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写真お願いします (完)

「あの…すいません!写真お願いしてもいいですか?」 いつも利用している実家の最寄り駅の前で、突然そんな声をかけられた。 いじっていたスマホのゲーム画面から視線を外してそちらへ顔を向けると、スマホを手にした同い年位の大学生っぽいイケメンが、口をぎゅっと引き締めながら、少し申し訳なさ気に眉毛を少し下げてこちらを見ていた。 「…はぁ…?」 思わぬの出来事に、ポカンとしたオレの口から何ともまぬけな声が出た。 (え?オレに言った…のか?) 周りをキョロキョロしてみると、オレの周りにはオレ以外に人はいなかったが、その男の周りにも通行人はいるものの、仲間らしき人はいない。 一人旅かなんかで、写真を撮ってくれる人を探してたのだろうか。 オレがそんなことを呑気に考えてるうちに 「!! いいんですか!?やった!」 と、男が喜び始めた。 どうやらさっきオレの発したまぬけな声が、了承した返事に聞こえてしまったようだ。 (……まぁいいか。写真撮るだけだし) 「…どう撮ればいいですか?」 「じゃあ…そこを背景にいいですか!」 そう言いながら男はオレのちょうど後ろにあった、綺麗な花の模様が彫られた駅の壁を指差した。 「はい」 そう返事して彼のスマホを受け取ろうとてを伸ばしたのだが、男はニコリと笑うとサササっとオレの真横に並び 「じゃあ撮りますね!」 そう言ってスマホを持った手を伸ばすと、「いきまーす!」とシャッターボタンを押した。 「…は?」 「わー…やった!!ホントにありがとうございます!!」 「え、ちょ、ちょっと待って…」 (ちょっと待ってくれ…なんだ、今の…) あまりの訳のわからなさにハイテンションな男を呼び止めるために腕を掴むと、オレが掴んだ場所を見て「わ~~!」と更に男のテンションが上がった。 「写真って…オレ、シャッター押すのを頼まれたんじゃないんですか?今オレの写真撮りました?」 「はい!シャッターじゃなくて、一緒に撮って欲しくてお願いしました!」 そう当たり前のように笑顔で言ってのけた男に見せられたスマホの画面には、イケメンが満面の笑みを浮かべる横でポカンとまぬけ面をさらしたオレの姿が…。 「………」 「ありがとうございました!ホントに嬉しいです!」 「…………。」 (……まじで、意味がわからん) オレとのこの強烈な温度差を全く感じていないこの男は、空気が読めない人なのだろうか。 凍りついてるオレをよそに、男はスマホの画面を見ながらニマニマとだらしない笑顔をしている。 (なんなんだコレ…) オレは写真をお願いされるような有名人でも芸能人でもなければ、絶世の美女でもなんでもない。 自分で言うのもなんだが、どこにでもいるようなフツメンだ。 間違っても通りすがりの人に一緒に写真を撮ってもらいたいなんて思われることはないだろう。 しかもあんなまぬけ面の写真を喜ぶなんて… 「…イタズラですか?こんなんよく思いつきますね…」 「……え?」 きっと新手の嫌がらせなんだろう。 後でオレのアホ面を笑いのネタにでもするのだろうか。 仲間内でやるならともかく、見ず知らずの通行人を巻き込むなんて… はぁ…っと深いため息が出る。 「…知らない人のまぬけ面撮ってそんなに楽しいですか?それ、消してください」 「え?や、ダメです!」 男のスマホを取ろうと手を伸ばすと、彼はそれを避けるようにすかさず手を伸ばして叫んだ。 「誤解です!イタズラなんかじゃないです! …オレは単に、近藤さんと一緒に写真を撮りたかっただけで…!!」 「…はぁ?」 近藤… 男から発せられたその名前は、間違いなくオレの名前だった。 「…え、オレと…知り合い…ですっけ?」 思わず半歩後ずさってしまうと、男はオレが離れた分だけずいっと近づいてきた。 めっちゃ近くにあるめっちゃ整ったその顔。 (こんな顔、オレ、見たことあったっけ?) 必死に頭をフル回転させてみるが、全然記憶にない。 「あ、いえ。あの…知り合いというか…高校が、一緒でした!」 「え、そうなの?