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掌で転がってる君が好き
この白い肌は跡が残りやすく、消えにくいようだ。ふらふらと誰にでも媚を売る男だから、それくらいでちょうどいい。こうして印でもつけておけば、自分が誰のものか思い知るだろう。
それなのに、つい先日、首筋につけたはずの情事の痕跡が消えかけている。何を勝手に楔を外そうとしているのかと苛立って、同じ場所に喰い付いた。
多少痛みもあるはずなのに、身体を震わせて、甘い声を上げる。そうなるように躾けた覚えはないが、ずいぶん都合のいい身体になったものだと感心した。
組み敷く直前まで抵抗していた気もするが、あれは何だったのか。今はただ、背中に爪を立てて、甘ったれた声と眼差しで求めて鳴いている。すがり付いて、締め付ける。
「アァッ! らいさっ……あぁっ、ァアッ! あっ、あっ……んっ! あっ、あぁっ、あぁんっ!」
蜂蜜のように艶やかに潤んで蕩ける瞳も、今は自分だけのものだとよくわかる。
他の誰のことも今は想わないで、快楽に震えている。
このまま狂ってればいいのに、と思った。
***
「やだって言ったのに!!」
「……?」
ライが首を傾げると、希望はますます目をつり上げた。
「やだって言ったのに、エッチなことして!! 腰痛いしお尻も痛いんですけど!! 恋人でも無理矢理しちゃいけないんだからね!!」
なんてやかましい。
丹念に抱き潰したはずなのに、翌日にはこうして正気に戻っている。抗議してきゃんきゃん喚く。
正気になんて戻らずに、快楽に堕ちて大人しくしていれば可愛がってやってもいいものを。
ライは面倒臭そうにため息をついた。
「無理矢理じゃねぇだろ。散々よがり狂ってたくせに。合意だ合意」
「やだって言ったもん!」
「いつも最初だけだろうが。あれなに? そういうプレイ?」
「全力で嫌がってんの!! ライさんのばか!! スケベ!!」
「……?」
ライはやはり首を傾げた。
ライは別に思い込みだけで「合意」と言っているわけではない。
希望が昨夜やだやだと抵抗らしきことをしていたのは、拒絶ではないとライにはわかっていた。丁寧に口説けだの、優しく甘やかせだの、ふざけたことを喚いている時の希望は満更でもないのだ。
鬱陶しい甘え方だが、これは煽っているのだと解釈して許している。このくらい可愛いものだ。本気で鬱陶しい希望はもっと死ぬほど、いっそ殺した方が楽なのではと考えるくらい鬱陶しいのだから、このくらいならまだ可愛い。ギリギリで。
しかし、昨夜のあの乱れようで「合意じゃない」と罵られるのは少々心外だ。
合意じゃなくてもライは全く構わないのだが、希望の甘え方、求め方、身体の反応と声、締め付けの良さ、ライの身体に残された爪痕に噛み痕、全てが希望が望んで抱かれていたことを物語っていた。
それなのに、嫌だった、など言われるとは、誠に遺憾である。
せっかく可愛がってやったのに生意気な。
もういっぺんぶち犯してやろうかこのクソガキ。
ライは希望に手を伸ばそうとしたが、唇を尖らせる希望の顔を見て、ふと考え直した。
もしかしたら希望は本当に「自分は嫌がっていた」と思っているのかもしれない。正気を失うほどに快楽に身を任せていたから、情事の最中の記憶が飛んでいるのかもしれない。
そして、自分の嫌がっていた記憶と朝起きた時の身体の重さと気だるさだけが結び付いて、ライのせいにしているのかもしれない。
そういうことなら仕方ない。その顔も身体も声の反応も好みだし、快楽に素直なところも気に入っている。許してやらなくもない。
勘違いしているだけなら、正してやればいいだけの話だ。
ライはおもむろに立ち上がると、寝室へと向かった。
それまで黙って希望を見つめているだけだったライが動き出して、希望はビクッと震える。
「……? ラ、ライさん?」
不安そうな希望を置いて、ライは寝室に入っていった。
***
ライは寝室からあるものを持ち出した。
不確かな記憶で言い争っていても時間の無駄だ。希望の抗議にいちいち相手にしてやるのも煩わしい。これを見せてやれば納得するだろうとテレビの電源をつけた。
『ああっ! あっ、ぁあっ……! んっ、ライさんっライさぁっ、……あぁんっ!』
昨夜の情事が、リビングのテレビ画面に映し出された。
