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一話 あなたは王子の同居人として見事に選ばれました 1
「おめでとうございます! あなたは王子の同居人として見事に選ばれました!」
奏の目の前を、紙吹雪がひらひらと舞い落ちる。奏は眼鏡の奥の瞳をぱちくりさせて、床を汚していく紙吹雪と、その向こうに立っているふたりの男を見つめた。
……えーっと、なにがどうしてこうなった? っていうか、この人たち誰? どうやってベランダに上がったんだ。ここ五階だったよな。泥棒……いや、泥棒にしては堂々としすぎだろ。そうだ、同居人――同居人って言っていた。同居人ってなんなんだ。王子って?
クエスチョンマークが次から次から次へと飛び出してくる。
奏が暮らすのは一DKのマンションだ。広くはないが、ひとりで暮らすのに不足はない。
仕事用のパソコンとそのデスク、安物のベッド、小型のテレビ、それに本棚があるくらいの簡素な部屋。奏はベッドに腰かけて、金融をテーマにしたサスペンス小説を読んでいるところだった。
いつもどおりの夜――のはずだったのだが、ベランダの戸がいきなり開いたかと思うと、ふたりの男がそこに立っていた。
ひとりは長い黒髪をひとつに束ねた男で、一九〇センチはありそうな長身を黒いマントに包んでいる。日本人ではないらしく、髪は黒いが瞳は青い。冴え冴えとしたブルーの瞳が、眼鏡の奥で光っている。
ハッとさせられるほど美しい容貌の男だったが、奏の目はもうひとりの男に吸いよせられていた。
男――おそらく高校生だろう。妹の杏と同い年かひとつ上といった感じだ。
彼は長髪の斜め後ろに立っていた。
やや癖のある黒い髪に、炯々と光るやはり黒い瞳。それとは対照的に肌が白い。長髪の男ほどではないが長身で、手足がすらりと伸びている。
綺麗な顔立ちの少年だったが、顔の造作なら長髪も引けをとらない。着ているものだって、長袖のTシャツにタイトなデニムパンツと、ごくありふれたものだ。
それなのに奏の目は、少年ひとりに吸いよせられてしまう。
奏と少年の視線がバチッとぶつかった。
呼吸が止まる。
なんだ、この子……。なんか、なんだか、普通じゃない。
ただ容姿が優れているだけではない。内側から放たれるまばゆいオーラをはっきり感じる。例えるなら強力な引力を持つ恒星だ。
奏はひたすら圧倒された。恒星の引力に巻きこまれてもみくちゃにされる小石になったような気さえした。
芸能人? 若手俳優かアイドルか――いや、でもこんな顔はテレビで見たことがない。おれがあんまりテレビを見ないせいかも知れないけれど。
芸能人だとして、どうしておれの部屋のベランダに?
疑問はそこへもどる。新手のドッキリだろうか。不法侵入して一般人を驚かせるなんて、リスクが高い割りに、大して視聴率も取れそうにないのに。
もしもドッキリならおれのところはカットしてもらおう。テレビ出演なんてコミュ障には荷が重い。
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