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#2

「日高美岳さまですね、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」 何から何まで………心底、こそばゆい。 「タケちゃんの誕生日、ボクが操縦する飛行機に乗せてあげる!それで沖縄行こ!!沖縄!!」 毛色の変わったスパダリが、満面の笑顔で何を言い出すかと思ったんだ、突然さ。 ………飛行機に乗るなんてめちゃめちゃ久しぶりだし………。 たまには、年休もとらなきゃなぁ、なんて。 ものすごく気軽な感じで「いいよ。ホテルも全部おまえ持ちなんだろ?穂波」って返事をしてしまったんだ。 〝トリプルセブンーB777〟 何故か、僕は。 羽田発那覇行きのトリプルセブンのファーストクラスのシートに、挙動不審になりがちな視線と動悸を抑えつつ………。 立派なそのシートに浅く腰掛けた。 ファーストクラスなんて、初体験なんですけど………。 あのぼんやりした穂波が「どうしても取りたい!」と言いだして、アメリカまで行って頑張って取得した、飛行機の操縦免許で………。 この操縦免許を取得するきっかけとなったのは、遡ること、おそらく、僕だったりする。 「トリプルセブンかぁ、かっこいいなぁ」 って、僕が穂波の撮ったトリプルセブンの写真を見て呟いたから。 それからだ。 穂波が異様なまでに、トリプルセブンに執着し出したのは。 のんびり、ほわほわして、シレーッと難しいことをやってのけていた穂波が、なりふり構わず社内推薦を勝ち取って、トリプルセブンの操縦免許を取得したんだから………。 思い返せば、多分、その時はすでに、僕のことが好きだったに違いない。 ………は、ハズカシイ。 「日高様は、鈴木副操縦士の幼馴染みと伺っております」 ファーストクラスの、目が覚めるようなスッチーのキラキラした笑顔が僕に向けられて、恥ずかしさがさらに倍増して、顔から湯気が出るんじゃないかってくらい熱くなる。 「は、はい!」 「やはり普段でも、あんなに優しくて、知的で、完璧な方なんですか?」 はい!あんなにボンヤリして、マイペース的な、ガキみたいに世間知らずな方ですよ! 「客室乗務員の間でも、皆口々に〝リアル・スパダリ〟って言っていて、鈴木副操縦士のファンも多いんです!」 そうですか!それは飼っている大きなネコと、それをひた隠すよう指導している僕のおかげですね! 美人なスッチーの問いかけに、僕は極力笑顔を心がけて相槌を打った。 その裏で、僕は。 〝リアル・スパダリ〟の本性を、心の中で暴露していた。 僕、こんなに……性格悪かったか? …………あ、あれかな? 見ず知らずの綺麗な女子に、僕のことを好きと言ってはばからない穂波を〝スパダリ、最高!!〟ってなまでに褒められているのに。 ………嬉しい、はずなのに。 心がズキッとして、苦しくなった。 こんなキラキラ美人がたくさんいる職場にいて、「僕以上の女の子がいない」とか言っている穂波の神経が分からないし。 だから、ほぼ悪口的な心の声が………。 嫉妬………かな………。 いや、いやいや!! せせせっかく、穂波が! 穂波が操縦するトリプルセブンに乗せてくれて、何を血迷ったか僕の誕生日に沖縄に連れて行ってくれるっていうのに!! 邪念を、嫉妬を、捨てろっ!! ……無だ。 無に、なるんだ………僕よ、無になれ。 「日高様?いかがなさいましたか?」 キラキラ美人のスッチーが、赤くなったり青くなったり挙動がおかしいであろう僕の顔を覗きこんで………あ、あせる。 「い、い、いえ。トリプルセブンのファーストクラスなんて初めてで、緊張しちゃって………」 「左様でございますか。それでは、日高様。快適な空の旅をお過ごしください」 「は、はい。ありがとうございます」 無、になって………ファーストクラスのシートにようやく深く腰掛けた。 ………すごい、なぁ。 トリプルセブンも、それを操縦する穂波も。 たくさんの人と、たくさんのワクワクをのせて………。 滑走路を加速するトリプルセブンのGが、僕のワクワクまで刺激して…………フワッと、体がGから解放される。 「タケちゃーん!!こわいーっ!!」 ………またか。 穂波は田上さん家の犬にいつも煽られる。 小学校からの帰り道、田上さん家は必ず通らないと家に帰れなくて。 田上さん家を通るたびに、穂波はいっつも犬に吠えられる………。 ガタイのいい、パグ犬に。 確かにワンワン吠えられるのはイヤだけどさ、相手は小型犬だし、僕には吠えないんだよ、穂波。 犬も、野生のカンってヤツで、弱っちいヤツを見分けるんだろうか? 「僕にくっついて歩けば大丈夫だから。手、握ってあげるから、な?穂波」 「タケちゃぁん」 握った穂波の手は冷たくて、小さく震えていて。 でも、身長は僕より小さいのに、手は僕の手より少し大きくて。 僕はひっつきまくっている穂波の手を引いて、足速に田上さん家の前を通り過ぎる。 「ほら、大丈夫だっただろ?穂波」 「タケちゃんーっ!!」 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔をして、穂波は恥ずかしげもなく僕に抱きついた。 「穂波!!ちょ、っと!!顔拭いてやるからっ!!」 「タケちゃん、大好きぃ!!タケちゃんボクのそばにずっといてぇ!!タケちゃぁん!!タケちゃぁん、好きぃ!!」 「もう大丈夫だから、穂波!!」 「大きくなったら、ボクがタケちゃんを守ってあげるー!カッコよくなって、強くなって、ボクがタケちゃんを守ってあげるからーっ!!絶対だよー!!絶対だからねーっ!!ボク、タケちゃんのこと、大好きなんだからねーっ!!」 あぁ、そうか。 穂波は、小さい頃から僕のことが好きだったんだ。 しかも、冷静に考えたら思いっきりプロポーズじゃん、アレ。 なーんだ、そうか………じゃねぇよ!! 何、納得してんだよ!! 「!!」 ガタンっ!! トリプルセブンの機体が音を立てて、ガクンと揺れる。 その瞬間、僕はハッとした。 …………なんだ、夢か。 懐かしい、というか。 穂波の、僕に対する感情の原点を思い出した、というか。 夢の余韻に浸っていると、再びトリプルセブンがガタガタ音を立てて上下に揺れる感覚がした。 同時に、ポーンという音が耳に響いて、シートベルトサインが点灯する。 『ベルト着用のサインが点灯いたしました。この先、当機は気流の悪いところを通過する予定です。お席にお付きの上、腰の低い位置でシートベルトをお締め下さい。気流の悪いところを通過中いたしますが、揺れましても飛行には影響ございません。シートベルトをしっかりお締め下さい』 〝揺れましても飛行には影響ございません〟とか、この飛行機の中にいる何人が、その言葉を心底信じているのか、はなはだ疑問だ。 少なからず、僕は、穂波を信じているとはいえ、かなり不安になってしまう。 ………穂波は、大丈夫だろうか? 穂波は、プロの、トリプルセブンのパイロットだし、こんな乱気流なんて日常茶飯事なんだろうけど。 ………スパダリの仮面を支えている大きなネコが、剥がれ落ちでいないだろうか。 ………あいつ、泣き虫だし………。 取り乱したりしていないだろうか………。 穂波……の手を、握ってあげたい……。 ………あ、あ? 懐かしい、子どもの頃の夢を見たせいかな………? 穂波の透明感のある笑顔とか、無邪気な笑い声とか。 今、見たくて、聴きたくて………たまらない。 …………好き、なんだ。 僕………穂波のことが好きなんだ。 そう、自覚してしまうと、なんかもう、抑えられなくなって。 咄嗟に手帳にペンを走らせると、それを通りがかったさっきのキラキラスッチーに渡した。 「あ、あの!これ、穂波に……渡してもらえませんか?