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開発中期
「ふっ、死ねっ!んっ〜〜っ!!」
「…っ!ふー、ははっ、イク時に死ねって言うの、圭人くん位だね。」
よいしょっ、と軽い掛け声と共に俺の上から体を起こし、直樹が軽い調子で笑った。俺はそれをギロリと睨むが、直樹は意に介してない様子だ。
「もう開発とやらは終わりだろ。こんな事はやめろよ。」
「ふっ、いや未だでしょ。今度は、乳首の開発しよう。」
直樹は俺の横に寝転び、俺の髪を弄る。なんなんだこいつは。
「馬鹿か。終わったらさっさとかえれ。」
「冷たい。」
この場から離れたいが、俺は怠い。だから、直樹に帰って欲しい。てかそもそも、ここ、俺の家だし。
「お前なんて、俺のこと、お手頃な生テンガ位に思ってんだろ。もうっ、触るなっ。」
「……え!……生テンガって……そんな…圭人くん、そんな風に思ってたの?」
「……え」
俺の言葉に、直樹は信じられないと言う顔をした。え、まさか……、やっぱり、直樹って……俺の事…
「テンガ程は良くはないよ。」
「…つ、死ねっ!!帰れっ!」
「あぁっ、ちょっ!」
本当に頭にくる奴だ。
俺は怒りに任せ、直樹をベットから蹴り落とした。腰の痛みも忘れる程の怒りと、謎の羞恥心があった。
「違くて……っ!」
「はいはい!帰れ帰れっ!!」
その日はほぼ半裸の直樹を家から押し出し、無理矢理に帰した。珍しく直樹は焦っており、その姿を見ると多少気は晴れた。
しかしもう今後一切、こいつとは会わない。そうしよう。こんな最低な奴、そうそういねーぞ。
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「圭人!こっちこっち!!」
「おー、お疲れ〜!」
直樹に出会ったのは災難だったが、前回の同窓会ではいい事もあった。こうやって、あの日のメンバーでちょこちょこ一緒に呑めるからだ。今日一緒に飲む、晃と佐野もあの日再開したメンバーだ。
「悪い、遅刻した〜。」
「いいよ良いよ!千葉からだとちょっと遠いしな。」
「けど、急に召集ってどうしたの〜。」
「そうそう、それなんだけどさぁー、あ、」
ん?一緒に飲んでいた2人の視線が入り口に向く。誰か来たのか?
「直樹〜!こっちこっち」
「!!」
えぇ!なんで、居るんだ!!
俺は意図的に直樹が参加する会は避けている。今日だって、参加しないって確認したはずなのに…。
俺はその場に固まり、だらだらと冷や汗が噴き出るのを感じた。
「遅れてごめん。」
「いいよいいよ!」
「圭人も今来たから、これで全員集合したな!ほら、圭人と直樹、なに飲む?」
何も知らない友達が明るくメニューを渡すが、俺は直樹に気がいってそれどころではない。直樹は直樹で、普通にドリンクを選んでるし。
「何飲もうかな〜。生ハムと牡蠣か。なら、俺は白ワインにしようかな。圭人くんも注文まだだよね?何頼む?あ、シードルとかあるじゃん。牡蠣とも合いそうだし、圭人くんこれ好きそ「俺っ、」」
「?」
一同の視線が俺に集まる。
「ちょっ、ちょっと、やぱ、今日は……」
「そういや、晃、彼女と大丈夫だった?」
「え、」
俺はやっぱり帰る。そう皆に告げようとしたところで、直樹が晃に話を振る。
え?なに?なに…?
