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ずっとこのままでいてね

ずっと子供でいたかった。 夏季休暇で田舎に帰ってきた俺はぐーたらとした自堕落な生活を送っていた。 「おじゃましまーす」 呑気な声にちらりと玄関の方を見ると、母さんが「慶一くん来たから起きなさいっ」と若干怒られながら、玄関に向かうと、「よっ」と慶一が笑顔で手を挙げた。 「懐かしいな」と慶一。 近くの神社まで歩いていくと、境内の裏側に回ると、すぐさま慶一を壁に押し付け、キスする。 初めてキスしたのは高校生の時。あれから俺らはここでいつもキスしてた。子どもの頃は木登りしたり、かけっこしたり、そんな純粋な遊び場だったのに。 「俺、結婚する」 帰省する前、慶一に電話した。 一瞬戸惑ったみたいだけど、慶一は「おめでとう」と言ってくれた。 「結婚する前に一度帰るから」 「うん……待ってる」 慶一の顔を見たら、少し結婚するのが揺らいだ。 こんな気持ちになるくらいなら、子供のまま、友達のままでいたかった。 慶一と俺の間に熱い吐息が交わる。 「秀人……俺、ずっとお前のこと好きだと思う」 「うん」 「俺の事好きでいてとは言わないからさ」 慶一はぎゅっと俺のシャツを掴んだ。 「そのまま変わらずにいて……」 青葉が揺れて、夏風が吹いた。 蝉の声は昔聞いた声よりもどこか悲しげだった。

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