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第87話 次の日の朝

次の日の日曜日の朝は 少しどんよりとしていた。 天気予報では、お昼から雨になるらしい。 僕はベッドルームの窓から外を眺めた。 僕の心も少し曇り空だった。 昨夜の先輩たちの会話が、 気になって、気になって仕方なかった。 果たして先輩たちは 僕に詳しい事を話してくれるんだろうか? 20分後には矢野先輩と公園で待ち合わせしている。 この20分が過ぎるのはとても遅い。 何だか1秒ごとに時計を見ているような感覚だった。 今日は両親は早朝から、 それぞれ仕事で出かけている。 家は静かな物だった。 それがまた、時間をスローに感じる手助けをしていた。 僕はやっと回って来た時間に、 ドキドキとしながら家を出た。 エレベーターを降りてマンションのビルを出ると、 矢野先輩がマンションの入り口の所に立っていた。 僕はびっくりして先輩の所まで駆け寄り、 「おはようございます! 今朝はどうしたんですか? 公園で待ち合わせだと思ったんですが……」 というと、先輩はニッコリと微笑んで、 「うん、少しでも早く、要君に会いたかったんだ」 と答えた。 うん、こんな日の先輩もあるよな。 いつもと変わらない、変わらないと 自分に言い聞かせながらも、 僕は佐々木先輩との昨日の話し合いについて 聞いても良いのか迷った。 「今日はお昼から雨になりそうですね。 早く体育祭の方付けが終わればいいですが……」 僕がそう言うと、 「多分、2時間くらいで終わるよ。 毎年そうだからね。 ねえ、明日は振替休日だから、 どこか行かない?」 と先輩が聞いてきた。 僕はとりあえず、何の予定も無かったので、 「いいですね~ 行きましょう! 何をしたいですか?」 と尋ねた。 「要君は何かやりたいことある?」 そう先輩が尋ねてきたので、 少し考えてみたけど、 余り外に出かけたりしたことの無かった僕は、 全然アイデアが思い浮かばなかった。 「う~ん、 思いつきませんね~」 そう返すと、 「じゃあ、僕、何か考えておくよ。 今夜メッセージするね。 明日はちゃんと開けておいてね」 と言われたので、 「オッケ~で~す」 と答えた。 暫く観察してみたけど、 先輩の態度は余りいつもと変わらない。 僕が昨日尋ねた、 “好きな人は同じ人?” に対する答えは出たのだろうか? 恐らく出たのだろう。 いつもと変わらないながらにも、 僅かにすっきりとしたような感じさえ受ける。 でも先輩はまだ何も僕に教えてくれない。 余り、突っ込んで先輩のプライバシーにも 触れたくなかったので、 心は早ったけど、 先輩の好きな人が分かったからと言って、 どうこうなるものでもなかったので、 僕は先輩が自分から話してくれるのを 待とうと思った。 そう思っていた瞬間先輩が真面目な顔をして、 「ねえ、要君……」 と声を掛けてきた。 僕はこのパターンと雰囲気は…… と思った時、 「昨日要君が聞いてきたでしょう? 僕の好きな人が今でも同じかって…… ちゃんと覚えてる?」 といきなり本題に入ったので、 僕は心臓が急にバクバク言い始めた。 僕は先輩の顔が見れなかった。 昨日は何だか勢いで聞いてしまったけど、 一晩経った今となっては、 何だか気まずさだけが僕の中を駆け巡った。 そして早くも後悔しし始めた。 何故僕はそう言う質問をしてしまったのだろう…… 「あ~…… そうですね~ そんなこと聞きましたよね…… すみません、不躾に先輩のプライバシーに…… 話したくなければ、良いんですよ」 僕は咄嗟に先輩にそう答えた。 先輩はニコニコして僕を見ながら。 「イヤ、大丈夫だよ」 そう言った後、 ラジオ体操の様にちょっと手を挙げて ストレッチした後、 「僕の答えはね、今の僕の好きな人は、 あの頃要君と話した人とは違うよ」 と言った。 そして続けて、 「僕ね、やっぱり恋愛音痴だったみたいでね、 憧れと恋を混同していたみたい。 昨日裕也と話をしていて、それに気付いたのさ。 今では自分が誰に恋をしているのか ハッキリと分かったよ。 これは情とか、憧れとか、 そんなあいまいな物じゃないよ。 僕はハッキリと、今好きな人が誰だか分かった! ま、裕也に指摘されなければ 分からなかったかもしれないけど、 何だかすっきりしたよ!」 と先輩が言ったので、 僕は心臓が破裂しそうな程脈打った。 僕は先輩のその言葉を聞いた時、 恐らく先輩から見れば、 凄く挙動不審だっただろう。 頭の中が真っ白になって、 これほど自分の昨日の行動を 後悔したことは無かった。 人は知らないままでいる方が良いって言う言葉を、 思いっきり体験した瞬間だった。 そして次に僕に沸いた質問が、 “それは誰?” でも僕は聞けなかった。 そして、本気でそれが誰なのか、 知りたくないと思った。 でも僕の願いとは裏腹に先輩が、 「それで、 僕の出た答えなんだけど…… 僕の本当に好きな人ね……」 そう言ったので、僕は “言わないでください!” と言おうとしたけど、金縛りにあった様に 動けなかったし、ましてや、 何かを言うよう口を開くことも出来なかった。 でも先輩は僕のそんな状況はお構いなしに 言葉を発し始めた。 「僕の好きな人はね……」 僕はギュッと目を閉じて、 どうにかして耳を塞ごうと思った。 でも、先輩の答えは、 「ひ・み・つ!」 だった。 え? え? え~? ここまで言ってそれ? でも良かった。 先輩の取り計らいに、 こんなに感謝をした事はない。 でも、全身の力がどっと抜けて、 僕は一気に疲れが出てしまった。 そんな僕を先輩は見ながら、 意味深に笑って、 「ほら、もうすぐ予鈴なるから急ごう!」 そう言って、学校の門まで僕達は急いで走った。 急いで学校まで走ると、 今度は門の所に佐々木先輩が立っていた。 僕は先輩の顔を見て凄くホッとした。 でも、それは束の間の感情だった。 矢野先輩とは裏腹に、 佐々木先輩の態度は、変だった。 何処から見ても、あからさまに、 僕に対してよそよそしかった。

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