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第201話 消えない思いー最終話

後で気付いたけど、 先輩はまだ僕にプロポーズをしていない。 それなのに両親に結婚の許可? 普通、僕にプロボーズするのが先じゃない? いや、プロポーズだっていまだしてないんですけど…… これって…… 順番変だよ? しつこいようだけど、 プロポーズは? ずっと夢に見ていたんですけど…… 僕は職場にやって来ていた矢野先輩に愚痴をこぼしていた。 「矢野先輩、僕達式の日取りは決まったんですが、 まだ佐々木先輩にプロポーズしてもらって無いんですよ! それって変じゃないですか?」 「ハハハ、きっと裕也は要君がOKを出すと分かってるから 敢えて言わないんじゃない? 実際そうでしょう?」 「え~ そりゃそうですけど…… でも、プロポーズですよ? 一世一代の大事ですよ? まあ、佐々木先輩の事だから、 ただ単に忘れているだけっていうのも 無きにしも非ずなんですけどね! あんなに頭いいのに 抜けてるところが結構ありますからね~ でもプロポーズですよ? ずっと夢に見てたのに~」 「え~ だったら僕に愚痴ってないで ハッキリと裕也に言ったら~?」 「え~ 何だか催促してるみたいで恥ずかしいです~ まあ、先輩の所に戻れただけでも幸せだから、 プロポーズごときで文句言いてたら罰が当たりますね」 僕がそう言うと、矢野先輩は、 「それ、のろけ? のろけなの? 一人身の僕の前でのろける奴にはこうだ!」 と僕の腰をくすぐりながら茶化してきた。 矢野先輩は相変わらずだ。 佐々木先輩の突然の結婚の許可の申し出から、 僕達の周りはがらりと色んな意味で変わった。 先ず、佐々木先輩がやっていたプロジェクトは、 成功という形でΩの人権に対する新しい法案を成立させた。 そのプロジェクトに佐々木先輩と共に人力したのが、 名古屋で出会ったあの3人組の女性達だ。 一人は政治家として佐々木先輩と密に連絡を取り合い、 内閣の内側から改革を進めていった。 彼女の夫も同じαの政治家で、このプロジェクトには一役買っているらしい。 もう一人はΩ専門の医者になり、 これまでのΩに対する肉体、精神的な苦痛をサポートし、 新しい法案を提出する際のΩに対する非日常的な苦痛を証明し、 医学の方面から援助をした。 彼女の番はΩで、虐待されボロボロになって搬送されてきたところを 彼女が担当して知り合ったようだ。 そして僕が先輩の奥さんだと疑っていた二条さんは Ωの保護に対して人力して来た人だった。 そして彼女の番はαで、警察の上層部に居る人らしかった。 そしてもちろん、彼は佐々木先輩同様Ωの味方で、 奥さんと共に、Ωを保護することに人力して来た。 彼らの働きは大きかった。 それは国を挙げて大々的なニュースになり、 団体を率いていた3人組夫婦と佐々木先輩は一躍有名になった。 勿論僕を守るためでもあったが、この時初めて真の意味で、 何故先輩が父親の敵にならなければいけなかったのか分かった。 先輩は先輩の父親の守って来たこれまでの法律を 覆さなければいけなかったのだ。 それは全て僕を守るため、 また僕達Ωが住みやすいように この世界を変えていきたかったから。 これから日本はΩにとって どんどん住みやすい国になるだろう。 そんな大仕事をしてのけた先輩達を、 僕はとても誇りに思う。 そして僕達はと言うと、 2週間後に結婚式を控えていた。 あの日の佐々木先輩の両親への挨拶から 時は既に6か月が過ぎていた。 僕は次の日仕事に戻った時、 日本へ戻ってからの佐々木先輩との経緯の全てを矢野先輩に話した。 全ての事の経緯を矢野先輩に話した後は、 あんなに一人で戦うなと言ったでしょ!