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第31話

料理が出来ないくせに、挑戦しようとしていた俺は正直凪さんが帰ってきてくれて心の底から安堵した。 キッチンに立った彼にエプロンを返そうとして差し出すと、そのエプロンをじっと見たままで受け取ろうとしない。 もしかして、本当に俺の考えた理由が当たっているのか。 「凪さん?」 「……真樹のエプロン、買ってこないとね。」 「今日の帰りにでも買いに行ってきます。」 「俺が選んでもいい?」 「え……それは、もちろん。」 漸くエプロンを受け取ってくれた彼は、それを着けると料理を始めた。 俺は彼に言われるがまま、フライパンを取り出して油を引く。 「混ぜててね」 「はい」 彼はフライパンに切った野菜を放り込んで、それがしなしなになってくると麺を投入した。 「焼きそば?」 「うん。食べれる?」 「好きです」 「よかった」 しかもどうやら塩焼きそばみたいだ。 ソースより塩派の俺としてはとても嬉しい。 「よし、出来た。お茶の用意しておいてくれる?」 「はい」 コップとお茶、それからお箸をテーブルに並べる。 彼もすぐに料理を持ってやってきて、二人で手を合わせ一緒に食べた。 「御両親に連絡はした?」 「はい。でもあの……凪さんが一緒に行くことは伝えられてなくて……」 「うん。大丈夫。ちゃんと謝るから。」 「……ごめんなさい。」 俺のせいで謝らせるなんて申し訳がない。 でも他に手段が無かったから、彼が怒らずにそう言ってくれて有難かった。 二時頃になり、そろそろ出ようと彼に言われて、忘れていた不安がドッと襲ってきた。 玄関に向かう彼の左手の小指を掴む。振り返った凪さんは「怖い?」と優しく聞いてくるのと同時に、そっと顔を覗き込む。 「……怖いです」 「何か真樹を傷つける言葉を言われたら、真樹は俺の声だけを聞いて。俺の言葉を信じて。」 「もしかしたら凪さんの事を悪く言われるかもしれない。それも嫌なんです。」 「俺は大丈夫。真樹の言葉しか信じてない。」 ちゅっと触れるだけのキスをされる。 小指を掴んでいた手がそっと握られて、引き寄せられる。 「愛してるよ。少しだけ一緒に頑張ってくれ。」 「はい……」 迷惑を掛けているのは俺なのに。 靴を履いて外に出た。 暑い。ちょうど二時に家を出たから余計に。 凪さんの車に乗り、家を目指す。 実家はそれほど遠くなくて、三十分もあれば着いてしまった。近所のコインパーキングに車を停めて家までの少しの距離を歩く。 玄関を前にして、ドッドッドッとうるさい胸を落ち着けるために深呼吸を繰り返す。 意を決して手を伸ばし、インターホンを押した。

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