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第13話 海に行こうよ、ご主人!・7

「……済まないな。こんな日にこんな場所でする話じゃない」 「いえいえ。ペット同士でそういう悩みも話すべきだって、PdMCのガイドにも書いてありましたよ。幸次郎さんが酷いご主人だとは思いませんけど、やっぱり一人で抱え切れないペットの悩みっていうのもあると思いますから」  それに便宜上ペットという言葉を使っているだけで、俺達はれっきとした人間だ。人間だから完璧じゃないのはご主人もペットも同じ。せっかく理解し合える仲間がいるんだから、話せる範囲で相談するのは全然悪いことじゃない。 「おーい! 涼真に那由太! パラソル立ててもらうから、一度そこからどいてくれ~!」  幸次郎さんがアロハシャツ姿のおじさんを二人引き連れてやって来た。言われて一旦シートから離れ、砂に穴を空けてパラソルを差すおじさんを三人揃って眺める。 「兄さんら、M市の海は初めてかい」  おじさんに言われて、俺達はこくこくと頷く。 「沖縄とまではいかないが、ここも胸を張って綺麗と言える海だ。シュノーケルをするなら一つ五百円で一日レンタルもやってるよ」 「俺らシュノーケルマスク持ってきてないから、せっかくだし借りようか。那由太は? 無いなら一緒にここで借りちゃお」 「あ、俺達はマスク持ってきました。大丈夫ですよ」 「準備良いなぁ」  その場でパラソルとシュノーケルマスクの代金を払う幸次郎さん。俺のことも気遣ってくれて、普通に良い人だと思う。 「ジュース買ってきたよ! あ、パラソルが立ってる、凄い!」 「ただのペットボトルだけどな。好きなの取れ」  炎珠さんと刹がドリンクとホットドックを五人分運んで来てくれた。朝食を兼ねたお昼ご飯。この炎天下で飯を抜くのは危険だからと、取り敢えず皆でオーシャンビューランチだ。 「いただきます!」  袋から取り出したホットドックにかぶりつき、冷たいサイダーで喉を潤し、幸次郎さんの飛ばした冗談に大笑いして、スマホを構えた刹に皆でピースして、逆に俺のスマホで刹や皆を撮って、また笑って―― 「そろそろ海入ろうか。人も少ないし、荷物置いといても大丈夫かな?」  炎珠さんが自分の財布をタオルや上着に隠しながら、きょろきょろと辺りを見回している。 「クレジットカードとか、IDとかは入れてないんだろ」 「うん。おやつ用の小銭が少し入ってるだけ。万が一盗られてもダメージは少ないけど、那由太のおやつが買えなくなったら嫌だな」 「海からも俺が見張っておく。誰かが近付けばすぐに分かる」 「さすが刹、頼れるパパ」  刹パパと炎珠ママのやり取りが終わって、いよいよ俺達は海へ向かって走り出した。 「だああぁぁッ!」  不格好なポーズでジャンプし、浮き輪をつけたまま海に飛び込む。水飛沫が上がると共に光が弾けて、一瞬、海水の冷たさに「ふおおぉ」と声が出た。 「刹、那由太の初海水浴!」 「よっしゃ」  水中用の防水カメラまで持ってきていた刹が、俺に向けて何枚もシャッターを切る。ふざけて刹の顔に水をかけたその瞬間の俺もばっちり撮られ、ずぶ濡れの刹に思わず笑ってしまった。 「那由太。もっと沖の方に行ってシュノーケリングしてみよう」 「しますします! 刹も一緒に行こ! 綺麗な魚の写真撮って欲しい!」  俺も皆も、まるで子供の頃に返ったみたいに興奮している。 「幸次郎さん、涼真さん! 俺達もう少し向こうに行って来ますから、二人でゆっくりイチャついて、気が向いたらいつでも来て下さい!」 「おーう! 俺達も後から行くよ!」 「だ、誰がイチャついてるだっ!」  俺は刹と炎珠さんと手を繋ぎ、横並びに泳いで沖を目指した。

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