…ごめん、名前は?」 「小池です!」 「……」 同じ高校ということで一瞬安心したのも束の間、小池という名前に全くもって心当たりがない。 (同じクラスじゃないことは確かだけど…) 学校が同じと言えど、学年が6組まであったから浅い付き合いのヤツも多くて…卒業してから2年経ってしまった今、名前を思い出せないヤツもたくさんいるが… こんなめちゃくちゃイケメンな顔を、忘れたりするだろうか。 「…わりぃ、全然思い出せないんだけど…」 「あ、はい!覚えてなくて当然だと思います!オレ、近藤さんの1コ下で、ほぼ接点なかったんで!」 「……は?」 知り合いと見せかけてまさかの知らんヤツ。 やっぱり嫌がらせか?と思い半歩下がると、小池はやっぱり半歩こっちに近づいてきた。 「あの、オレ…ずっと近藤さんに憧れてて…だから写真お願いしたんです。…イタズラなんかじゃありません」 「はぁ…?」 皆に憧れられそうなイケメンの小池にそんなことを言われても、平々凡々なオレは疑いの気持ちしか湧いてこない。 顔だけじゃなくて、成績だって運動だって平凡…というかむしろ赤点とか取ってたオレだ。 自分で言うのもなんだが、人様に憧れられる要素なんてどこにもないはずだ。 「オレのどこに?…意味わかんないんだけど」 「……」 小池ははにかみながら少し目を泳がせたが、ずっとオレがジト目で見続けたから観念したのだろう。 おずおずと口を開き始めた。 「…近藤さん、山野さんと仲良かったじゃないですか」 「山野って…賢吾?」 「……はい。オレ、バスケ部だったんで、 廊下ですれ違う時とかに山野さんに挨拶してたんですけど…そん時に隣によく近藤さんがいて…」 (そういえば賢吾はバスケ部だったっけか…) 小池の言葉に、大学が離れてしまってたまにしか会わなくなった高校時代の友人を思い出す。 確かに賢吾とはよく一緒にいたけど、大概他の仲間も一緒で大人数でいたはずなのだが… (…オレ、なんか覚えられるようなことしたか?) そう疑問に思っていると、小池が言葉を繋げた。 「…山野さんたちのグループ、すれ違う時とかに笑いながらしゃべってること多くて。いつも楽しそうでいいなぁって思ってたんですけど…そん中でも近藤さんのくしゃっとした笑顔が、なんか遠くで見てるオレまで楽しくなるような、そんな笑顔で…いいなって、思って…」 「……」 「…だけどオレらが山野さんに挨拶すると、会話が途切れちゃうからか、近藤さん無表情…じゃないけど、笑顔やめちゃって。それがいつも残念で…オレの前でも…っていうか、オレに向けて笑ってほしいなって、思うようになって…」 (うぉわ…なんだそのこっぱずかしい理由!!) それ男相手に言う言葉かよ?!とオレが悶えそうになってるのをよそに、小池は平然と会話を続けた。 「…だから先輩が卒業する時、先輩に告白する勇気はないから、せめて写真だけでも一緒に撮ってもらいたいって思って今日みたいに近藤さんに声かけたんですけど… …そん時近藤さん「いいよ」って言ってくれたのに、何でか近藤さんオレのカメラを取って山野さんとオレたち後輩の写真を撮ってくれて… オレは近藤さんがオレにカメラ向けてくれてるのもなんか嬉しいから、"そうじゃなくて近藤さんと撮りたいんだ"って言い出せなくて…結局それっきりになって、ずっと後悔してたんです。 だから今日たまたま近藤さん見つけて、いてもたってもいられなくて…」 そういえば、卒業式の後でそんなことあったかもしれない。 (賢吾の後輩の、あのイケメンくんか…) 確かに言われてみればあの後輩の面影はどことなくあるが、あの頃はもう少し幼さが残っていたような… 今は身長もスラッと伸びているし、髪も茶髪になったし、あか抜けてるし… 以前も今もイケメンなことに代わりはないが、数年でこうも変わるとはなかなか気づけないだろう。 …っていうかコイツ (今告白って言わなかったか?) (告白って…え??) やっぱり空気があまり読めないのであろう。 戸惑いまくりのオレに向かって小池は 「…だから今日、勘違いだとしても、一緒に撮ってもらえて良かったです。一生の記念です!本当にありがとうございます!」 