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すきです
「沢城くんは漫画描けたりしないの?」
「ベタでしたっけ、それくらいはできますよ。ずっと前に坂木先生の真似っこでやりました」
「じゃあ、先生の仕事手伝ってみたらいいじゃん」
「んー俺ね、坂木先生見てると勃起しちゃうから手伝いとかできないんですよ。だからアシスタントさんがいるときはあまりあっちの部屋行かないでしょう?」
「なんだわたしたち邪魔者じゃん。ごめんねえ、生殺しだわ」
「ほんと毎日生殺し!」
狭い台所に二人分の軽い笑い声が響く。坂木先生の下に集まるアシスタントさんたちはみんな楽しいひとばかりだ。いまは唯一の女性アシスタントである清水さんしかいないけれど。清水さんはけたけた笑いながら短くなったタバコを灰皿に押し付け仕事部屋へと戻っていく。休憩中の話し相手をしていた俺は台所で一人ぽつんと清水さんから排出された副流煙を見つめる。ふわふわと舞い上がったそれは換気扇に吸い込まれすうっと消えていく。俺はその光景がわりと好きであった。
*
清水さんは俺お手製のパスタを食べて帰っていった。あとはおふたりでごゆっくり、という言葉を残して。こういうところが清水さんのいいところだ。だからこそ俺と坂木先生の関係を、清水さんには話せた。関係を吐露したときもあのひとは楽しそうに、嬉しそうに、笑っていた。本当にいいひとだとおもう。坂木先生用にと皿に盛っておいたパスタを手に仕事部屋の扉を開ける。坂木先生の姿を見るのは十一時間ぶりだ。こじんまりとした可愛らしい姿が目に入り自然と笑みが溢れる。が、どうやら坂木先生は怒っているみたいだ。座っている椅子ごとこちらを向いて俯いている。この怒り方はきっと俺がなにかをしたんだろう。原稿や画材がない机にパスタを置き、坂木先生の前に跪く。
「俺がまたなにかしましたか」
「随分と楽しそうだったな、清水と……ふたりとも笑ってた」
「ああ、嫉妬ですね。たのしかったですよ。坂木先生の話をしていたんです。坂木先生といると興奮するって話……清水さんに笑われちゃいました」
「もういいから」
坂木先生が太めの眉を下げて俺を見つめる。その表情はまるで小動物みたいで、いやそんなものよりずっと可愛らしい。握り締められたペンだこに塗れごつごつした坂木先生の手に小さなキスを落とす。それだけで坂木先生の顔は赤色に染まる。
「どうしましょう。勃ちそう。坂木先生といるとすぐ興奮してしまいます」
坂木先生の手に頬擦りして次の行動を強請る。勃ちはじめた性器を坂木先生のつま先が擽る。靴下やジーンズや下着が隔てていても擽るのが坂木先生のつま先だと思うと切ない快感が全身を包み込む。もう一度、坂木先生の手にキスをして立ち上がる。男ならばしかたないのだ。すっかりとろんとしている坂木先生を抱き上げて隣の部屋へ移動する。安価で購入した質素なベッドに坂木先生を下ろしてその上に跨る。そこで、パスタのことを思い出したがそんなことに構ってはいられなかった。とにかくいまは愛おしい目の前の坂木先生をひたすらに愛したかったのだ。
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