僕と付き合う事には 凄く障害があると思って…… やっぱり僕の目標は、 運命の番を見つける事だったから、 先輩が居てくれたことは凄く嬉しいんだけど、 僕の感情が揺れたりする事で、 先輩の心に負担をかけているんじゃないか? とか、折角始めようとしているのに、 色んな事が雁字搦めになって、 僕の事、重荷に感じたりしないかな?……とか、 その内、やっぱりダメってなったりするんじゃ?…… とか、始める前から、 負の感情がどんどん、どんどん出てきちゃって……」 お母さんは最後のお皿を 洗浄機に入れた後、 手を拭いて、僕の手を取った。 そしてリビングルームまで連れてきて、 「はい、ここに座って」 そう言って、ソファーに座るよう誘った。 「お茶入れるけど、何が良い? 恋バナは僕の大好物だから、 ちょっとゆっくりと話してみない?」 そうお母さんに言われて、 そっか、恋バナ…… ちょっと恥ずかしいけど、 そうだな。 お母さんは経験者で、 運命の番を見つけた大先輩だし…… そう思って、 「じゃあ、もう遅いから、 ジャスミンティーで」 とお願いした。 10分くらいしてお母さんは、 ジャスミンティーを、 ミルクと、ハチミツと一緒に持ってきた。 そして僕の隣に腰かけて、 「要は佐々木君の事、 恋愛の意味で好きなの?」 と聞いてきた。 僕はその質問に少し困惑した。 そして色んな感情が渦巻きだした。 「僕、佐々木先輩といると、 凄く安心するものがあるんだ。 矢野先輩とは違った安心感で、 凄く好きって思いもあるんだけど、 それだけでは無くて、 何と言ったら良いか分からないけど、 矢野先輩には感じたことの無い思いが、 自分自身を駆け巡る時があるんだ」 お母さんは少しうつ向いて、 考えたようにしていたけど、 「僕達、あっ、僕と、司君ね、 要と矢野君がくっつくとばかり 思っていたんだけど……」 と言いかけて、深呼吸して、 「多分、司君は何も感じなかったと思うけど、 多分僕が、要の産みの親で、 男性のΩなせいかね、今日のお昼に 佐々木君と握手をした時に分かったんだよ」 「え? 何が分かったの?」 僕は興味津々に聞いた。 「彼のフェロモン」 それがお母さんの答えだった。 「佐々木先輩のフェロモン?」 僕はあまり意味が分からなかった。 「勿論僕は司君の番だから、 他の人のフェロモンに 反応することは無いんだけど、 やっぱり、年頃のΩの 男の子を持つ親としてなのかな? αってね、ラットを起こすか、 自分で意識して発しない限り、 余りフェロモンって出さないんだよ。 でもね、佐々木君、フェロモン出てたんだよ。 今日のお弁当の時。 僕、そのフェロモンにピピピと アンテナが立ってね。 それまで、要と矢野君が良い雰囲気だと 思ってたから、急に出てきた佐々木君に まさかって思って……」 僕はお母さんのその言葉にびっくりした。 「お母さん、先輩のフェロモン、分かったの?」 僕がそう聞くとお母さんが、フフンと笑って、 「彼、要の隣に居たじゃない? もう、オーラって言うか、フェロモンが出てるの。 要、好き好きって言う」 「え~ 僕、全然そんなの分かんなかったよ?」 僕がそう言うと、 お母さんは自信満々気で、 「そりゃ~ 年季が違うからね。 司君の何度も見てるし、嗅いでるし!」 「え? お父さんの?」 「うん、今でこそあんなアホみたいにしてるけど、 そりゃあ、高校時代は凄かったよ! これ、今では信じられないかもだけど、 高校時代の司君は、 どちらかと言うと佐々木君に似てるかも。 今でこそ雰囲気は矢野君にそっくりだけどね。 高校時代はお父さん、生徒会長もやってたからね~」 その『生徒会長』という事に僕は更にびっくりした。 今まで、そう言う話を聞いた事が無かったからだ。 「お父さん、生徒会長だったの?」 「そうだよ。 成績も、学年主席だったし、 スポーツも堪能でね。 凄くモテたんだよ。 既に芸能活動やってたし…… 僕達、入学式の時に 運命の番だって分かったんだけど、 実際に付き合うまでは 色々とあったよ。 僕達の時代は、いくら男性のΩが 子供産めるって言っても、 今よりも同性婚に理解が無かったし、 ましてや、Ωは男性だけではなく、 女性でも忌み嫌われていたからね」 「そうなんだ~ お父さんって凄かったんだね。 そんな時代のお父さんの事知らないから、 想像出来ないや~」 「ハハハ、そうだよね。 今では要命の変態オジサンだもんね。 でも、僕が高校生最後の時期に妊娠しちゃったから…… 司君には苦労させちゃったけどね 特に僕達が卒業するまでは 僕の妊娠や、司君との関係が 世間や学校や皆にバレない様に そりゃあ、司君、僕を凄い守ってくれてね。 公に出来ない関係の分、 凄く苦労したと思うよ」 「そうか~ お父さん、 僕達の為に凄い頑張ったんだね。 だから今の僕の居場所があるんだよね。 僕、凄く幸せだから、 時々、お父さんとお母さんの苦労を忘れてしまうよ。 でも何時も、お父さんとお母さんが凄く僕を愛して、 守ってくれてるって事は痛いくらい凄く分かるよ」 僕がそう言うと、 お母さんは僕を強く抱きしめてくれた。 「要にそう言ってもらえると、 凄く励みになるし、 凄く嬉しいよ。 だけどね……」 お母さんの表情が少し曇った。

ともだちにシェアしよう!