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捕食者は画策する

 全寮制男子校だったら良くあることだと思うんだ、『抱きたい男・抱かれたい男アンケート』ってやつが。で今回は初めての試みでもうひとつアンケートをやったらしい。『抱きたくない男・抱かれなくない男アンケート』ってやつ。  何故かオレはそのアンケートでダントツの1位になってしまったらしい。もちろん後者のアンケートでだ。抱きたくない1位、抱かれたくない1位。つまり栄えある?ワーストワンってやつ。 「ハハ……、ウソだろ」  同じクラスのヤツがわざわざ印刷して見せてくれた裏新聞ってやつを手に、オレは力なく椅子に座り込んだ。別に男同士の恋愛に興味は無いし、オレ自身男を抱きたいとも抱かれたいとも思わないから、そんなのに選ばれてもどうってこと無いんだけどね。でもやっぱクるものはある。  もしかしてオレって周りに気持ち悪いとか思われてるのか?  アンケート結果を見せてもらったのが昼休み。その後トイレに行こうと廊下を歩いたとき、なんとなく周りの視線が気になった。気のせいかもしれないけど、オレを遠巻きに見てるような感じがしたんだ。  悪い意味で注目されてる?……って言うか嫌われてる?  今日も部活の練習があったけど、どうしてもやる気になれなくて、放課後は即行で寮に戻った。だってさ、ワーストワンだぜ、そんなヤツが傍にいたら皆だって気分悪いだろ? 余計な気を使わせたくないし、それに万が一オレに対しての嫌そうなそぶりを見ちゃったら立ち直れないよ。だから今日は引きこもり。晩メシ……も今日はいいや。  ベッドに寝転がってたらいつの間にか眠ってたみたいで、灯りのまぶしさに目が覚めた。 「珠樹、部活来てなかったけど具合でも悪いんか?」 「んん? 嗚呼ちょっとサボリ。連絡しないでゴメン」  こいつは同室の長谷川和志。部屋もそうだけど、クラスも部活も一緒だ。 「どうした? 何かあったのか?」 「別にたいしたことじゃ無いぜ。ちょっとだけガックリ来たって言うか」  心配顔の和志にワザと明るい調子で話した。ほんのちょっとだけ落ち込んだけど別に大丈夫だってカンジで。でも本当はどっぷり落ち込んでる自分がいたりする。オレは周りから気持ち悪がられてたのにもかかわらず、そんなのに全然気がつかなくてヘラヘラしててさ。きっといろいろ周りに迷惑かけてたんだろうな。クラスメイトとか部の仲間とかは普通に接してくれてたけど、もしかしたら本当は嫌だったんじゃないだろうか。 「だからって別にそんなに気にしてるワケじゃねぇから。悪ぃな、心配かけて」  そう言った言葉と裏腹にポロリと涙が零れてしまった。 「あれっ、なんで……」  まさか涙まで出るとは思わなくて、自分でも驚いた。  そしたら和志がオレのこと抱きしめてくれたんだ。 「大丈夫だ。オレは珠樹のこと全然嫌じゃないぞ。むしろ傍にいたい。ずっと珠樹の傍にいてやるから、だから安心しろ」  強いくらいに抱きしめられて、弱ってる今のオレには和志の腕の中が暖かくて居心地良くて、思わずすがってしまった。だからかな、キスされたときも全然嫌じゃなかったんだ。  オレはノンケだったはずなのに、気がついたら和志と『そんな仲』になっちまってた。抱かれたくない、抱きたくない男ナンバーワンのオレだぜ。そんなオレに好きだって言ってくれたらさ……クるよな。 「好きだよ、珠樹」  そう言って包まれた腕の中はめちゃめちゃ安心できたんだ。 「オレも……」  だから『そんな仲』になったのは後悔していない。そりゃあ最初は恥ずかしかったし痛かったけどさ、でも寮での和志はオレのことすっげぇ甘やかしてくれるから、愛されてるんだって実感して幸せな気持ちになるし。男同士ってのも悪くないって思ったよ。それに……、最近は気持ちいいし……。  そう言えば暫くしてから、裏新聞に謝罪文が載ってたそうだ。ワーストを決めるアンケートの集計に不手際があって、結果が正しくないことが判明したんだってさ。でも何故か正しい結果が再掲載されることは無かったらしい。  実際のところどうなんだろ?って思ったけど、今はあんまり気にしてない。だってオレには和志がいるから。和志がいれば他はもうどうだっていいやってカンジかな。  ☆☆☆ 某男子校新聞部部室内にて、ある日の会話 ☆☆☆ 部員A「部長、例の裏新聞の苦情がものすごいんですけど。ヤバイっすよ」 部員B「こっちも。嘘を書くなとか撤回しろとかって、散々言われました」 部長「わかってる、わかってるけど、今は撤回したくても出来ねぇんだって」 部員C「彼は『抱きたい男6位』ですよ。掲載は5位までで知られてませんが」 部員A「ワーストのアンケに彼の名前なんて一度も出てこなかったすよねぇ」 部員C「珠樹君て、最近非公式なファンクラブの話があったみたいですよー」 部員B「原因は長谷川和志ですよね? 部長!」 部長「と、とりあえずあの2人がくっついた後に小さく謝罪文を載せて……」 部長「それから当分裏新聞は休刊ってことにして……」 部長「オレそろそろ引退するわ。次の部長はお前らで決めてくれ」 部長「ハァァ……」 部員ABC心の声(いったい長谷川和志にどんな弱みを握られたんだ?)

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