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第148話
暫くして、部屋から二人が出てきた。
改めて俺からも蒼太に謝ると、「そんなそんな、大丈夫だから!」と言って肩を撫でられる。
「もしかしたらまた蒼太君に協力してもらうことがあるかもしれない。事が全て解決したら改めてお礼をしたいし、また連絡させてもらってもいいかな。」
「協力に関してはもちろん。お礼は要りません。僕ももしかすれば真樹と同じ状況にあったかもしれないし、助けられる事は何でもします。だから真樹も遠慮しないで。」
「……ありがとう」
何年も縺れていた仲が解けて漸く気付いた蒼太の優しさに、ずっと恐怖としてあの日の事を抱えていた自分が恥ずかしい。
蒼太が帰っていき、それを見届けてから凪さんが俺を家まで送ってくれた。
彼は直ぐに会社に戻ってしまい、部屋に一人きりになった。
「蒼太に渡せるお礼って何だろう……。」
蒼太が帰る直前に凪さんが言っていたお礼。蒼太の好きな物なんて知らないし、今俺が彼の事で知ってるのはブラックな企業に務めていることだけ。
「……あ、ブラックな企業からの脱却……」
いや、流石にそれは難しいか。
凪さんに提案するだけなら許されるかな。
でも、あまりにも烏滸がましいと凪さんに怒られるかもしれない。
「んー……」
助けてくれた人を助けたい。
もし駄目なら、違う案を考えればいいだけだ。
「よし。今晩提案してみよう。」
冷蔵庫を開けて水を取る。
ペットボトルの蓋をカチッと開封し、勢いよく水を飲んだ。
***
「──それはいいね」
「え」
凪さんが帰宅し、ご飯を食べながら昼間に考えた提案を口にすると、彼は二つ返事で了承した。
提案した俺が思わずキョトンとしてしまうくらいあっさりとしている。
「蒼太君と話していて思ったんだけど、彼は多分頭がいい。うちに来て貰えるなら、うちとしてもありがたい。」
「あ……そ、それはよかった。じゃあ、全部終わったらそれを提案して……」
「お礼は別でするよ。もしうちに来てくれるなら、彼がうちで働いてくれるという事だし、彼にとってのメリットがあまり無いから。」
「凪さんから見たら、そういう感覚なんだ?」
「そういう?」
「社員は『働いてくれている』って感覚。」
「当たり前だ。社員がいなきゃ会社が成り立たない。」
「凪さん、何だか素敵。キスしたい」
目を細めた彼が、俺の言葉を一度スルーして空になった食器を片付け、戻ってくる。
「一緒に風呂に入ろう」
「キスは?」
「ん」
触れるだけのキスをされて、満足出来ずに背伸びをしながら彼の襟首を掴む。
「ちゃんと!ちゃんとして!ほら、キスして!」
「今日はいつもより明るいな」
「凪さんが素敵だから」
「それはいつもだろ」
もう一度触れるキスをされて文句を言おうかと口を開けると、舌が絡んで、唇が離れた頃には「はふ……」と小さな吐息が零れた。
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