5 / 35

第5話

   自宅に戻るといつもと同じように狼に夕食を振る舞う。  アダムは椅子に腰掛けると狼を眺めた。獣のくせにやけに上品に食べるものだ。  魔の森の皆はご飯を出すなりガツガツと貪り食うのに。  そんなことを考えながら、一方では昼間の宰相を思い返していた。  指先が肌に触れただけで湧き上がった震え。  あの時の熱が未だに燻っている。アダムはふと脳裏に浮上した言葉が恐ろしくて頭を振るった。  すると、さきほどまでニコニコしていたサミーが振り返り、とてとてと此方にやってくる。 「おかあしゃーん。だっこー。サミーちゃんとおるすばん、したでしょ?」 「うん。そうだな。お留守番ありがとう」  小さな手を懸命に伸ばす我が子を抱き上げる。  昼間は使用人の子供を預ける場所に、サミーもお願いして預けていた。  一緒に居られるのは夜のあいだだけだ。  サミーはぎゅうっと大好きな母親の首に顔を埋める。そして、嬉しそうにぐりぐりと額を押し付けた。  応えるようにアダムがサミーの耳をぱくりと咥える。すると、きゃっきゃと身を捩りサミーが笑った。 「僕。おかあしゃん、だーいすき」 「俺もだよ。俺もサミーが大大大好きだ」 「じゃあ僕は、だいだいだいだい……? とにかく、だぁいすきなの!」  アダムよりも濃い紫の瞳は宝石より何よりも美しい輝きを放つ。  サミーがいる限り、アダムは息ができる。  たとえ、番った相手に捨てられようとも。  その時アダムとしての己が死んでも、サミーの親として自分は息を吹き返した。  抱きしめ合う親子を狼が見つめる。  アダムは胸に去来する不安から、逃れるように我が子を抱きしめた。

ともだちにシェアしよう!