ライが持ち出したのはビデオカメラだった。
ただの記録用だったが、希望がそこまで言うなら仕方ない。ライの言葉が信じられなくても、自分の淫らな姿を見れば理解できるはずだ。見せる予定はなかったが、今回は特別に見せてやろう、と再生させた。
希望は画面を凝視したまま固まっている。
希望が何を見てそんなに驚いているのか、ライには不思議だった。映像は昨夜の光景そのままで、特に加工は施していない。驚くことは何もないはずだ。
ベッドのサイドテーブルに置いて撮影しているから、表情が見えづらいのが不満なのかもしれない。
「ほら、嫌がってないだろ?」
「……!!」
「顔があんまり見えねぇな。角度変えてみるか。今度は正面から撮ってやるよ」
「こっ……このやろぉおおおおお!!」
希望は顔を真っ赤にして、ライに殴り掛かった。
渾身の一撃を、ライはあっさりと避ける。
避けながら希望の腕を掴んで、後ろに捻り上げ、ソファに捻じ伏せた。
「殴らせろ――!! ライさんの馬鹿ぁ――!!」
「……?」
ライは首を傾げた。
暴れる希望を慣れた手つきで抑え込んだまま、ライは少し考える。希望が何故こんなにも怒り狂っているのか、ライにはさっぱりわからなかった。
「急にどうした? びっくりして手元狂ったらどうすんだよ」
「いたたたたっ!! ……うぅぅ……!」
必死で暴れれば暴れるほど、より強い力で抑え込まれて、腕が軋む。希望は痛みで涙を滲ませながらも、ライを睨みつけた。
鋭い眼差しは強く、八重歯は牙のよう。圧倒的な暴力に抑え込まれ捻じ伏せられ、屈辱を感じているだろう。それでも歯向かう意思を見せる姿が愛おしい。堪らなく可愛い。蹂躙して、喰い尽くしてやりたい。
しかし、希望が不機嫌なままだと後々面倒なことのなりかねないので、きちんと納得させなければならない。
今だって、ただ証拠の映像を見せただけなのに、希望が怒り出すのも不可解だ。ライには希望が怒る理由に心当たりがひとつもなかった。
「あっ、や、やめっやめて! やだっ! 離せ!」
ライは希望の捻りあげた腕と同じように、反対の腕も背中に回した。希望の着ていたパジャマをはだけさせ、両腕を纏めてしまう。希望は当然抵抗したが、ライは器用に抵抗を封じて、あっという間に縛り上げた。
希望を起こして膝の上に座らせ、背中に回っている腕を希望の背中と自分の身体で挟む形で抑える。後ろからしっかり抱き締めてしまえば、希望は逃げられなくて唸った。
「うぅぅ! 離せよぉ!!」
「なんで怒ってんの?」
「なんで怒ってんのだと?! こんなの撮ってるからだよ!! ライさんのばかっ!」
怒りと悔しさで涙を滲ませる希望の顔は真っ赤だった。しばらくその表情を眺めて堪能した後、希望の示す『こんなの』に目を向ける。
『あっ、あっ! ああっ! ひゃぅっ…んぅっ……!』
映像では、希望がライの首に腕を回してしがみついたところだった。揺さぶられるのに合わせて、嬌声を上げている。
ライはじっと映像を見ている間、希望は耳まで真っ赤になって、俯いていた。
「……画面暗いのがそんなに気になる?」
「違うよ!!」
「よく映ってると思うけどなぁ、角度がいまいちだったけど」
「違うから!! そんなことで怒ってると思ってんの?!」
「んー?」
ライは希望の顔を見つめながら首を傾げる。
希望はまだ必死に喚いているが、ライは映像の希望と目の前の希望を見比べて、ああ、と一人頷く。
「ライさん! 聞いてる?!」
「ああ、わかった」
「えっ? じゃ、じゃあ離し……」
「そんなに心配しなくても、お前の方が可愛いよ」
「こ、この人全然話聞いてくれない! 誰か助けてぇ!!」
希望がまた暴れる。
希望は決して弱くない。同級生と比べれば背丈もあるし、鍛えている分力もある。力任せに暴れられると、ライも力加減を誤りそうだった。あまり強く抑えると、腕の一本か二本、折ってしまうかもしれない。
仕方がないので、片腕で希望の身体ごと抱き締めて、反対の手で顎を掴んで顔を上げさせる。
「落ち着けって。ほらぁ、よく見てみな?」
「うぅっ……っや……!」
耳元に唇を近づけて囁くと希望は身体を震わせた。自らの痴態を見せつけられて、希望は恥辱で死んでしまいそうだった。
