9 / 114
第2話 しつけは始めが肝心!・2
「ペットショップに並んでる犬や猫を選ぶのに、大した理由なんか付けねえだろ」
刹の唇が耳元に近付く。
「犬も猫も内心不安に思いながら見ず知らずの家に金で迎えられ、そこで愛され、信頼関係を築いて行く。毎日の世話をしてもらって生涯可愛がられて、家族の一員ってやつになる。それと同じことだ」
「俺のこと、犬や猫だと思ってるってこと……?」
「少なくとも犬じゃねえな。お前はにゃん太だし」
「可愛い猫だよね。小っちゃくてふわふわ」
「っ……」
急に恥ずかしくなって俯くと、炎珠さんが穏やかな笑みを浮かべて言った。
「そういう訳だから俺達は、那由太を痛めつけたり苦しませるつもりはないよ。那由太は安心して俺達に甘えて、美味しい物を食べて好きなことやってればいい。契約書にも書いてあったんだけど、那由太が望むことはできる限り俺達が叶えてあげるから」
「………」
これまでの人生──子供の頃から大してモテたこともないのに、まさかこんな形で謎のモテ期がやって来るなんて。
しかもただ好かれているだけじゃない。俺を買った一千万という金額も、仕えたいという言葉も、わざわざ着替えさせたり好きなことをやれと言うのも、それらを仰々しく契約書という形で残しているのも……何というか物凄く、ぶっ飛んでいる。
「……俺に、危害は加えない?」
怖々問いかけると、隣に座っていた刹が俺の頭を撫で回した。
「当たり前だろ。ようやく理想の猫を捕獲できたってのに、嫌われるようなことはしねえよ」
優しく髪に絡む指。ゆっくりと揉み込まれる心地良さ。刹の長い指の感触を頭皮に感じる度、開いた口から変な声が漏れそうになる。
「俺達がお前に与えるのは約束された生活。無条件の愛情。それから──」
「あっ……」
耐えきれず漏れた声と同時に、刹が耳元で低く囁いた。
「極上の快楽だ」
「え、……な、何っ……? やっ……!」
そのまま、耳に刹の舌が触れる。
「や、やめ、ろっ……」
「ずるいよ刹、抜け駆けはさぁ」
口元に笑みを浮かべた炎珠が俺の反対側に座り、同じように左耳に唇を押し付けてくる。ちろりと耳朶を舐められた瞬間、つま先から手の指先までを緩やかな電流が駆け抜けて行った。
「も、もしかして、……初めからこういうこと、目的で……!」
「目的はこれだけじゃねえけど、これも契約に含まれている。俺達はお前が悦ぶことをしてやりてえのさ」
「喜ぶかぁっ……あぁ!」
耳の穴に差し込まれた舌が濡れた音をたてる。普段意識することのない両耳の穴の縁を犯されるというのは、想像よりずっと恥ずかしくて……気持ち良かった。
ともだちにシェアしよう!