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第1話 那由太、お迎えされる・3
「俺の借金じゃないのに、どうして……」
「連帯保証人ってのは、そういうモンだから仕方ねえ。可哀想だとは思うが知らなかった方が悪い。それにその金融屋も違法な所じゃないみてえだし、向こうだって一千万の回収が出来なきゃ死活問題だろうよ」
まあ一番悪いのは逃げた先輩だけどな、と男が低く笑った。
「……どうすれば良いか、分からなくて……」
呟いた瞬間、鼻と喉の奥がツンとなった。これまでどこか現実味がなく精神を麻痺させてきたが、ここにきて一気に自分の現状と将来が絶望しかないことに気付いたのだ。
「おい、泣くな兄さん」
「……す、すいません」
乱暴に頬を拭い、おしぼりで顔を拭く。一気にウーロン茶を飲み干すと体の火照りがいくらか消え、思わず腹の底から大きな溜息が出た。
しゅんとなった俺を見て、男が爪楊枝を口に突っ込みながら笑った。
「こんなことで泣く必要はねえよ。一千万なら俺にアテがある」
「え?」
「兄さんの借金を快く肩代わりしてくれそうな知り合いがいるんだ。あんた運が良いぜ。そいつらの所で働けば、将来安泰だ」
「ど、どういうことですか? 働くって、どんな……」
「まあ、額が額だし世間一般にあるような普通の仕事じゃねえが……犯罪でもねえから安心しろ。もし兄さんに『どんなことでもやる』っていう覚悟があるなら、ここに連絡してみな」
そう言って男がドリンクグラスの下からコースターを抜き、裏側にペンで十一桁の数字を書いて寄越した。
茫然とコースターを見つめる俺を残して、伝票を摘まんだ男が席を立ち、笑う。
「俺の名前は幸嶋栄治 だ。『幸嶋から紹介された』って言えば、話が早く進むからよ。後は兄さんのやる気次第だ」
「は、はい。ありがとうございます……」
突然降ってわいた話に思考が追い付かず、俺はその後しばらくコースターの番号を見つめ続けた。
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