108 / 114

第16話 ご主人への贈りもの・3

「うん、美味しかった! 那由太のサニーサイドアップ、黄身が半熟とろとろで最高だったよ」 「本当ですか? 炎珠さんみたいに上手くできたか自信なくて……」 「自信持っていいよ、また今度作ってね」 「は、はい!」  朝からほっこり顔の炎珠さんと、満足げな表情で食後のトマトジュースを飲んでいる刹。俺は下げた食器を洗いながら、カウンター越しに可愛いペットの二人を眺めた。  ソファで寛ぐキタキツネとブラックパンサー。そういう目で見ていると、何だか二人が本物の動物に見えてくるから不思議だ。 「那由太、遊んで!」  ソファの上で仰向けになった炎珠さんが、こちらに両手を伸ばして足をバタつかせる。まだ洗い物の途中だったけれど俺は水を止め、タオルで手を拭いてから彼の元へと向かった。 「いいですよ、何して遊びますか?」 「料理のゲームしようか。三人協力プレイで」  ゲームなんて殆どやらない二人が俺のために買ってくれたのは、ネットからソフトをダウンロード購入するタイプのものだ。膨大な数があるソフトはどちらかといえばファミリーや子供向けのほのぼのしたものが多く、最近の俺達のお気に入りは、動物キャラを操作して料理を作り、カフェやレストラン経営をする「アニマルランチ」だ。  炎珠さんと刹を何のペットにするか――昨日すぐ思い付いたのは、このゲームで操作している二人のキャラがそれぞれ「キツネ」と「クロヒョウ」だったからだ。……ちなみにもちろん、俺は「ネコ」。 「前にクリアできなかったインド料理のレストラン、頑張ってみようか。ナンとライスの担当さえしっかり動ければ、カレーは一人に任せられるもんね。ラッシーは各自で取りに行くと」  このゲームを通して新たに知ることができたのは、炎珠さんが意外と冷静にゲームシステムを分析できること、そして…… 「てめえら作るの遅せえぞ、注文詰まってるっての! ナン、ナンナンライス、ナン、ナンが足りてねえぞ那由太っ!」 「ちょ、ちょっと待ってってば。今必死で作ってんだから!」  刹がゲームでめちゃくちゃ熱くなるタイプだということだ。  何とか怒涛の追い上げでポイントが溜まり、ステージクリアできたものの。 「た、たった1ステージでこんなに疲れるゲームでしたっけ……」 「刹コック長が怖すぎるんだよ。あんなんじゃ従業員全員、辞めちゃうよ?」 「忙しい時にちんたら働く従業員はいらねえ」  刹コック長に怯えながらも順調にステージをクリアして行く。二時間ほど経ったところでコック長が指示を飛ばさなくなったので横を見てみると、コントローラーを持ったまま刹がうとうとしていた。 「怒鳴ってるかと思ったら急に眠くなるとか、自由過ぎるコック長だなぁ……」  炎珠さんが刹の手からコントローラーを取り、テーブルへ置く。 「……膝枕しろ、にゃん太」 「いいよ、おいで」  膝の上に頭を乗せた刹が、それから数秒もしないうちに寝息を立て始めた。仰向けになった胸を優しくぽんぽんしていると、まるで大きな子供を寝かしつけている気持ちになってくる。

ともだちにシェアしよう!