「あぁ……」
直樹の問いに、晃は見るからにしゅんとする。その隣の佐野も、ゴクリと息を飲む。
「浮気してたよっ!もーっ、あの女、最っっっ悪!」
「あらららー」
ま、まじかい。
そして、晃はツラツラと泣き言を続けた。……帰り辛い…。友達の愚痴の途中って、抜けづらいよな…。
「そうか。本当におつかれだわ。晃…よし。今日は俺が全部奢るよ。じゃんじゃん飲んでよ。」
「え…。でも、ここ、結構高いよ?」
「大丈夫大丈夫。今日、俺が株を買ってた会社が上場したからな。バカ儲け。」
「おぉ!まじで?!あざっすっ!」
直樹の言葉に、場がわーわーと盛り上がる。浮気された話も、小洒落たオイスターバーの雰囲気も、全部吹っ飛ぶ勢いだ。まぁ、晃が元気になりそうで良かった。じゃ、何となく、丸く治ったところで俺は…
「ね、圭人くんも。いっぱい食べなよ。酒もだけど、牡蠣も追加する?」
「………」
腰を上げようとした俺に、直樹がズイっとメニューを差し出す。《天然岩牡蠣 時価》
……ぐ。じか……。こんなの…た、食べれるのか……。食べたい……。
「こ、この…、時価のやつ……。」
「いいよ。産地別で何個か注文して、食べ比べしよう。」
俺の言葉を聞いて、直樹が無表情のまま一瞬だけ口角を上げたのが見えた。
くそー、馬鹿にしたな!死ぬ程食べて、飲んで、お前に散財させてやる!!
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「うっまっ」
「ほら、圭人くん、ここでぐびっと日本酒いくのがいいんだよ。」
「んっ、あ゛ーーー、本当だ!!これ、本当、うま〜!」
「………ははっ、なんか、圭人、餌付けされてんな。」
「え?」
俺が圭人くんに牡蠣を食べさせてあげていると、晃が横から笑いながら茶化してくる。餌付けかぁ。まあ、そんなものかも知れない。圭人くん、高価な食べ物で割と簡単に釣れるから。結果として、この手法は良く使う。
「はっ、そんな事ないぞ〜。」
「はいはい。酔っ払いの戯言。」
圭人くんがうにゃうにゃと弁解するも、周囲はただ笑うだけだ。よしよし。圭人くん、結構出来上がってきたな。この調子なら、このまま圭人くんをうちに持って帰れそう。
「しかし、直樹、圭人と仲良かったんだな。」
「うん。仲良しだよ。」
内心笑う。きっと、皆が思うよりもだいぶ親密な仲だよ?
「晃は、彼女にもう未練無いの?」
「あー、…ははっ、実はさ、結構未練タラタラ…。」
「ふーん…そっか……。」
「今思えば、俺も言葉が足りなかったなぁって。」
「言葉?」
「もっと、なあなあにせずにちゃんと、1つづつ話し合ってたら、もっと、変わったんじゃないかなって…。小さな綻びが溜まって、浮気されたのかなぁってさ。」
晃は本当に後悔しているようで、感傷に浸り話した。後悔か……。俺は先日の、圭人くんとの喧嘩を思い出した。
「そうだよね。つい、一言足りなくなってしまったり、まぁいっかって、勘違いのままにしちゃったり、あるよな。…確かに、良くないよな。俺も、やっぱり、ちゃんと解決しないとだな…。」
「へぇー、直樹もそんな思う相手いるの?」
「いるよ。」
「「まじか!!」」
俺の言葉に、晃と佐野が声を上げた。確かに、今までは彼女に対してドライだったから、こんな事話すの初めてかもな。
「へー、次はどんな子?お前ローテーション早いからなぁ。どんくらい続いてんの?」
「どんな感じの子?」
晃と佐野は食い入るように聞いてくる。俺は圭人くんをチラリと見るが、こっくりこっくりと船を漕いでいた。
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「直樹本当に大丈夫か?」
「うん。大丈夫。俺が飲ませすぎちゃったし。」
会がお開きになった時、圭人くんは完璧に酔っ払っていた。そして、俺の家がここから1番近いので、俺が連れ帰ることになるのは当然の事だった。狙い通りにお持ち帰り出来て良かった。わくわく。
「圭人くん。圭人くん。」
「んんっ…、」
ちょっと《準備》してから俺は圭人くんを揺すった。中々起きないなぁ…。
「ん……ーーー」
圭人くんはまた静かに寝息を立て始める。俺も下心のままにガンガン酒のましたのは事実だけど……圭人くん、本当に無防備過ぎる…。俺は顎に手を当て考え込んだ。
………………。いや、これはこれで、良いのかもしれない。
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「うーん……」
パシャっ、パシャっ
頭がガンガンする…。なんだ。さっきから、光が…。
「…おい、何してんだ、ゴミクズ野郎。」
「あ、おはよう。圭人くん。と言っても、夜中のーーー3時だけど。」
目を覚ますと、目の前にはガチめなどでかいレンズを付けたカメラを構えた直樹がいた。あの光は、フラッシュか…。
「折角だから、寝癖ついた圭人くんも。」
パシャっ
「っ、だからっ、眩しってっ…??」
ガシャッ
「え、何これ…」
見れば俺の手はベットの両脇から伸びるベルトで拘束されている。俺は一気に青ざめた。腕が上がらない。え、元々、変な奴だとは思ったが、こいつ、ついに……ついにやりやがった!殺される!!俺、殺される!