と、さわやかに満面の笑みを浮かべた。 「……っ」 変にドキドキしてしまっているオレはそんな小池の笑顔を直視できなくて、視線をゆらゆらさ迷わせた後に手にしていた自分のスマホに視線を落とした。 「……あ」 やりかけだったスマホのゲームは、こんなやり取りをしてるうちに制限時間がきてしまったようで、"討伐失敗"の文字が画面にでかでかと表示されていた。 オレの呟きに小池もオレのスマホの方に視線を向ける。 小池は覗くつもりはなかったろうが、近距離でオレが画面を上に向けていたため小池にも丸見えだったようだ。 「あ…すいません。ゲームの途中だったんですか?オレが話しかけたから… …ていうか近藤さんもそのゲームやってるんですね」 「あ?あぁ…お前もやってんの?」 頭の中をまだ"告白"の2文字がぐるぐると駆け巡っているが、話題がそれたことに安堵を覚えて、なんとかそのままこの会話を続けた。 「はい!オレめっちゃはまってて…こないだの団イベ、休日だったからずっとやってられたんで上位行きましたよ!」 「そうなんだ…」 「そうだ…近藤さん、せっかく同じゲームやってるんだし、フレ枠とか空いてませんか?」 サササッとスマホを操作し、ゲーム画面を見せながら小池が聞いてきた。 その画面を見て、オレはまたしても固まった。 小池にずうずうしくフレ枠(フレンド枠:ゲーム内の友だち登録できる枠)に入れて欲しいと言われたからではない。 「え…お前、Lv200じゃん?!」 小池のゲーム画面に表示された、小池のレベルの凄さに固まったのだ。 このゲームは現段階でのプレーヤーのLv上限が200だ。 つまり小池はこのゲームを最強に極めている数少ないプレーヤーの1人ということだ。 「はい。暇な時とかはついついやっちゃってるんで」 「マジか…」 驚きながらもこちらに向けられた小池のスマホをよく見ると、HN(ハンドルネーム)の欄に"Ko"の文字が。 ゲーム内には何人か有名なプレーヤーがいるのだが、"Ko"というプレーヤーは最近イベントランキングの上位に彗星のごとく現れ、そしてそのハイレベルな戦闘シーンや攻略のコツなどを動画サイトにアップしている、このゲームのユーザー内でかなり知名度の高い人物の1人なのだ。 「"Ko"って…あの"Ko"?!」 Lvが200に到達しているプレーヤーは、まだ一握りしかいない。 しかも名前が"Ko"となれば、間違いなく小池があの有名な"Ko"なのだろう。 「"あの"かどうかわかりませんが…」 「イベのランキング上位に入って、よく戦闘動画配信してる"Ko"だろ?!」 「あ…はい…」 (マジか…) やべー、本物だ!と思いながらも、自分のフレ枠に空きがあるか確認する。 …一応、まだ登録はできそうだが… 「…フレ空いてるけど…オレでいいのか?オレLv今147なんだけど…」 本来だとオレのLv147でも充分中堅~上位のランクなのだが…Lv200の"Ko"から見ればかなり格下になってしまう。 "Ko"みたいな強い人がフレンドになれば、仲間の協力が必要なこのゲームでは、オレにとっては色んな場面で助かるのは間違いない。 しかし小池にとっては、オレみたいなのをフレンドにするメリットはないどころか、むしろデメリットなんじゃないだろうか。 「オレは憧れの近藤さんとフレになれたらめっちゃ嬉しいです」 「いやいや、オレこそ"Ko"めっちゃ憧れてるから!動画とか見てたし!!」 「え?!ホントですか…!!わ~…近藤さんにそんなこと言われるなんて…まじでこのゲームやってて良かったです!!ぜひフレお願いします!」 そんなこんなでオレは小池とお互いフレ登録し合ってゲーム話に花を咲かせた後、「今度一緒に戦闘行こう」と言ってホクホクして別れたのだが… …完全に舞い上がっていたオレはすっかり忘れていた。 小池に撮られた自分の間抜け面を消すことも、小池にサラッと告白されていたことも。 終 2017.5.7 (うっかり告白したことに気づいてないイケメン×後で色々思い出して今日は眠れない平凡)

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