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第一章 よろしくね、お兄ちゃん。
大切な話がある、と賀来 秀也(かく しゅうや)は父に呼ばれた。
「もう少しで、解けそうだったんだけどな」
ぼやいて、シャープペンシルを転がした。
秀也は、この春で高校3年生になった。
受験を控え、自宅でも遅くまで勉強している。
そんな夜中に帰宅した父が、『大切な話』とは何だろう。
「話がある、じゃなくって、大切な話、か」
二階の自室から階段を降り、リビングへ入ると、父はソファでやたらにこにこしていた。
こんな父の顔は、年に一度は必ず見る。
自称・冒険家の父が、新たな挑戦を思いついた時の顔つきだ。
(また『冒険の旅』に出かけるつもりか)
南米で6000m級の雪山をスキーで滑降してみたり、犬ぞりで南極横断をしてみたり。
今度は、命綱無しでバンジージャンプでもするのだろうか。
秀也は呆れと諦めを胸に、父の前へ腰かけた。
「秀也。新しい家族、欲しいだろ?」
「は?」
「優しい父さんと、可愛い弟。素敵だぞぉ」
「ちょっと待ってよ。俺が新しい家族が欲しい、なんていつ言ったよ?」
欲しくないとは言わさんぞ、と父・敏郎(としろう)は一枚の写真を寄こした。
そこには、柔らかく微笑む少し痩せ型の男性と、制服を着た男子が。
そして真ん中には、ちゃっかり敏郎が笑顔で写っている。
「あとはここに、秀也が加わるだけだ。OK?」
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