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第11話 夏祭りは危険がいっぱい?・3
それから俺は刹と一緒にドアで隔てられた奥の部屋へ連れて行かれ、ナガさんからシャツを脱ぐよう言われた。
その部屋は畳敷きの和室で、やはり施術用の道具がある。聞けばここは和彫りをする部屋だそうだが……俺には和彫り洋彫りの違いは分からない。
「幸嶋さんもここで俺が彫ったんだ」
「えっ! あのお尻までの観音様を!」
「ああ、あれは大仕事だった」
「お尻まで彫ったということは、服は……」
「当然全裸さ。ていうか和彫りの場合は大抵大掛かりだからほぼ全裸だ。その筋の人達の尻をいくつも見てきた」
ひええ、と思わず声が出てしまった。
「ナガさん、那由太は背中だけだぞ。ケツ見ようとするなよ」
「分かってるって。そんじゃ那由太、シャツ脱いだらそこにうつ伏せになってくれ」
緊張しながら畳の上の綺麗なシーツにうつ伏せると、ガチャガチャと道具を用意しながらナガさんが俺の傍らにあぐらをかいた。
「俺も終わるまで見てます」
「疑り深いなぁ刹は。大事なネコちゃんに変なことしねえよ、ソファで寝てていいぞ」
「いえ、単純に興味あるんで」
刹が依頼したのは「とにかくいかつくて、迫力のある硬派なデザイン」だ。モチーフはナガさんにお任せするらしい。
「綺麗な背中だな。若いな」
「あ、ありがとうございます」
「よっしゃ。スピーディかつ繊細に丁寧に、かつモノホンの墨に見えるように魂込めて仕上げてやる」
そうして生まれて初めてのタトゥーペイントが始まった。
「く、くすぐったい……」
細い筆が背中を滑る。ちょんちょんと筆先を押し付けられる。ムズムズするけれど動くなと言われて、俺は必死に体を硬直させた。
……そうしているうちに眠ってしまったらしく。
目覚めた時、俺の背中には天を翔ける最強の龍が入っていた。
「うっわぁ、凄い! めちゃくちゃカッコいいです、ナガさん!」
「我ながら良い腕だ。お代は振込でいいぞ、後で請求書を送っておく」
「どうもですナガさん。ナガさんの名前入りで写真撮ってサイトに上げるんで、見て下さいね」
「おう。炎珠にもよろしくな」
それからしばらく上半身裸で塗料を乾かし、シャツを着てから刹とスタジオを後にした。
もうすっかり夜だ。
「甚平とか和装に合うペイントだなぁ。刹、後でカッコ良く写真撮ってよ」
「ああ、明日の夏祭りでも写真撮るから気合い入れてくぞ」
夏祭り。綿あめ、りんご飴、チョコバナナに焼きそば、たこ焼き……
食べ物ばかり思い浮かんでしまうけど、三人で夜店デートなんて楽しみ過ぎる!
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