113 / 201
第113話 文化祭
「ねえ、要君、一生に一度のお願い!」
先輩がマジな顔をして尋ねたので、
僕は何事だろうと思った。
「何ですかぁ~?
そんな改まって……
一生に一度のお願い何て言わなくっても、
先輩が僕のお手伝いが必要だったら、
何時でも助けますよ!」
僕は何時も先輩にピンチを助けられている。
先輩が助けが必要な時は、
僕は何時でも先輩の役に立とうと思っていた。
「ほんとに?
男に二言は無い?」
先輩はしつこくそう聞いてきた。
そこで僕は、何だか怪しいと気付くべきだった。
「男に二言はありません。
僕にドーンと任せて下さい!」
僕は胸まで叩いて宣言をしてしまった。
「じゃあね、要君にやって欲しい事は……」
ゴニョゴニョゴニョ
先輩は僕にやってもらいたい事を耳打ちした。
「え~~~~~!!!!!
本当にそれ、するんですか?
僕にそれ、やれっていうんですか?」
先輩は鼻でフフンと笑って、
「男に二言は無いんでしょう?」
と言った。
僕は大後悔だった。
でも約束してしまったものは仕方ない。
「絶対、これっきりですよ?
二度目は無いと思って下さい!」
僕が先輩をキッとにらんで言うと、
「オッケ~」
と、それはもう、楽しそうに返事を返してくれた。
「じゃあ、文化祭の午後の部になったら、
僕のクラスに来てね。
絶対このことは誰にも言わないでね。
青木君や奥野さんにも内緒だよ!」
そう念を押されて、僕は、ハイハイと軽く返事をして
自分のクラスへと帰って行った。
気分はちょっと憂鬱だったけど、
最近また矢野先輩と接触で来るようになったので、
どうしても、先輩のお願いを聞いてあげたかった。
どうにかやって気分を高揚させようと思ったけど、
でもこれは…… そう思うと、やっぱり気分は憂鬱になった。
午後が来なければいいのに!
そう思いながらも、僕達のクラスの映画館は人で一杯になった。
映画に来てくれた人には、紙コップに入ったポップコーンや、
ジュースなんかもサービスした。
上映したのは、午前の部は去年話題になったアニメと、
午後の部はお父さん主演のスパイ映画だった。
僕達のクラスは、前売り券が完売したので、
当日券を扱う必要はなく、
数人がポップコーンとジュースの準備に追われただけで、
映画が始まってしまえば、割と暇だった。
僕は映画が始まって何もすることが無いと確認してから、
青木君と、奥野さんと一緒に佐々木先輩のクラスに
お邪魔しに行った。
でも、生憎と行列が出来ていて、
中に入ることは出来なかった。
そんな時、中から、
「要く~ん」
と僕を呼ぶ声がした。
この声は……
と思って中をのぞくと、
やっぱり変装したお父さんとお母さんがちゃっかりと
先輩のクラスのカフェに座っていて、
その隣には矢野先輩もいた。
「ほら、おいで、おいで、
青木君と、奥野さんも一緒にど~ぞ」
そう言って僕達を通してくれた。
青木君と奥野さんはまだ僕の両親の正体を知らない。
何時かは話してあげたいけど、
今はその頃合いを見計らっているところだ。
「お邪魔しま~す。
お久しぶりです!
お父さん、今日もいかしてますね!
やっぱりハンサム臭プンプンですよ!
矢野先輩もこんにちは~」
と奥野さんが挨拶をした。
「ちわっす。
お母さん、今日も奇麗ですね!」
とは、青木君。
僕はそんな二人の事や矢野先輩は差し置いて、
まず最初にキョロキョロ教室内を見回して、
佐々木先輩がどこに居るのか探した。
その度にお父さんが僕の前に
自分の顔を持ってきて遮り邪魔をした。
「お父さん!
何してるの! 邪魔!」
「え~ 単に要君の顔が見たかっただけでしょう!
お父さんにご挨拶はないの~?」
そう言うお父さんの傍からお母さんが、
「佐々木君だったらほら、あそこだよ、
自分の右肩越しに少し振り向いてごらん」
そう耳打ちして先輩の方を指差してくれた。
先輩は丁度僕の右後ろになるところに居て、
僕は少し首を回して、肩越しに後ろを覗いた。
そこには、赤いシャツに白いタイ、
その上に黒のジャケットを着た先輩が
接客をしながら僕に、『見るなよ』とでもいうよな
感じで目配せをしていた。
ホスト姿の先輩はカッコイイ……
身振りも立ち姿も凄く様になっている。
でも……
アクセサリーが全っ然、似合わない……
僕は少し安心した。
思ったよりはイケてないかもしれない……
と思ったのも束の間で、
「私ね、佐々木君が使った後の
アクセもらうことになってるんだ!」
「え~ 旨くやったじゃん、
一体どう言いくるめたの?」
「あれね、私が用意してあげたのよ!
佐々木君、何のアクセも持ってないってだったから、
お兄ちゃんの貸してあげるから、
使った後は返してねって言ったら、
分かったって!
本当は自分で買った新品ものよ!」
「いや~
確信犯だね~
女王様に目を付けられるよ~」
「怖くないよ、あんな自分よがりな女!」
といえば、別の所からは、
「あのジャケットとシャツ、
私が縫ったんだよ。
やっぱり佐々木君にぴったりの色だったよね。
ほんと、すっごい似合ってる!」
「あんた、その特権取るの、頑張ってたもんね~
ズルやってたし!」
「まあね、ちょっとクジに仕掛けしちゃった!
文化祭終ったら、あの衣装、もらうことになってるんだ!」
とか、
「私さ~
佐々木君に後夜祭のパートナー申し込んだんだけど、
断られちゃった~
弥生や良菜や杏なんかも断られたって言ってたよ。
一体どこのどいつがパートナーになるんだろう?
やっぱ優香女王様かな?」
と言った様な会話が聞こえてきた。
「ハハハ、モテる彼氏を持つのもつらいね」
そう奥野さんが僕に耳打ちして来た。
「あっ、やっぱり聞こえましたか?」
僕がそう尋ね返すと、
それを聴き耳を立てて聞いていたお父さんが束さず、
「優香って誰?」
と聞いた瞬間、皆がギョッとする中、
矢野先輩が、
「裕也の婚約者ですよ!」
と素直に答えので、僕達は
え~? 言っちゃうの?
とでもいうように、びっくりした。
そしてそっとお父さんの方を横目で見ると、
案の定、ワナワナとして佐々木先輩を睨んでいた。
ともだちにシェアしよう!