「……ちょっ、ちょっと……直樹。おちっ、おちっおおっっ、落ち着け……。」
「落ち着くのは圭人くんの方でしょ。まぁ、でも、怯えてる顔も貴重だし、撮っとこう。」
パシャっ
俺は眩しい光に目を逸らした。
「直樹、何でこんな事してんだ!!やめろ。これ、解けっ!」
「解いたら逃げるからダメ。」
直樹はそう言って、カメラを脇に置いた。そして、また俺の腹の上に座る。
「圭人くん、前回会った時、誤解させちゃったでしょ?その誤解を、解いておきたいんだ。」
この前の?
「生テンガの話。」
「あ、あぁ…。」
あれか。でも誤解も何もないだろ。てか、なんか、この下半身から湧き上がるモヤッとした感覚…
「あのさ、テンガ1つ開発するにも、いろんな人が創意工夫をこらしてるわけでしょ?」
「ん。」
まじだ。キタコレ。おしっこしたい…。でも、このタイミングで何と言えばいいのか…。俺は直樹から隠れてもじついた。
「だから、そうそう人間がその感覚に敵うわけないよね。」
直樹はまだだらだらと続ける。いつも、つらつらと喋るコイツにしては、スローな語り口だ。てか意識するともはやトイレの事しか考えれなくて、直樹の話頭に入んねー!
「敵わない人がどうのではなくて、簡単に敵ってしまったら商品価値としてどうなのって話だしさ。」
あー、漏れるっ!!漏れるっっ!!
「だから、…てか、圭人くん、なんでもじついてんの?」
「……直樹…と、トイレ……」
「あぁ、アルコール飲むと、近くなるよね。しかも、俺が膀胱の上座ってるし。」
「んっ!おいっ、だから、解けって!」
「……。」
?急に直樹からの反応がなくなった。なんだ?
俺はギュッと閉じていた目を薄く開き、上に座る直樹を見た。
「…っ!」
そこには笑顔を浮かべた直樹が居た。馬鹿、お前………本当、馬鹿!!
「どうしよ。ね、圭人くん。」
「ぐっ、」
「ベットマット、別にダメにしてもらっていいよ。替え時感あったし。」
つまり、なに?漏らしてもいいって事?それなら、良かった〜〜。安心して漏らせる〜〜ってなるか!!
直樹はニヤニヤと笑いながら、俺の腹を刺激してくる。
「でも、もし、圭人くんが、どうしてもトイレ行きたいってんなら、そうだな、《俺は直樹にハメてもらうの大好きです。今日もいっぱいハメて、いっぱい雌イキさせて下さい。》って言って。」
「はぁっ?!馬鹿っ、本当、お前っっ!」
そう言うと、直樹は今度は何処からかビデオカメラを取り出してかまえる。またガチめなやつだ。
「ま、漏らすとこでもいいよ。どっちも興奮する。」
「やめろってっ!本当っ、あっ、」
直樹は俺の上から降りて、俺のズボンを脱がし始める。良く見えるようにってか…。
「ふふふっ、耐えてる顔も好きだよ。圭人くん。」
「ふっ、ーーーっ、」
「言わないの?」
直樹は無表情のままだが、幾分はぁはぁと呼吸が上がっていて、興奮が見えた。チラッとみた直樹の股間は、大きく膨らんでる。……めっちゃキモいわ…こいつ……。あーも!!!