と大目玉を食らったけど、 結局は泣いて僕達の事を祝福してくれた。 矢野先輩的にはこの件に際しては、 もっと自分に頼って欲しかったようだけど、 でも相変わらず僕の家を訪ねては陽一と同じ年?の子供達の様に 陽一に遊んでもらって?いる。 矢野先輩の番は未だに見つかっていない。 何人かは候補が居たようだが、 全て運命では無かったと相変わらずだ。 でも先輩は焦ってはいなさそうに見える。 青木夫妻達にはあの後女の子が産まれ、 青木望ちゃんと命名された。 青木さんに似て、とてもかわいい子だ。 子育てとカフェ経営の両立は大変そうだけど、 青木君のお母さんにサポートしてもらいながら 何とか頑張ってるみたいだ。 カフェは相変わらず繁盛している。 前年のクリスマスには、僕も臨時でお手伝いに入り、 お母さんがソロで生演奏をしてくれた。 カフェは時々定期的に、 夜にだけバーの様な雰囲気に変わるようになった。 その時お母さんが友情出演として生演奏をしに来てくれる。 割と人気のある趣向の一つだ。 お父さんも相変わらず新人を連れて あのカフェに行っている。 最近芸能界では、 あのカフェでデビューした後食事をすれば 売れると言う噂があるようだ。 確かにお父さんがカフェに連れてきた新人達は 有名になっている。 その為、最近では自称新人芸能人が多いらしい。 また、さすが芸能人と自負するだけあって、 奇麗でカッコいい人が多い。 だから彼ら目当てにやって来る人達も少なくない。 需要と供給がうまく回って 彼らの人気が出てきているのかもしれない。 最近なんて、 『行列のできる芸能人カフェ、ここに来れば有名人に会える!』 みたいにテレビにも取り上げられたほどだ。 だから青木さんはこの忙しさは僕や僕のお父さんのせいだ~ とギャーギャー言いながらも、 毎日を楽しく過ごしているようだ。 森野さんはカフェの殆どを青木さんに任せるようになり、 今では隠居生活に入り、料理探求の旅と称して、 奥さんと全世界を周りながら食を求める旅をしているらしい。 ふらりと帰って来てはカフェに顔を出し、 旅先で学んだ新しいレシピを振るっては また旅に出るを繰り返している。 僕の仕事はと言うと、 増々筆のノリが良くなり、 僕の持ち色に新しい色が加わった。 精神的な物が色にも、作品にも表れる様だ。 矢野先輩のプロデュースで、 僕の絵もボチボチと世間に知れ渡り売れ始めた。 個展も年に1度は開いてくれる。 家具や小物のデザインも楽しくて、 最近はコンピューターを使ってデザインすることを覚えた。 それに色を付けていく事は楽しい。 そしてそれが実際に家具や小物になったのを見るのは感無量だ。 最近は絵本の挿絵もやるようになって、 二条さんが書いた物語に、僕が絵を付けさせてもらっている。 最初は絵本の挿絵は経験が無くて心配したけど、 やり始めたらこれも面白い。 陽一が絵本のキャラクターモデルを色々と提案してくれるので、 陽一大先生様になっている。 また、子供用のおもちゃにも僕の絵が使われ始めた。 大部分的には木製のパズルだ。 中にはビビッドな色で、 色彩感覚を養う物を意識したりして作っているパズルもある。 これも色彩のパターンを考えるのが楽しかった。 流石はマーケティングの矢野先輩様々だ。 矢野先輩は、ビジネスの方では増々忙しそうだ。 矢野先輩もネットワークを広げるため、 先輩のお母さんに着いての出張が増えてきた。 その度に僕と陽一にお土産を買ってきて、 佐々木先輩に甘やかすなと怒られている。 何時か矢野先輩はお母さんのビジネスを立派に継ぐだろう。 そして僕達は2週間後に式を控え、 未だに色々と計画をしながら忙しくしている。 僕達は家族や友人だけを招いての手作りの 小さなパーティー形式にすることに決めた。 