3 / 56
一話 あなたは王子の同居人として見事に選ばれました 3
「なっ、な、な、なんで、おっ、おれの家なんですか!? たっ、ただの、いいい一般庶民の家ですよ。いっ、一軒家とか広いマンションならまだしも、う、うちは部屋だって、ひ、ひとつしかないですし、ま、魔界の、おっ、王子様が暮らすのにふっ、ふ、ふ、ふさわしいところじゃないですよ!」
慌てて立ち上がり、吃りながらも勢いこんで逆プレゼンする。
エリファスは奏の狼狽を笑顔でスルーした。
「王子が人間界で暮らすにあたり、最高位の占い師に占わせました。王子にもっともよい影響をもたらす人物は誰なのか、と。占いが告げたのは奏様、あなたです」
「な、なん、なんでおれ」
「それは私たちにもわかりません。わかるのは占いは嘘をつかない、ということです。あなたが選ばれた理由は、きっとこれからの王子の成長が答えになるでしょう」
エリファスの目が王子へ向いた。つられて目を向けると、不満です不服です不機嫌です、と太文字で書かれた顔があった。
「あっ、あの、で、でも、ご、ご本人は納得してない、み、みたいですけど……」
「王子の仏頂面ならお気づかいなく。生まれつきですから」
思わず肩を竦めたのは、王子が凄まじい目でエリファスを睨みつけたからだ。
「い、いや、で、でも、し、し、知らない人と、い、いきなり同居って……む、無理があるっていうか……」
「ほら、みろ。嫌がっているんだから、人間とルームシェアなんて馬鹿げた真似はやめればいいんだ」
それまでずっと無言だった王子が初めて口を開いた。その目は相変わらずエリファスを睨んでいるが、当のエリファスはしれっとしたものだ。視界に入ってもいない奏のほうが、よっぽど怯えている。
「そういうわけにはまいりません。これは王によって定められた掟なんですから。それとも王位継承権を放棄なさいますか? そうなると王位継承権第一位はリューク様に移りますが、あの方は親人間派ですから、よろこんで人間界へやってくるでしょうし、同居でもなんでもなさるでしょうね」
王子がぐっと言葉につまったのが、傍目にも見てとれた。
「奏様、王子も納得したことですし、今日からよろしくお願いいたします」
エリファスは、眼鏡の奥からにっこり微笑みかけてきた。
「いっ、いや、な、納得したようには見えな――」
「もちろん家賃や光熱費は、半分負担させていただきます」
「お、お、お金の問題じゃ――」
「それに加えて、王子が高校を卒業するまでの三年間、毎月百万円をお支払いします」
奏の目がパッと見開く。
「ひゃ、ひゃ、百万……?」
「はい。王子と暮らすとなると、心労も増えるでしょうから。その代金だと思ってください」
金に目がくらむという慣用句があるが、このときの奏はまさしく視界がくらくらと揺れた。
魔界の王子と同居するだけで、毎月百万の不労所得が手に入る。それだけの収入があれば、妹の夢を叶えてやれる。
「いかがでしょう?」
「わっ、わかりました! ひっ、ひ、引き受けます」
ほとんど反射で答えていた。
王子が裏切り者と叫ばんばかりの表情で睨んできたが、エリファスの顔しか見ていなかった奏は気づかなかった。
ともだちにシェアしよう!