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ふたり

「だから、俺だって言ってんだろっ」 「ふざけんな、俺に決まってんだよっ」 ぎゃあぎゃあと煩く騒ぐ、俺の弟達二人。 …いや、確かに俺には弟が二人いるが、それは翡翠と瑪瑙であって、瑪瑙と瑪瑙ではない。 「…なんで、瑪瑙が二人いる?」 買い物から帰って来てみれば、想定外の事が待っていて、サスガの俺も状況処理が出来ずに呟いた。 すると俺に気づいた瑪瑙達が、こちらを振り向いて捲し立て始めた。 「あ、マジュお帰り。ちょっと聞いてくれよ、今朝起きたら、こいつがいてさ」 「はあ?俺が起きた時にテメェがいたんだろっ」 「あ?俺じゃねぇ、テメェだ」 「テメェだろうがっ」 「……と、待て、そんな事はどうでもいい」 「…ああ、そうだな。そんな事より俺が二人になったって話だ」 「そうだ。でな、マジュ。最初は俺達もびっくりしたんだけどさ」 「俺が二人いても何ら困らないって話になったんだ」 「そうそう。学校だってバイトだって、なんだって二人で手分けしてやればいいしな」 「そうそれに、…なあ、マジュ。この間、俺が言った事覚えてるか?」 「『俺がもう一人いたら、マジュに突っ込んでもらえる』ってやつ」 「せっかく俺達が二人になった事だし、実行出来んじゃんな♪」 「ああ。ただよ、どっちが突っ込んで、どっちが突っ込まれるかで、さっきも揉めててさ」 「いっそのことマジュが決めてくんねぇか?」 「うっせぇ、このクソガキども!!」 と、詰め寄る瑪瑙達に、俺は容赦のないゲンコツを食らわしてやった。 「って」 「ってぇな。何すんだよ、マジュ」 殴られた頭を押さえ不満げな顔で見てくる瑪瑙達。 「何じゃねぇ、この異常事態を簡単に受け入れてんじゃねぇよ」 俺の剣幕に圧され、顔を見合わせる二人。 「…だってなあ」 「…ああ、マジュだって、真珠が二人になって現れたんだろ」 「じゃあ、俺達が二人に増えたって問題ねぇじゃん」 と、ふて腐れたように言ってくる。 「…いいわけねぇだろ。これ以上、兄弟が増えてたまるか」 「ははっ、そのうち、翡翠も二人になったりしてな」 「…やめろ、シャレにならねぇ」 「次いでに琥珀も二人とかな」 「………琥珀は、アリだ」 「……は?マジかマジュ。あんたショタ好きだったのか?」 「…俺、琥珀に嫉妬なんてしたくねぇ~っ」 「…バカ言ってんじゃねぇよ」 思わず脱力してしまう、俺。 そんなバカ話をしていたら、瑪瑙の一人が俺の腕にしがみついてきた。 「それよかさ、マジュ。さっき言ってたの試してみようぜ」 「そうそう。俺、今度こそ、マジュに突っ込まれたい」 負けじと、もう一人の瑪瑙が反対側の腕にしがみつく。 「ふざけんな、俺だ」 「テメェこそ、ふざけてんじゃねぇぞ」 俺の両側できゃんきゃん吠える二人に、とうとう俺もブチギレた。 「……テメェら。さっきから黙って聞いてりゃ、この俺を好き勝手出来ると思ってんじゃねぇだろうな?!お前が二人に増えたからって、百年早ぇぜ」 と、無理矢理 瑪瑙二人を振りほどく。 「…ん、だよ。じゃあ、シねぇのかよ」 「はん、誰がシねぇつった。二人まとめて相手してやんよ。…ああそうだ、俺をイかせる事が出来たら、突っ込んでやってもいいぜ?」 二人を射抜くように挑発的に微笑んでやれば、俄然ヤる気になる二人。 「…その言葉、忘れんなよ?マジュ」 「絶対にイかせてやっかんな!」 「……ふぅぅ」 だが、そう簡単に主導権を渡すわけもなく、俺は搾り尽くした二人の横で悠々と煙草の煙りを吐き出したのだった。 そして翌朝、目覚めると瑪瑙はひとりに戻っていた…。

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