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十字靭帯

宮原はサッカー部の部室内に入るとシャワールームに向かい、清掃道具を探した。 「ほうき、ちりとり、モップ…… ーーーーーはぁ…」 清掃道具を両手に掴むと、バラバラっと床に投げつけてしまう。 「なんで、折角、沢海先輩が目の前でゲームしてるのに、掃除当番なんてしなきゃいけないんだよ!! あーーー!もう!!!」 思わず利き足を振ってしまい、ほうきを蹴飛ばしてしまう。 「あ、やべ…」 物に八つ当たりをしてしまい、散乱した清掃道具を見て更に宮原の気持ちが落ちてしまう。 宮原はしゃがみ込んでしまい、また溜息を吐く。 「ーーーはぁ…… 掃除、やろっか……」 重い足取りで起き上がった瞬間、口と咽喉を宮原の背後から伸ばされた両手で塞がれ、無理矢理立たされた。 「ーーーー!!!ーーーー」 あまりの突然の出来事に声も出せない。 咽喉を絞めつけるように押さえつけているので、呼吸も苦しくなってくる。 ぐいっと顎を上げられ、顔が上向く。 宮原は動転する気持ちをどうにか落ち着かせ、現状を把握しようと視線を動かす。 視界の先には蒼学の制服を着た見知らない男、そして今自分を羽交い締めにしている、野球部のユニフォームを着た男の2人がいる。 制服を着た男が部室の入り口を警戒して、入り口の窓から外を見渡している。 何やらただならない雰囲気に宮原は背筋に嫌な汗をかいてしまう。 「お前が新人のマネージャーか?」 宮原を羽交い締めにしている男は、宮原の耳元に舌をねっとりと這わせながら聞いてくる。 瞬間、舐められた感触にざわりと鳥肌が立つ。 宮原は男の言っていることがよく分からず、右手を振り下ろし、男の手から逃れようとする。 男は宮原の腕を易々と掴み、暴れないように捻じ上げる。 口を押さえていた手を外され、宮原は怒声を放つ。 「イッテぇだろ! どけよ! 誰だか知らないけど、離せ!!」 宮原の声に一瞬、男の動きが止まる。 男は宮下の右腕を離すと宮下の正面に回り、前髪を梳く。 訝しんだ表情で宮原を見詰めると徐ろに宮原の下肢に手を伸ばした。 ハーフパンツの上から形をなぞるように触れると、宮原のペニスを柔らかく揉み込む。 「ーーーッーーー!」 突然、とんでもない箇所を他人に触られ、咽喉に声が詰まる。 「おい! こいつ、男だぞ! チンポついてるって!」 「何だよ! ヤリマンマネージャーじゃねーのかよ!」 男達は自分達が勘違いをしている事に下卑た笑いをし、宮原の感情を昂らせた。 宮原は右足で目の前の男の脇腹を蹴り上げると、男の腕から離れた。 「…グッ……ーーー」 「ふっざけんな! 触んじゃねーよ! 気持ち悪い!」 呻き声を上げて蹲っている男の脇を抜け、シャワールームから出ようとすると出入り口にいた制服の男が宮原の前に立ち塞がる。 宮原は自分より身長が高い男を睨み付ける。 「そこ、退けよ」 「お前、結構、暴力的だねぇ。 ーーー退いたっていいんだけどさ。 喧嘩売る相手は見極めた方がいいぞ」 宮原は異様な程に冷静な男のペースに飲まれそうになる。 「喧嘩売ってきたのはそっちだろ?」 腕組みをして宮原を一瞥すると、ニヤリと口端を吊り上げ、「今のうちに逃げる? 逃げるのなら早くしなよ。 ーーー本気でキレちゃってるみたいだからさ。 今から謝っても、もう無理かな?」と独り言のように呟く。 すっと、宮原の背後を指差す。 僅かな無音に、宮原の中で警鐘が鳴り響く。 宮原は全身が硬直したかのように身体を強張らせてしまい、動けなくなる。 「ゲームオーバー」 「グアッ…あぁぁーーー!」 ガツッ!と左膝裏に激しい痛みが走り、宮原は膝を抱えて床に倒れ込む。 野球用のポイントスパイクの跡が宮原の膝裏にハッキリ残る程、蹴られ、踏みつけられる。 身体を丸め、痛みに耐えている宮原の髪を掴み、壁際に追い詰める。 左膝の激痛に脂汗が流れる。 『膝……膝が…… 痺れて動かない…… まさか、靭帯……」 サッカー選手の生命線とも言われる膝十字靭帯を痛めつけられ、激しく動揺する。 『沢海先輩とサッカーが出来なくなってしまう』 『沢海先輩と同じピッチを走れなくなってしまう』 『沢海先輩とゴールを決めた歓喜を味わえなくなってしまう』 膝十字靭帯を断裂、挫傷となると手術、術後の別メニューを含めて数ヶ月、回復の状態が悪いと年単位でサッカーから離れなければならない。 「思いっきり蹴りやがって! ーーーーん? 膝、痛かったか?」 男は至近距離で宮原の顔を覗き込み、絶望に近い不安と激しい痛みに涙を溢れさせている顔を鼻で笑う。 「ーーーや、やめろ……」 宮原は止めどなく流れる涙を拭うことも出来ず、男の視界に囚われていた。 「ーーーあぁ……可哀想だね。 可哀想だから…… ーーーもっと虐めたくなるよ」 男は宮原の髪を鷲掴み、壁に思い切り頭を叩き付ける。 ガツン!ガツン!と2度激しく打ち、宮原は軽い脳震盪を起こしてしまう。 「ーーーーーー」 目線が定まらず、頭が重く、視界が上下逆さになったかのように、ぐにゃりと曲がる。 宮原は膝を抱えながら、壁をずり落ち、意識が混濁する。 脳が揺さぶられ、吐き気がする。 痛みで呻き声が漏れる。 左膝を守る宮原の手を男は乱暴に払い、膝を剥き出しにする。 「潰してやる!」 最も恐れていた男の言葉が鮮明に聞こえ、宮原は絶叫した。 「嫌だぁぁぁ!!! 何でもするから!! ーーー何でもするから…… 膝は、膝だけは止めて…… 止めて下さい!!」 宮原は蹲り、声を上げて泣いた。

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