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3エンカウント

 森の茂みの中から飛び出した定番のモンスタースライムに、セナは混乱した。なにせ勇者セットは、アディに放り投げられていたからだ。 「アディさんが、さっき勇者セット投げるから!俺、丸腰じゃん!」 「うるさいぞ。どいていろ」  セナを後ろにどかすと、スライムに向けて手のひらに出した赤い炎を投げつけた。するとスライムは一瞬で消し炭どころか、炭すら残らず消滅した。 「下級モンスターごときに魔法を使うとは」 「す、すげー!アディさんは、手品師なんだな!」 「・・・」  セナはややイケメンそうな顔のわりに、ちょっと頭が弱かった。そして素直すぎる。だが手放しに褒められアディもまんざらではない様子だ。  その後もスライムしかモンスターは出現しないうえに、あっさりとアディが倒してしまうのでセナの出番はなかった。途中湖で水浴びする余裕があるくらいだ。しかし相変わらずレベル1のままである。さすがにちょっと退屈なので、夢かもしれないこの世界について聞いてみることにした。 「アディさんの世界観設定ってどんな感じ?」 「設定とは?」 「この世界の名前とか?」 「この世界の名は、ィアーリウェア。7つの大陸が存在し、人間や魔族に神族が住んでいる。精霊界には精霊も存在している」 「そういえば村の人も、ぴよ太のこと精霊って言ってたな」 「そいつは、下級の精霊だがな」 「へぇ、人外魔境か」  ここはィアーリウェアと呼ばれる異世界で、人間以外にも魔物とか魔法とかもある世界観設定と納得した。 「で、魔王と人間がケンカしてると」 「並の人間では魔王に辿り着くことさえできないがな」 「へぇ〜魔王ってやっぱり角とか羽とか生えてるのかなぁ。魔族四天王とか従えてて」 「角も羽もないし、そもそも魔族は実力主義だから魔王ひとりがリーダーでしかない」 「ワンマン社畜かぁ、魔族も大変だなぁ」 「セナの世界はどんな感じだ」 「え、俺の世界?うーん、普通に人間しかいないし働かないと明日の米すら買えない弱肉強食の社畜世界?」 「強い者のみが生き残る世界は同じだな」 「確かに」  アディの世界観中二病設定は作り込まれていて、その美形な容姿に反して可愛いとこあるなと一瞬思うセナ。そんなたわいもない世界観設定をお互い語りながら、どんどん先へ向かって行く。村もない明らかに雰囲気がおかしい道のりだが全くモンスターと遭遇しない。  セナは都合のいい夢だと思うことにした。 「それにしても魔王の城って遠いのかな」 「歩けば2ヶ月はかかるぞ」 「え、そんなに!?遠いなぁ」 「転移するか」 「え、転移?ワープ!魔王の城へ瞬間移動とかチートすぎる」 「苦難の道のりより、楽な方がいいだろう」 「確かに。いや、でもレベル1のまま魔王に挑んだら瞬殺されそう。やっぱりレベルを上げて挑むべきだよな」 「別の意味で昇天させてはやれるが」 「え、なに?」  せっかくの夢なら冒険しながらモンスターを倒したり、宝箱を開けたい。ドラゴンとか倒して可愛いお姫様とも恋したい。そんな考えもあってセナはワープを拒んでみたが、アディは聞く耳持たなかった。セナの腰を強引に引き寄せると、なにやら呪文を唱え2人は光に包まれた。  眩しくてつぶっていた目を開けると、目の前に信じられない光景があった。どんよりと暗黒の空の下に漆黒の城が見える。 「あれが魔王城」 「え、えーーーーー!?!?」  強制瞬間移動したセナ達の目前には、魔王城へと続く石畳の道が手招きしていた。 「行くぞ」 「お、おおおお、俺・・・レベル1のままなんだけど」 「問題ない」  おそるおそるアディの後ろを着いていくが、いつ魔王配下の強力なモンスターが出てくるのかとビクビクする。いつの間にかアディの服の端を、ギュッと掴んでいた。  居住らしき建物はあるが、まったくその中からモンスターが出てくる気配もなくとうとう城の重圧そうな門まで到達した。門番モンスターすらいない。アディは簡単に扉を押して、中へと入っていく。 「お、おじゃまします」 「礼儀正しいな」 「だって人の家だし、勝手に入ったら泥棒と間違われて牢屋に入れられないかな」 「ふむ、それも面白いな」 「残りの余生、牢獄とかやだよ」  アディは真剣にビビるセナを見て、少しだけ笑みを作る。 「お前は面白い勇者だな」 「面白くない。レベル1の最弱勇者の俺が、レベルマックスかもしれない魔王にボコボコにされるかもしれないのに」 「セナは打撃で撲殺がお好みなのか」 「痛いのはやだよ」 「なるほど。魔法で瞬殺がよいのだな」 「なんか、違う」  どの方法で楽に逝けるかなんて知りたくもないセナは、アディのからかいに耳をふさぐ。その間にとうとう何のハプニングもなく、重圧な造りの広間に出た。おそらく魔王の玉座の間かもしれない。  なぜならば、奥の方には立派で邪悪な玉座が置かれているからだ。あまり見たくはないが骨のようなモノが埋め込まれている。なんという悪趣味な魔王の玉座。 「うぅ・・・あれって魔王の玉座だよな」 「そうだな」 「魔王どこかな。留守だといいな」 「少し待て」 「え、アディさん?」  アディはスタスタと玉座に向かって行くと、そこに座った。アルビノの美しさと、悪趣味な魔王の玉座のアンバランスさが酷い。 「ちょっと、アディさん。勝手に魔王の椅子に座ったら」 「おかえりなさいませ、魔王陛下」 「・・・・・・え」  セナの後ろから凛とした声が聞こえて、おそるおそる振り返る。  そこには黒髪赤目でマントが似合う美形と、銀髪に角と竜のような尻尾が生えた眼帯の男前。そしてその他多数のモンスターが膝をついて頭を下げていた。  セナは冷や汗かきながら、アディを見る。 「ぁ・・・アディ・・さん」 「よく来た、勇者セナ。俺が魔王だ」  魔王こと、アーディフィエルは玉座でニヤニヤと笑っていた。

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