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第79話
午後からも仕事に勤しむ。専務が出席した会議の議事録係を任され、就業時間間際にその会議を終えてビル内を歩いていた。
急に頼まれた会議だったから緊張していたけれど、 特に問題なく終えて安心した。専務はまだ話があるらしく、俺は先に自分の席に戻ることにする。
「──堂山君」
「はい!」
後ろから名前を呼ばれ、咄嗟に返事して振り返ると橋本さんがヒラヒラと手を振っていた。
少し疲れているように見えるのは、金曜日の夕方だからだろう。
「お疲れ様」
「橋本さんもお疲れ様です」
「ねえねえ、よかったらご飯行こうよ。俺一人暮らししてて、自炊面倒臭いから外で食べようと思って。」
「え!いいの!?」
こんな誘いを受けるのは初めてだ。
嬉しくて前のめりになると、切れ長の目を細めて彼は笑う。
「勿論。付き合ってくれる?」
「あ、でも……ちょっと待っててくれる……?議事録出してすぐに戻ってくるから」
「じゃあ、一階で待ってるよ。あ、連絡先教えて?」
慌ててスマートフォンを出して連絡先を交換する。
一度彼と別れて、急いでデスクに戻った。
「堂山君、お疲れ様。……何か元気ね?」
「実は橋本さんとちょっと仲良くなれたみたいで」
「え、そうなの?」
席にいた中林さんに昼休みの時の話をした。
それをしながら、議事録を印刷してファイルに纏める。
「いいな。今度もしよかったら私も誘ってくれない?」
「勿論です。」
「ありがとう」
就業時間のチャイムが鳴り、片付けをしていると専務が帰ってきた。
「お疲れ様です」と言って頭を下げ、彼が専務室に入ったところで追いかけるようにしてファイルを持っていく。
「専務、こちら先程の会議の議事録です。」
「ありがとう」
「……今日は橋本さんと食事に行ってきます。」
「……何だって?」
予定を伝えると、ファイルを受け取った体勢のまま固まった彼。
「橋本さんに食事に誘って貰えたので、行ってきます。こんなこと初めてなので緊張してますが、粗相しないように頑張ります。……あ、何か手伝うことはありますか?」
「……いや……」
「そうですか。それではお先に失礼します。」
頭を下げて専務室を出る。
その足で中林さんに声を掛けた。
「中林さん。お疲れ様です。何か手伝うことはありますか?」
「ううん。私ももう帰るから。ありがとう。」
「わかりました。お先に失礼します。」
バッグを持って急いでエレベーターに乗り込んだ。
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