19 / 168

第19話 友達でいられれば、良かったのに

 速水拓斗は、俺が高一の時のクラスメイトだった。ひょろりと背が高く、顔はまあ、特別イケメンというわけでもないが、目が細くて優しい顔立ちをしていた。笑うと目が無くなる感じで、そんな時奴は、ちょっと幼く見えた。馨や他の奴らと一緒につるむうち、いつしか俺は、拓斗のことが好きになっていた。そう、初恋だ。確かに彰の言う通り、遅い方だろう。  好きという気持ちを自覚した時から、この恋が叶わないのは分かっていた。奴には彼女がいたし、女が好きなのは明らかだったからだ。  ――友達でいられれば、それでいい……。  当時の俺は、本気でそう思っていた。だから、自分の気持ちや性癖はひた隠しにして、あくまで『女が好きな普通の男子高校生』を演じていたのだった。  幸か不幸か、拓斗とは二年の時も同じクラスになった。そして、悲劇はその夏に起きた。  夏休み、俺は一人で好きなバンドのライブに出かけた。俺は、そのバンドのファンだということを、周囲に内緒にしていた。というのも、そのバンドはマイナーすぎて、ファンなんて身近には誰もいなかったからだ。  ライブの帰り、俺は駅のホームで、不意に誰かに肩を叩かれた。 『風間じゃん! 何? もしかしてお前も、ライブに行ってたとか?』  振り返った先にいたのは拓斗だった。何と、奴も同じバンドのファンだったのだ。しかし、マイナーすぎるという、俺と同じ理由で、周囲には隠していたのだという。  電車内で、俺たちはそのバンドの話で大いに盛り上がった。拓斗が同じ趣味だというだけで、俺はこの上ない幸福を感じていた。  そこへ、さらにラッキーな出来事が起きた。俺が、拓斗がまだ持っていないCDを持っていると言うと、奴は食いついて来たのだ。 『それ、貸してくれねえ? 今度、家行っていい? てか、今からはダメ?』  ――拓斗が、俺の家に来る。  舞い上がった俺は、後先考えずにOKしていた。そういうところは、昔から変わらない。彰に単細胞と言われても、仕方ないと思う。  その日、俺の親は不在で、家は無人だった。だからといって、俺に疚しい気持ちは微塵も無かった。拓斗と二人で語り合える、それだけで俺は、十分過ぎるくらいの幸せを感じていたのだ。  拓斗を先に部屋へ通し、俺はキッチンで飲み物を用意した。――そして、部屋へ入ったその時。  拓斗は、まるで化け物でも見るような目で、俺を見たのだった。

ともだちにシェアしよう!