無理なら、穂波に伝えてください!!お願いします」 「タケちゃん、好き………タケちゃんは?」 「好き………」 「何?聞こえないよ?タケちゃん」 「………んっ、ぁ……穂波が………好き」 僕の言ったことに、穂波がにっこり笑って………僕の胸に顔を埋めた。 僕の胸の小さなふくらみを爪で弾いたり、舌で転がしたり。 深く強く吸い付いたと思ったら、片方の手で僕のをシゴいて、もう片方の指は僕の中にズブズブ入ってきて、一番気持ちいいところを弾く。 「タケちゃん、すごくえっちぃな顔をしてる」 「………んん、あっ……あ、やらぁ」 だから、もう………。 僕自身が、普段の僕じゃありえないくらい穂波に感じて、とんでもない淫乱になっている。 だって、スパダリにあんなこと言われたら………誰だってこうなる、はずだ。 遡ること、2時間前。 素晴らしく上下し、ガタガタするフライトから解放されて、僕は那覇空港の長椅子でうなだれていた。 三半規管は、丈夫なはずなのに………。 気持ちが悪くて仕方がない。 きっと、要因はそれじゃない。 ………心配で、たまらなかったんだ。 飛行機が落ちる、とかそんなんじゃなくて。 穂波が命をかけて乗客乗員の命を預かってる、って思うと。 大変じゃないはずない。 真っ直ぐで正直者で、手が抜けないくらい真面目な穂波だから、毎回のフライトを全身全霊で挑んでるはずだ。 なのに、僕ときたら………。 こんな穂波を知りもしないで、〝世間知らず〟とか〝スーパーマイペース〟とか………穂波が怒らずニコニコしていることをいいことに、毎日小馬鹿にしたような酷いことを言っていた。 毎日朝からギャーギャーうるさい穂波に「さっさと仕事に行け」って追い出して………。 「いってらっしゃい」って、たった一言も言ってあげられずに、僕は、穂波に随分酷いことをしてるのに。 穂波はそんな僕を好きと言ってくれて………。 僕にはそんな………。 穂波に愛される資格なんて、ないのに。 ………それが、後悔の念が僕を押し潰して…。 気持ちが、悪い。 「タケちゃん、お待たせ!!」 「穂波……」 スパダリ感満載なパイロットの制服から、いつもの穂波に近い服装で、グロッキー極まりない僕に穂波は犬みたいに走って近寄ってきた。 「え、タケちゃん………具合悪くなっちゃった?ごめんね………結構、揺れたし………」 「違う、違う……から」 「タケちゃん、でも、顔色悪い」 「僕、穂波に謝らなきゃ」 「なんで?」 「いつも……馬鹿にしたような、酷いことばっかり言って………ごめん」 「タケちゃん?」 「こんなに………緊張感いっぱいの、命を……たくさんの命を預かってる仕事をしている……穂波に……僕は、優しくしなきゃいけないのに………僕は、僕は………」 ………やばい、泣きそうだ。 今、穂波の顔を見たら余計ツライ………。 座っていた長椅子から立ち上がって、僕は穂波の前から逃げようとした。 走り出そうと動いたより、早く………。 僕は穂波に抱きしめられていた。 「何言ってるの?タケちゃん」 「穂波………ごめん……」 「ボク、今日タケちゃんに助けられちゃった」 「………んな、こと」 「キャビンアテンダントにメッセージを読んでもらったよ、タケちゃんの」 「…………」 「正直、緊張してたんだよ、今日は。タケちゃん乗せてるし、乱気流も思った以上の乱気流でさ。不安で仕方なかったの。でも、タケちゃんは、やっぱりボクを一番よく分かってくれてる」 多分、泣くのを我慢している僕の鼻は情けないくらい赤くなっていて、変な顔してるのに、どうしても穂波の顔を見ずにいられなかった。 そんな、非常に情けないこと極まりない僕に、穂波は優しく微笑んだ。 「〝無事に着いたらカレーでも里芋の揚げたのでも、なんでも作ってあげるから。頑張れ!穂波!〟………めちゃめちゃ、嬉しかった。………ボクが、飛行機を………トリプルセブンを操縦するのは当たり前で。