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第33話
床に座り込み、呆然と父さんを見上げる。
わかっていた。父さんも母さんも俺がアルファだということに誇りを持っていたから、こうして怒られるんだとはわかっていた。
「お前はっ!今まで大切に育ててきてやったのにっ!」
「真樹……っ、どうして……!」
母さんは大粒の涙を流して項垂れている。
視界が狭くなって、追い詰められていくような感覚に陥った。
胸が苦しい。上手く息ができない。
「真樹、俺の言葉だけ聞いて。」
「っ……」
俺をじっと見る凪さんは、目の奥に怒りを滲ませている。
「どうしてオメガなんか助けたんだ!!」
「本当よっ!発情期のオメガなんて、放っておけば良かったのに……っ!」
聞いてはいけない。俺が聞くのは、俺を安心させてくれる声だけだ。
「──真樹さんは素晴らしい人です。」
スッと耳に入ってきた声に、漸く息がしやすくなった。
「オメガ性の発情期に発するフェロモンは男女問わず誘惑するのに、彼は助けた。女性の状態が落ち着くまでずっと傍にいて守ってあげていた。頼りがいのある立派な人です。それなのにどうして、彼の素晴らしい行動を非難できるんですか。」
「余所者は黙っていろ!!」
「彼は性別が変わって絶望し、自殺をしようとしていた。彼自身もオメガ性に偏見があったんです。でも……どうしてそこまで偏見があるのか、理由がわかりました。貴方達だ。」
真樹さんがそっと俺の手を取る。
引かれて抵抗することなく立ち上がると、彼は柔らかく笑った。
「真樹は俺と番になります。」
「なぎ、さん……」
「貴方達には報告に来ました。許可はいりません。それでは失礼します。」
凪さん、すごく怒ってる。
両親に向ける雰囲気はとても怖くて、でも俺に向けるそれはとても優しい。
父さんの怒鳴り声を背中に受けながら、家を出る。
手は繋がれたまま、彼が振り返ることは一度も無い。
「なぎ、凪さんっ、待って、速い……!」
「……」
殆ど駆け足でコインパーキングに着き、車に押し込まれて発進する。
慌ててシートベルトを着けて凪さんを見ると、お構い無しに暫く行ったコンビニの駐車場で停車し、ハンドルに額を付けて溜息を吐いた。
「凪さん……?」
長い沈黙が走り、我慢できなくなって名前を呼ぶと、顔を上げて俺を見た彼は勢いよく頭を下げた。
「申し訳ない!」
「え、え……?」
「勝手に暴走してしまった。我慢できなかった。」
顔を上げた凪さんは表情を歪めていて、ようやく彼の怒っていない顔を見れて安心したのか、涙が溢れ出た。
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