ポールとリョウさんもジュリアを連れて わざわざフランスからやって来てくれた。 クリスマスに来日した時に、 ポールたち家族を佐々木先輩、矢野先輩と 青木夫妻に紹介出来た事は良かった。 佐々木先輩はモデルのポールを知らなかったけど、 矢野先輩や青木さんは知っていた。 そして青木さんのカフェに ポールの写真とサインも仲間入りした。 式と披露宴はそんな青木さんの カフェを貸し切りで使わせてもらうことにした。 僕は高校生の時に良く女装をしていたので、 佐々木先輩が僕のウェディングドレス姿を 期待していたのかは知らないけど、 結局は白いタキシードを着た。 当日、頭にはヴェールを被って、 手には青木さんお手製のブーケを持って、 胸にはネクタイの代わりに オーガンジーのヒラヒラのリボンを付け、 腰にはベルトの代わりにサッシュベルトを施した。 これで少しは先輩と違ったファッションになれたかな? そう思いながらお父さんとヴァージンロード宜しく、 親族友達に囲まれた青木さんのカフェの外庭の中央を歩いた。 歩いて行く先には神父さんがいて、 その手前に先輩が正装をして僕を待っていてくれる。 お父さんから先輩に僕の手がバトンタッチされると、 僕と佐々木先輩は神父さんの前に跪いた。 そして誓いの言葉が読み上げられ、 僕達は “I DO" を交わし合った後、 僕の指輪に刻まれた “Yuya loves Kaname Forever" と “Kaname Loves Yuya Forever" の刻印が新しく刻まれた先輩の指輪と共に 誓いのキスを交わした。 そして僕は先輩に耳打ちした。 「先輩、イヤ、裕也さん、 僕達また新しい命を授かったよ。 今度はちゃんと裕也さんにも 産まれたばかりの赤ちゃんを抱かせてあげられるよ」 そう言うと、先輩は満面の笑みを僕に向けて、 僕を抱え上げた。 そして矢野先輩と、 その膝に座る陽一を横目で見ながら、 また先輩に囁いた。 「それとね、陽ちゃん、 矢野先輩の事、凄く良い匂いがするって。 もしかすると、彼、陽ちゃんの運命かもよ?」 そう言うと先輩は抱えた僕を落としそうな勢いで、 矢野先輩に向かって 「陽一には近ずくな~!!!!! お前には絶対陽一はやらん!」 と叫んでいた。 肝心の矢野先輩は、 「?????」 と、佐々木先輩が自分に叫んでいるのは 何故だと言う様な顔をしていたけど、 矢野先輩の膝の上を占領していた陽一は、 僕達に当てられたのか、矢野先輩のホッペにチュッとしていた。 今度はそれを見たポールが、 「あ~ 陽ちゃん! 浮気は禁止! 陽ちゃんはジュリアの未来のお婿さんでしょ~!」 と叫んでいた。 それを見ていたリョウさんはヤレヤレと言う様な顔をしていたけど、 僕は涙を堪えながら大笑いした。 7年は長かった。 お互いくじけそうな時が何度もあった。 お互いが恋しくて泣いた夜も何度もあった。 どうにかしたかったのに、 どうにもできなかった自分たちが居た。 でも僕達はお互いの事を思って、 その時、その時を乗り越えてきた。 遠回りをして学んだことは結局 どんなに離れていても、 どれだけ諦めようとしても、 『僕達の思いは消えなかった』 と言う事だ。 ~Fin~ 皆さま、長いようで短い間でしたが、 消えない思いを読んで、 応援して下さりありがとうございました。 始めて書いた作品だったので、 もしかしたらどこかに方言が出ていたかも知れません…… また、作文? セリフの多い脚本? のような拙い文となってしまいましたが、 これにて消えない思いは完結となります。 皆様、本当に、本当にありがとうございました!

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