当たり前だから、誰も頑張れなんて言ってくれなくて………不安で、不安で、仕方ない時にタケちゃんの言葉がありがたくて………。やっぱり、ボクは………タケちゃんが好きだ」 ストレート、に。 そんな風にちゃんと気持ちを伝えられるなんて。 穂波は、すごいな。 スパダリが、こんな僕を好きだなんて………。 グラっと………。 穂波が好きだって言う、僕の気持ちが………。 恋愛感情に無頓着な僕でさえ、グラっとする…………。 ダメだぁ、穂波を好きすぎるぅ。 無意識に、体の力や強張りが解けて。 僕は穂波に体を預けて、ほぼ本能的な勢いで呟いた。 「穂波……僕だけのスパダリになって」 僕たちは空港からレンタカーをかりて、那覇から北にかなり離れたコテージ風のホテルに着いた。 目の前にエメラルドグリーンの海が広がって、初めて見る風景に心を奪われる。 プライベートビーチ、っていうんだろう。 すごいな……本当に、すごいな。 「穂波、ありがとう」 「どうしたの?タケちゃん、急に」 「たかだが僕なんかの誕生日なんかに、こんなこと………」 「………タケちゃんがなんか、しおらしい。かわいい〜」 そりゃ、そうだろ。 想像以上な穂波の仕事っぷりを見て、想像以上に穂波が僕のことを思っていてくれるのが分かって。 こんなに大事にされているなんて、思ってもいなかったんだよ、本当に。 「ねぇ、タケちゃん。スパダリって何?」 なのに………。 ほら、こんな時にこんなコトを言っちゃうくらい、世間知らずでマイペースだから………。 僕は穂波の肩に手を回すと、穂波を僕の身長に合わせるように引き寄せて………キスをした。 「整った容姿で、高身長で、高学歴で、高収入で………大人の余裕と包容力を兼ね備えた………高スペックな、スーパーダーリンのこと。僕の……僕だけの王子様……かな」 僕からキスをすることなんて初めてのことで、穂波は目を丸くしながらも、僕をギュッと抱きしめて優しく笑う。 「それ、タケちゃんじゃん」 「え?……何、言って………」 「タケちゃんはボクにとって、スパダリなんだよ。小さい頃から、ずっと、ずっと、スパダリなの、ボクの。キレイで、頼り甲斐があって、頭もいいし、公務員だし………料理も上手で、ボクをいつも正しい方向に導いてくれて………タケちゃんは、ボクのスパダリだよーっ!」 僕が、スパダリ??! 何言ってんだ??! 僕は背も十人並みだし、しがない公務員だ。 顔だって、お酒を買う時「身分証を見せて」って言われるくらい童顔で。 世間の皆さんが言う、一般的なスパダリとは程遠いのに。 でも………穂波がそんなことを言うなんて、正直、嬉しいやら。 恥ずかしいやら。 スパダリにスパダリって言ってもらえるとは……僕はさらに穂波にしがみついた。 スパダリ×スパダリとか、さ。 どっかの、よくできたマンガみたいじゃん、僕たち。 完全にオフの状態の穂波は、「海行こうよーっ」とか「観光行こうよーっ」とも言わず、僕を軽々と持ち上げると、広くてふかふかしたベッドにゆっくり下ろす。 「………タケちゃん、いい?」 「……いい。穂波の好きにしていい……。激しくしても、乱暴にしてもいい……」 「タケちゃん、どうしたの?」 僕はもう一度、穂波の肩に手をかけて顔を穂波の胸に近づけた。 「穂波に……溺れたい………穂波とずっと………こうしていたい………お願い、穂波」 まだ、日も高い。 南国の横に広がる風景が、余計に解放感を刺激する。 非日常、だからかな………。 それでも、穂波から離れたくなかった。 正直、僕自身、こんなにアホになってしまうとは思わなかったんだ。 理性のかけらも、ない。 本能のままに、穂波が好きで。 穂波の全てが欲しくて、穂波にギュッと抱いて欲しくて………。 穂波と、深いところで繋がりたくて………。 穂波のこと以外、何も考えられない………。 スパダリな穂波も、ダメダメな穂波も………。 僕は、アホ丸出しで………穂波が好きなんだ。 