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第3話
抑制剤の効き出した女性をタクシーに突っ込み、家に帰ってもらう。
自分から甘い匂いがする気がする。
女性のフェロモンが移ったか。
まだ午前中で申し訳ないけど、午後休を貰って家に帰ることにした。
すぐに風呂に入って匂いを落とす。
「あー……もう……」
風呂から出てスマートフォンを見ると、新木さんから災難だったねとメッセージが来ていた。
返事する気になれずに髪を乾かしてソファーに寝転ぶ。
疲れたのか、少し体が怠い気もするし熱っぽい感じがする。あのオメガの女性のせいとはいえ、午後休を取れたのは少し有難いかも。
昼食を食べて、少し昼寝をして、本当は今日やるはずだった仕事を家で行い、明日提出しようと床に寝転がる。
「暑いな……」
クーラーをつけて目を閉じた。
***
結局ゆっくり休んだ日の翌日、朝から風邪をひいた時のような怠さに襲われ、続け様に午前休を貰い病院に行った。
問診票を書いて、待合室に設置されてあるテレビを見ながら時間を潰す。
名前を呼ばれて診察を受け、症状を話しているうちにやっぱり風邪だろうなと思っていると、医者が怪訝な表情を見せた。
「堂山さんはアルファですね?」
「はい」
「……一週間の内で発情期のオメガと接触したりしましたか?」
「ああ……それなら昨日。介抱しましたけど、それが何か。」
いよいよ医者は黙り込んで、不安に思っていると「検査をします」と言われて戸惑った。
「検査って?風邪じゃないんですか。」
「極稀に、後天性のオメガの方がいます。発症するタイミングは人それぞれですが、そういった方は必ず、発情期のオメガと接触して一週間以内にオメガになります。」
「オメガに……?」
「はい。発情期のオメガと接触し、一週間以内に風邪の症状が出た場合、その可能性を顧慮しないといけません。なので検査をします。」
一気に不安が襲ってきて、医者の言うまま検査をしてもらった。
オメガになるなんてたまったもんじゃない。
俺は今までアルファとして生きてきて、これからもそう生きていくのに。
小学六年生の頃に受けた検査をまた受ける。
これで性別が分かる。アルファのままであってくれ。
検査結果は十五分後にわかるらしい。
診察室の奥の、ベッドが並ぶ個室で待っているようにと言われ、大人しくそこにいる。
ドクドクとうるさく音を立てる心臓。怖くて手が震える。
時間が経ち、ドアがノックされ返事をすれば開く。
医者が可哀想なものを見る目で俺を見るから、これから先の未来が見えた気がして、震えも止まった。
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