「ふ、な、直樹…」
「ん、なぁに?圭人くん。」
「俺は…直樹に…は、ハメてもらうのが、ふっ、……くそっ、…っ、大好きですっ!!」
「うんうん。そうなんだ。それで?」
「今日もいっぱいハメて……ふっ、いっぱい………ぐっ、クズ野郎が………っ、め、……め、雌イキさせて下さ。」
「いや、悪態ついたら台無しでしょ。」
「あっ!!!」
直樹はグリグリと、先程の比でない力で俺の膀胱を押した。流石に我慢できず、俺の股間が生暖かくなった。
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「ねー、圭人くん。ごめんて。柄にもなく興奮して、やり過ぎちゃった。」
「ドア、絶対開けんなよ。この、ごみグズ。」
俺は直樹の家でシャワーを浴びながら、ドアを睨んだ。浴室の鍵はかけたけど、心許ない。
「…圭人くん。こんなに興奮するの、本当に初めてなんだ。」
「だからなんだ。手頃なおもちゃには何でもしていいってか?」
「だから、それが違くて。」
さっきからなんなんだ。人にあんな事させといて、違うもなにもねーだろがよ。
「俺、圭人くんの事、そんな風に思ってない。」
「………」
「テンガとか、もってのほかだよ。」
「……そりゃ、テンガ程良くはないからな。」
「まぁ、そうだけど。」
「しね。」
「いやいや!違うって、そうじゃなくて…。俺は、圭人くんだから気持ちいいんだよ。」
「……」
俺はシャワーを止めた。……室内がじんわりと暖かいな。
「気持ち良くなりたいからじゃなくて、圭人くんとだから、セックスしたいし、気持ちいいんだ。」
「………」
「圭人くん、前に『俺たち友達だろ』って言ったでしょ?あれも、言われた時、微妙な気持ちになっちゃって、でもその時はその理由が分からなくて、何も言えなくて。」
「……」
「つい、笑って誤魔化しちゃったけど、最近やっと、ちゃんと自覚出来た。」
「……」
「俺、圭人くんの事が、好き。」
「……」
「圭人くん、宜しければ、俺と、お付き合いをーーーあだっ!!」
俺は浴室のドアを開けた。ドアに寄りかかっていた直樹が、同時に浴室に雪崩れ込み転けた。
「……」
「良かった。開けてくれた。」
俺と目が合うと、直樹は安心したように、にっこりと笑った。
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「だから、何でこうなるっ!!」
「え、だって、次回は乳首開発って、俺言ったじゃん。」
風呂から出ると、直樹は速攻で俺をソファに縛り付けた。
「お前……。」
俺はため息をついた。好きだどうのも、結局は嘘って事かよ。本当、こいつ最悪だ。結局は俺の事おもちゃ程度に思ってるんだろ。なんか……ちょっと………いや、だいぶ、かなしっ。
「え、あれ、圭人くん。え、泣いてる?」
「ふっ、泣いてねーよ!!」
「いや、泣いてるよ。」
「………ふっ、」
俺はぼたぼたと涙を流した。だって、俺、直樹に好きって言われて……ちょっと、嬉しかった。なのに、結局はこうなんだ。
「お前なんて、嫌いだ!」
「え。」
「お前、やっぱり、俺の事、生ーーっっ!」
直樹が急にキスをしてくるので、俺の言葉はそこで途絶えた。なんだよ。また急に……。
「はぁっ、圭人くん。それ、違う。」
「……んっ、」
「圭人くんの事、好きって言うのは本当。圭人くんの事、玩具なんて思ってない。俺は、圭人くんが好き。」
「……ふっ、お前の、言う事なんて、もう何も信じらんねーよっ!!」
「……。……でも好き。」
直樹はそう言って、俺をギュッと抱きしめた。
「俺は、強がってるけど本当は寂しがり屋な圭人くんが好き。」
そう言って、直樹は俺を抱きしめたまま、チュッと俺の頬にキスをした。
「仕事に一生懸命で、誇りを持ってるとこも好き。」
次はおでこにキス。
「薄情そうに見えるけど、本当は情に厚くて、面倒見がいいところも好き。」
頭。
「ガード硬そうなのに、案外無防備で、ちょろいところも好き。」
そして、また唇。
「………それは、ディスってるだろ。」
「ふふっ」
泣き止んだ俺が文句を言うと、直樹が笑った。
「圭人くん、好きだよ。愛してる。」
そしてまた、俺に優しくキスをした。
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