「タケちゃん、好き………タケちゃんは?」 「好き………」 「何?聞こえないよ?タケちゃん」 「………んっ、ぁ……穂波が………好き」 僕の言ったことに、穂波がにっこり笑って………僕の胸に顔を埋めた。 僕の胸の小さなふくらみを爪で弾いたり、舌で転がしたり。 深く強く吸い付いたと思ったら、片方の手で僕のをシゴいて、もう片方の指は僕の中にズブズブ入ってきて、一番気持ちいいところを弾く。 「タケちゃん、すごくえっちぃな顔をしてる」 「………んん、あっ……あ、やらぁ」 だから、もう………。 僕自身が、普段の僕じゃありえないくらい穂波に感じて、とんでもない淫乱になっている。 「ほ、なみぃ……キスしてぇ……」 「ほかに、してほしいこと……ある?」 「いっぱい、いっぱいして………穂波がしたいこと……いっぱい……してぇ」 「タケちゃん、好きだぁ」 完全に、淫乱に出来上がってしまった僕の中に、穂波がゆっくり入って………。 入れただけで、イッちゃいそうで………。 たまらず、体が反り上がった。 「あ、あぁーっ!!」 「タケちゃん、もうイッちゃった?」 穂波からもたらされる快感が、僕の足の付け根から頭のてっぺんまで突き抜ける。 「んぁ……ほなみ、も……イッて………ほなみ、も………気持ちよく、なって………」 「うん、ありがと………タケちゃん。………タケちゃんの中、気持ちーっ………」 お互いの求めることと、お互いがしてあげたいことと。 小さな頃から一緒にいるから、言わなくても分かる。 触れただけで、見つめ合うだけで………分かる、繋がる。 穂波………好き、だ。 タケちゃん、大好き。 気持ちさえも、繋がる………。 「穂波、そろそろ起きないと間に合わないよ!」 「……んー、おはよー………タケちゃん………」 あの、夢のような沖縄旅行から1週間。 僕のスパダリ王子は、魔法が解けたみたいにマイペース王子に戻ってしまった。 いつもの、朝が。 いつもの、ように始まって。 いつもの、慌ただしい朝が始動する。 「タケちゃん………ボクは今、オーロラ姫なの」 「………それで?」 「タケちゃんは、王子様」 「………だから?」 「タケちゃんがキスしてくれたら起きる、かも」 「………いいから起きろって!!」 僕は、つい。 ついつい。 本気じゃないんだけど………キスのかわりに、穂波にグーパンをお見舞いしてしまった。 ……ぁあ、自己嫌悪。 あの時、優しくしなきゃって………。 大事な仕事をしているんだから、優しく、笑顔で接しなきゃって心の中で誓ったはずなんだけど………。 優しくしたら優しくしただけ、調子にのってスーパーマイペースに成り下がる穂波に、とうとう僕の我慢は限界に達してしまって。 ………いつもの、僕と穂波の状態に戻ってしまった。 大きなネコをかぶって、ようやく外に出られる状態になった穂波に、僕は弁当箱を渡す。 「わぁ、ありがとう。タケちゃん!!大好き!!」 「………穂波、その………気を付けて。……頑張ってね」 そのかわり、僕はありったけの一生懸命をかき集めて、穂波に〝気持ち〟を伝える。 夜、ベッドの上じゃ僕はあんなに素直なのに、朝になると理性が勝って………恥ずかしくて………。 もどかしい自分にイライラして、そのイライラが穂波に伝わるんじゃないか、って不安になってしまうんだ。 ……ふっ、と。 穂波の暖かくて大きな手が、僕の頭に着地する。 穂波を見上げると、穂波はいつもの人懐っこい笑顔を僕に向けた。 「タケちゃん、ありがとう!行ってきます!!」 そして、穂波の柔い唇が僕の唇に重なる……。 穂波が出かけて、僕の朝がようやく落ち着くのは変わらずで。 でも、唇にのこる穂波の感覚が、間違いなくスパダリで………。 僕は思わず、ニヤけてしまう。 ま、いつものことなんだけどね。

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