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第105話 部活の後で
「ごめんね、結局僕も一緒に行く事になって……」
「本当だよ。
お前、邪魔、邪魔。
帰れ、帰れ!
普通、恋人のデートに割り込むか?
それも出来立てホヤホヤの……
折角二人っきりになれると思ったのにな」
「あ、それ言ったら、俺もお邪魔ですね~」
「ちょっ…… せ、先輩!
それはちょっと率直すぎやしませんか?」
「ハハハ、裕也をからかうのは楽しいしね。
僕はどこまでも邪魔するよ〜
それに独り身の僕をもっと労ってもらわないと!」
矢野先輩もどこまでもマイペースだ。
結局僕達のランチは、
矢野先輩と青木君も交えていく事になった。
それはそれで、二人きりで行くよりは、
カモフラージュになって良かったんだけど、
佐々木先輩はそうでもないらしい。
そして、体育館を去る時のマネージャーの先輩も
佐々木先輩を誘いたそうな感じだった。
彼女はこの夏休みの間に
佐々木先輩と、まとまりたいらしく、
執拗に一緒に出掛けようとか、
ご飯食べに行こうとか誘っていた。
だから矢野先輩が、マネージャーの先輩を遮った様にして、
「奥野さんとこのカフェにランチしに行こうよ!」
と提案してくれたことは、
僕的にはナイスだった。
それも、自分も一緒に行きたいと言ったマネージャーの先輩を、
やんわりと、それでも的確に断ってくれたことは凄かった。
そうやって見ていると、
矢野先輩は僕意外の人には容赦ないかもしれない。
本当に他の人が言うように、
僕には甘いんだと言う実態を垣間見るようになってきた。
「先輩は奥野さんとこのカフェは初めてですよね?」
「お前がバイトするところだよな?」
「そうです。
カフェの雰囲気が凄く良いんですよ。
隠れ家みたいだし、
居るだけで凄くリラックス出来るんです!
外庭にもテーブルあるし!
先輩も絶対好きになりますよ!
それにパスタが凄く美味しいんです。
チャーハンもお勧めかな?
や、ピザもいけるかな?
どうしよ~ 悩みますね」
「アハハ、要君は食いしん坊だからね~」
矢野先輩が笑ってそう言うと、
佐々木先輩はむくれた様にして、
「なんでお前が俺よりも要の事しってるんだよ!」
と、ブーブー言っていた。
矢野先輩も矢野先輩で、
「フフン!
当たり前でしょう?
入学した時から一緒にいるしね?
それに一緒にお風呂にも入った仲だもんね~」
と更に佐々木先輩を煽っている。
僕もつられて、
「あれは星が凄い綺麗でしたよね〜」
と、別に佐々木先輩を嫉妬させるつもりはなっかたけど、
先輩をちょっとむくれさせてしまった。
そんな先輩を見て矢野先輩は、
「僕、裕也も一緒に行こうって誘ったでしょう?
行かなかったのは裕也じゃない」
と助言をしてくれた。
「お前なー
ゴールデンウィークなんて
運動部にとっては
書き入れ時だぞ。
行けるわけないだろ!」
「書き入れ時って、それ、使い方間違ってない?」
「良いんだよ!
意味さえ通じれば!」
佐々木先輩はブーブー言いながらも、
僕の方を向いて、
真剣なまなざしをして、
「要、この夏休みには
一緒に旅行するぞ!
インハイ終わったら直ぐにな!
浩二には内緒でな!」
と負けじと提案してくる。
内緒も何も、先輩の前で言ったら
それこそダメなんでは……
そう思いながら、
「ちょっと~ 二人とも、
変な事で競い合わないで下さい!
子供みたいですよ!」
僕がそう言うと、青木君が束さず、
「あれ? 魚が跳ねて興奮してたのは誰だっけ?
アメンボ見つけて興奮してたのは誰だったっけ?
どっかの小学生だったかなぁ?」
と、横から不意打ちを掛けたので、
佐々木先輩が目を輝かせて、
「何の話だ?
詳しく説明!」
と尋ねていたので、
青木君が丁寧に僕が言ったとおりに説明していた。
そしてそこは佐々木先輩の反応も子供か!と、同じだった。
カランカランとドアの開く音がして、
「あら、皆んなお揃いでどうしたの?」
と奥野さんが挨拶にやって来た。
「今日は偶然皆んなが学校で顔合わせになったので、
せっかくだからカフェに行こうってなって。
お邪魔します」
僕がそういうと、
「全然かまわないよ! 来てくれて有難う。
どこに座る? 外に行く?」
と聞かれ、矢野先輩が、
「今日はお天気もいいしそうしようか?」
と言ったので、僕たちは外のテーブルに座る事にした。
奥野さんも、お昼と生じて、僕たちと一緒にランチする事にした。
「ね、ね、聞いて。
うちのバイトの大学生、あなたたちの事、
イケメン集団っていってたよ。
ま、猛は置いといてだけど」
と奥野さんが冗談の様にいうと、
奥野さんの叔父さんがまた後ろから、
「またお前はそんな事を。
自分のボーイフレンドを卑下するんじゃありません」
と嗜めていた。
「あ、今日わ!
今日はお客でお邪魔します」
そう挨拶すると、
「いらっしゃい。
バレー部はインハイだそうですね。
おめでとう御座います。
今日はゆっくりしていって下さいね」
とわざわざ挨拶に来てくれた。
「森野さんは青木くんに会ったことはあるんですか?」
僕が尋ねると、
「もう、何度も来てくれてるよね。
瞳はこう見えても猛君にゾッコンだからね。
それに猛君もイケメンだよ」
森野さんがそう言うと、奥野さんが真っ赤になって、
「ホラ、叔父さん、忙しいでしょ!
カウンターに戻って、戻って!」
と急かしたので、森野さんは
「それじゃ」
と言って、カウンターに戻って行った。
森野さんがカウンターに戻って行った後は、
僕たちはニヤニヤとして2人を眺めていた。
そんな僕たちを奥野さんは、
「ちょっと〜
変な想像しないでよ!」
と言ったので、僕は今朝マネージャーの先輩と話していた時に
ふと思った事を思い出して、僕の方が少し恥ずかしくなった。
それを打ち消す様に、
「あ、でも、青木君も話さなければ
とてもカッコイイと思いますよ」
と僕が言うと、青木君は、
「話さなければってどう言う意味だよ〜」
と笑っていた。
でも僕は本当に青木君はかっこいいと思う。
βにしておくのは勿体無いくらいカッコイイと思う。
背も高いし、スポーツもできるし、
勉強はそこまで無いけど、
愛嬌があって話し易いし。
奥野さんは本当に見る目があると思う。
僕はこのメンバーが大好きだ。
このメンバーで集うのは、凄く心地がいい。
僕が佐々木先輩と付き合ってるの知ってるし、
Ωである事も知ってるし、
皆気さくなので、取り繕う必要も無かったので、
とても楽に呼吸ができた。
高校に入る前は、
こんな日が来るとは思いもしなかった。
この時間がずっと続けば良いと願っていた。
でもこの時は、
この時間が長くは続か無い事を、
僕は知る由もなかった。
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