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第1話

だいたいにして いつもあいつの口から出るのは 半分が嘘みたいな事ばかりで 俺だってバカじゃない 全部真に受けるって事はないけど でも あんまりにも 真剣な顔で嘘をつくから 完全に騙されてしまう 例えば 中学の頃 あいつは ラーメンの中に入っているメンマは割り箸だと俺に言っていたし オタマジャクシは唯一 ヘソがある両生類でカエルになると尻尾とともに消えるとか 他にも てんとう虫はメスしかいないから英語で Ladybugと言うんだとか どれも それっぽく言うから 聴いてる時から やっぱり こいつ 頭いいんだな、と関心してしまったけれど 後々 嘘だと知って やっぱりな、と思った 高校が変わってお互い離れたけど 大学でまた一緒になって 何となく気が合って 俺はこの嘘つきと一緒にいる時間が長くなった 1人でいる時よりも 一緒にいる方が多い というのは 言い過ぎにしても  1番の親友として 1番の嘘つきとして側にいる 親友の顔をして その嘘つきな唇を時折 やましい目で見ていた ある時 「バイト代出たから 課題の資料集めのお礼に 奢ってやるよ お前んち行くわ」 と 言われて ファーストフードを買ってきた かぶっていたキャップを 自分の家のように玄関の棚の上に置いて 部屋に上がる バイトで髪の毛は明るく染められないから、 と半月ほど前にかけたパーマが 最近やけに馴染んできた 小さなワンルームを見回して 「お邪魔しまーす あれ?今日は片付いてます?」 「いつもです」 笑いながら小さな台所で手を洗う お前が来るから片付けた なんて 言えない 「はい、ダブルチーズ、、と俺はお魚」 小さなテーブルを囲んで床に座って 紙袋から開けて 2人で食べる 「いただきまーす」 「どーぞー」 得意げな顔が可愛くて こっちも少し笑って ハンバーガーをかじる 食べていたら 急に 「このフィッシュのハンバーガーのパンのところってさ こう 唇に当てると キスしたのと おんなじ感じなんだって? 」 「へー?」 ふかふかとパンを触りながら話す 確かに 他のよりも 柔らかい特別なパンだと聞いたことはある 「やってやるから 目 瞑ってみな」 ふざけて肩を組まれて 急に近づいた距離にどきっとする 「やだよ どうせ 嘘だし」 言いながらも 本当にキスをされたらどうしよう なんて 期待してしまう自分が嫌で ニヤニヤ笑いながら 近づいてくるハンバーガーを 柔らかく押し除ける 「ほらほら?目 瞑って?」 少し期待しながら 薄目を開けて 唇の感覚に集中する ドキドキがバレませんように、 ハンバーガーがだんだんと近づいてきて 唇に触れるかと思った瞬間 頭を掴まれて 驚いた俺が 口を開こうとすると 頭蓋骨に ガツンとした衝撃 歯と歯が当たったんだと 気づく 「痛った!何それ?!本物のキス?!」 「そう!」 慌てて目を開けると 特有の奇妙な笑い方で 大笑いした あいつの顔 クラスの女子に 陰で 笑い方が勿体無いと言われていることを 本人は知らない お腹を抱えて 大笑いする 姿を見ながら 俺は 初めてのキスに胸がドキドキするのを隠せずにいた いや きちんとすれば きっとこれはキスではない でも キスだと言われれば キスになる 俺は どんな反応したらいいか分からなくて ひたすら 怒ったようなふりをしながら ハンバーガーを食べた そんな 俺を見て あいつも黙々と食べて 2人して ポテトを全部食べ終えた頃 「お前 俺の事考えると 腹ん中 きゅんてなる?」 紙袋に ゴミを纏めながら 俺に聞く 「胃の辺りが ギュンてする、、」 ズーッと氷の間に入ったジュースをストローで吸いきって カップをテーブルの上に置く 「あぁ、やっぱな それ なんとか 症候群でやつだわ」 また 息を吐くように嘘をつくから いつまでもこんなムードでいるのも嫌だし 「何症候群?」 と話に乗ってやる 「うちの姉ちゃんが去年掛かって 拗らせてさ 風呂入ってる時とかヤバイらしいね」 玄関の横の 大きなゴミ箱に 紙袋を突っ込んで こちらに戻りながらヘラヘラと笑う 「まぁな、ヤベェよ 馬鹿みてぇだな、、」 そう言って 背もたれにしていた ベッドに 上半身を乗り上げて 目を瞑って グーンと伸びをした 伸びをしたかったわけじゃないけど 自分の気持ちをごまかした 横に座る気配がして 伸びを止める 目を開ければ 思ったより 近くて驚く 「根気よく その相手とのスキンシップが大事だとか言うよ? こうなったら 付き合っちゃう?酷くなってもアレだし」 ふざけた事言うくせに 瞬きが多くなって 少し緊張した空気 見つめると一瞬不安げに唇を丸め込んだ 早くなる脈拍を感じながら その唇に触れるだけのキスをする してみたら どんな顔をするのかと思えば 照れ臭そうに鼻をムズムズさせてこちらの言葉を待つ さっき言った通りに 胃のあたりがキュッとなる 「いいの?」 「俺もだし」 お互い ふふっと笑って手を繋いでみる そんな風に嘘に乗っかって付き合って 今では そんな 嘘なんて もう必要もないけど あの時 あいつの 馬鹿みたいな嘘が なければ あのままだったのかも知れない 大学卒業を機に 親には気の置けない友達でルームシェアのが 安く済むと 嘘をつき 一緒に暮らして 数年 仕事の帰り 羨ましい 絶賛リモートワーク中のあいつにメッセージを送る 「なんか 買ってくもんある?」 「なら 竹輪と牛乳とヨーグルトとバナナ」 スマホをスーツのポケットに入れて1人言 「たけわ のほうか」 俺も たけわ と言うのは こいつと暮らし出して初めて知った 同じような味や形でも 材料も作り方も 違うんだそうで 俺には大した違いはわからないけど スーパーの売り場で力説された 「ちくわ」 よりも 「たけわ」のが 好きらしい 棚を探すけど 「ちくわ」しか 売っていない 確かこのスーパーは 前に 「たけわ」の方も売っていた ちょうど 納豆の品出しをしていた 店員さんに 声をかける 「あの、すみません、、まえに この横にあった たけわ って もう ないっすかね?」 「たけわ?」 訝しげな表情で 見つめられて 一瞬戸惑うと 「あー、はいはい竹輪ですね こちらパッケージの変更で メーカーさんは変わっていません ちくわって 読むんですよ」 少し笑われて こっちも 思わず頰が熱くなる マスクをしていて良かった 商品を買って 足早に 2人の部屋に帰る 「ただいまー」 「おかえり〜 ありがとね スーパー混んでた?」 「たけわ の方 買ってきたぞ」 「ん?サンキュー、そうそう たけわ じゃなきゃねー やっぱり。 ちくわとは 味が違うよね〜」 玄関の脇に荷物を置いて まずは洗面所に手を洗いに行く 俺が「竹輪」は「たけわ」ではないと 気づいていることを こいつは まだ知らない ニヤニヤしながら 手洗いうがいをして 「おい、風邪予防のキスしとく?」 「ふっ、うん しとく」 キスをすると免疫力が上がるんだそうで 出来るだけ たくさんした方がいいから と よくキスをする 自分なりに調べたけど 全くの嘘ではないらしいけど 直接的に効くもんでも無いらしい 愛おしい嘘つきとチュッとキスをして 笑い合う こいつになら 一生騙されててもいいや

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