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第171話 ポールから連絡がこない

ポールがリョウさんを追ってフランスを去ってから、 一週間が過ぎた。 ポールからは未だに連絡が無い。 事務所の方では大騒ぎになっている。 ポールは事務所に、 何処へ何をしに行くのか言わずに行ったみたいだ。 まさかそこに僕が一枚噛んでるとはとても言えない…… でも言葉を濁して、 恋人を追っかけて行ったことは伝えた。 1か月たったけど、 ポールはまだ帰ってこない。 連絡もまだ付かないままだ。 もしかして話し合いが旨くいって無い? このころには事務所はポールの休養を発表した。 相変わらずポールとは連絡が取れない。 僕は段々ポールの居ない生活にも慣れてきた。 そして自分に言い聞かせていた。 “便りが無いのは良い証拠!” 暑かった夏もようやく終わり、 世間には秋が訪れ、紅葉の奇麗な季節がやって来ていた。 ポールが去って既に3か月が過ぎようとしていた。 その間、ポールの失踪騒ぎで ポールのスケージュールのキャンセルや、 世間との対応など、 事務所はてんやわんやの大騒ぎだった。 “ポール一体どうしたんだろう…… 連絡も取れないなんて…… もしかしてうまくいかなかったのかな? それを悲観して失踪……? イヤイヤ、ポールのキャラじゃないし! でも…… 僕、余計なことした?” ポールがリョウさんを追いかけて行った頃は 嬉しくて凄く興奮していたけど、 時が経つにつれて、ドンドン心配が頭を支配しだした。 そんなある日、学校で目にした雑誌に出ていた デカデカとしたニュース。 “ポール・クレマン 電撃引退” “えっ? 引退? 何も聞いて無いんですけど? それが事務所の決めた答え?” 僕は急いでシャルロット叔母さんに電話した。 「おばさん、ポールの事聞いた?」 シャルロット叔母さんは興奮した様に、 「カナメ! 良い所に電話してくれたわ。 直ぐに家に来て!」 と僕を呼び寄せた。 僕は取る物も取り敢えず、叔母さんの家へ急いだ。 ピンポン・ピンポンと玄関のベルを鳴らすと、 「要く~ん!」 とポールが僕に飛びついてきた。 「え? ポール?」 僕は突然のポールの登場に腰を抜かす思いだった。 「一体今ままで連絡もしないで 一体どうしてたの?! もうみんな心配して、事務所なんて大騒ぎだったんだよ! で、リョウさんとはどうなったの?」 そう言った途端、リョウさんがポールの後ろから顔をヒョイとだした。 「リョウさん!」 僕はポールを無視して、 リョウさんに飛びついた。 「おっとっと」 とよろめくリョウさんをポールがガッチリと受け止め、 「塩対応な挨拶だな~ 僕は無視~?」 と僕を攻めるように言った。 「塩対応はどっちだよ! 僕、すごく心配で、心配で、 何度も電話したんだよ! どうして返事くれなかったの?!」 そう言って僕はその場でワ~ンと泣き出してしまった。 ポールとリョウさんは僕の所に来ると、 僕を両サイドから、 「連絡しなかったのはごめん、 でもこうやって一緒に帰って来れたのは、 全て要君のおかげだよ」 と僕をしっかりと抱きしめてくれた。 「もう! 凄く心配したんだから! 何故連絡できなかったの?」 「ごめん、本当はもっと早く連絡しようと思ったんだけど……」 とポールが言ったのに続き、 「僕が…… 妊娠しちゃって……」 リョウさんがびっくりするような発表をした。 僕は目が飛び出るかと思うくらいびっくりとした。 「えっ?! 妊娠?!」 「いや~ 実を言うと…… アハハ、まぁ~ あれだな、ずっとリョウがつわりで大変で……」 とポールは恥ずかしいのか、バツが悪いのか言い淀んでいる。 「あれだけ自分たちは終わったの何だのって大騒ぎしておいて、 やることはちゃんとやってたんだね」 皮肉の様にポールに言うと、 「本当に心配させてごめんね」 と、リョウさんが謝って来た。 「リョウさんは良いんだよ~ 僕、リョウさんに会えて凄く嬉しい!」 「ありがとう、僕も要君に会えて凄く嬉しいよ。 ごめんね、僕のつわりが酷くってずっと入院してたから、 ポールもてんてこ舞いで…。 でも、やっとつわりも収まって落ち着いたから、 こっちに戻って来た!」 「うわ~ おめでとう! 凄く嬉しい! じゃあ、これからはこっちに住むの?」 「そうだよ、日本の物は全部方付けて来たよ。 もう一度言うけど、本当にありがとう要君。 これも、全て要君が 最後まであきらめずに頑張ってくれたおかげだよ!」 「ねえ、二人は番になったの?」 そう尋ねると、リョウさんは二人が番になった証を見せてくれた。 リョウさんのうなじがとても誇らしくて、 それを見ると、とても幸せな気持ちになった。 それと同時に凄く羨ましかった。 “これから二人は一緒に幸せな家庭を築いていくんだ……” 「とりあえず日本では籍だけでもと籍は入れて来たんだ。 式は挙げるつもりは無いけど、 知人だけ呼んでパーティーはしようと思って」 「おめでとう! 二人とも本当におめでとう!」 「要君、本当にありがとうね。 これからは僕の事もお兄ちゃんと思って頼ってね」 そう言ってリョウさんはギュッと僕を抱きしめてくれた。 「あ、そう、そう、ポール! 話は変わるけど、引退って一体?????」 と僕はここへ来た最初の目的にかえった。 「ああ、ルイともずっと話し合っていたんだ。 僕はリョウと生まれて来る赤ん坊を守ることを優先することに決めた。 もうリョウを苦しませることはしたくない。 これからはモデルでは無く、 モデルを養成していく者としてルイと一緒に事務所を掲げていくよ」 「そうだったんだ~ 僕にくらい教えてくれても良かったのに!」 「教えたかったのは山々だったんだけど、 ビックリさせようと思って」 「ん、もう! びっくりどころじゃ無かったよ!」 「ごめん、ごめん、でも帰って来たよ」 「うん、お帰り。 リョウさんもお帰り!」 「ありがとう要君!」 そう言ってリョウさんはもう一度僕を抱きしめてくれた。 「で、赤ちゃんの予定日は何時?」 「来年の春だよ」 「じゃあ4月くらい?」 「うん、でも少し早くなるかも……」 「そうだよね、僕もそうだった! 陽ちゃん6週程早く生まれたんだよ。 赤ちゃんか~ 凄く楽しみ! 初めまして~ カナメお兄さんで~す。 赤ちゃんは男の子かな? 女の子かな?」 そう言って僕はリョウさんのお腹に話しかけた。 「ハハハ、もうちょっとしたら分かるよ」 「凄くたのしみですね! あ、それはそうと、 ポールたちの住まいどうする? 僕のアパートは小さいと言うか、 新婚さんだと多分二人だけの時間を過ごしたいよね? 僕の事は気にしなくていいから、 ポールもここは思い切って家を建てたら? 赤ちゃんも生まれてくることだし、 お庭なんかもあった方が良いでしょう?」 ポールの財政から行くと、 現金で家を買ってもおつりがくる。 僕がそう提案すると、 ポールは自分もアパートで育ったし、 全然不便は感じなかったから、 アパートでも良いと言った。 本当は、家を建て、僕も一緒にと言う事だったけど、 家を建てるとなると、郊外の土地の余っているところになるし、 学校も、バイトも遠くなるから、 僕としては今いる便利なエリアが良かったから、 そのお誘いは丁寧にお断りした。 そうしたら、大きめのアパートに 引っ越して一緒にという話になったけど、 僕は二人の離れていた10年を 二人だけの時間で埋めて取り戻して欲しかったので、  それも低調にお断りした。 それで、僕達の近くに居たいというリョウさんのたっての願いで、 彼等は僕達の住む近くのアパートを選んだ。 それからは毎日が目まぐるしく過ぎ去っていき、 世間はいつの間にかクリスマスとお正月を迎え、 春は直ぐそこまでやって来ていた。 そしてそれは、僕の大学最後の年である事を意味し、 これからの身の回りの事を、 決めていかなければならないと言う意味でもあった。

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