一晩明けた後の自分がこんな目に合っているとは知らずに、昨夜の希望は快楽に酔いしれている。後ろから責められながら、胸のぷっくり膨らんだ小さな果実を弄ばれて、身体を仰け反らせて悦んでいた。きもちいい、きもちいい、と甘えた声で叫んでいる。
「ちゃんときもちいいって言ってる。覚えてない?」
「おっ、おぼえてなっ……ひゃぅっ!?」
ライが映像の中と同じように、希望の胸の突起をきゅうっと摘まむ。希望は自分の素肌が晒され、つんと尖ったピンク色が無防備であることをすっかり忘れていた。
強い刺激を急に与えられて、希望の身体が強張る。すると、ライはぷくっと立ち上がった色濃い先端を指先で優しく擦った。
「ンッ……あっ…あぁっ、ダメっ……!」
「同じことしたら思い出せそう?」
「……っ!! やっやだ…っ!」
「大丈夫だよ、身体は覚えてるから」
「あっ! ああっやっ、やめ……っ!!」
希望が逃れようと身を捩ろうとすると、胸を弄ばれてびくびく身体が震えてしまう。胸の果実が昨夜のようにぷっくりと膨れて熟れていく。
「ひゃぁっ、あっ! んっ……! や…っ! も、もうわかったからぁ!」
「何が?」
「…っ……き、きのうの、こと……! ……んっ! あぁっ……!」
閉じていた太股を開かせて、内側の弱い付け根を擦ると、希望は熱い吐息を溢した。
緩やかに、確実に追い詰める愛撫に、希望は震えていた。
「あぁっ……はぁ、っあぁ……もっ、ゆるして……!」
許すも何もない。ライは怒ってなどいなかった。
強いて言うなら、反抗的な希望があまりに可愛いので、もっともっと可愛がってやりたいだけだ。希望の意思は関係ない。
とはいえ、つい先程、『嫌だったのに!』と怒られたばかりなので、たまには希望の意思も尊重してやってもいいかもしれない。
希望に聞いても、やだやだ、だめだめ、としか言わないので、しっかりと見極めて、本心を探らなければならない。どうしようもなく手のかかる、面倒な男だ。
手のかかる子ほど可愛いという言葉がある? うるせぇ、黙れ。
ライは呆れながらも、希望の顔をじっと見つめた。
「ら、ライさぁ、んっ……もぉ、だめぇ……!」
希望は散々暴れた後、身体を弄ばれて息が上がっている。頬は薔薇色に染まり、首筋までしっとりと汗ばんでいた。厚めの唇が薄く開いたまま荒い呼吸を繰り返していて、赤い舌と白い八重歯がチラチラ覗く。長い睫毛に縁取られて印象的な金色が潤んで揺れていた。
なるほど。
ライは頷くと、膝の上から希望を降ろして、ソファに仰向けに寝かせる。
「ライさん!? あっ、やっやだっ…! だめっ……!」
「わかってる、大丈夫」
「な、なにがっ!? あっ…んぁっ、っあぁ!」
ライはすべて察した。
これはいじめてほしいって顔だな、と。
***
「んも――!!」
朝起きてから昼過ぎまで、弄ばれた希望はクッションで、ばしばしっ! ばふばふっ! とライを叩く。
ライの家にはもともとなかった、猫の形をしたクッションだ。なんだか間抜けな顔をしている。いつの間に持ち込んだんだと、ライは不思議に思った。
そもそも、猫なのかこれは?
ライが考えている間も、希望は謎の生物のクッションを振り回して、ずっと怒っている。
「ライさんのスケベ! ダメっていったのに!」
ライは呆れた様子で希望を眺めた。
今回は希望の望み通り、希望が懇願するまでいれなかったのに、何故かご立腹だ。
ライには意味がわからなかった。
「あれで拒んでるつもりなのか?」
「そうだよ!」
「へぇ。じゃあ今晩、最後まで『やだ』って言い続けられたら、認めてやるよ」
「望むところだ!!」
希望は猫っぽい生物のクッションをぎゅうっと抱き締めてライを睨んだ。
気高く力強い眼差しだ。
ライは呆れて笑ってしまった。
「何笑ってんだ! 次は負けないんだから!!」
キャンキャンッと希望が吠える。
くそチョロいな……大丈夫かこいつ……。
***
その夜、希望はベッドでライを待ち構えていた。
「ヤれるもんならヤってみろ!!」
「……」
「なに?」
「いや、べつに」
ライが希望を押し倒す。希望は抵抗しなかった。
逃げればヤられないのに……というわけでもないが、逃げずに立ち向かおうとする希望が可愛くて仕方ない。頭は悪くないはずなのに、ライと対峙してる時の希望はどうしてこうも愚かなのだろう。捻り潰してやりたいくらい愛おしい。
その愚かさを、丁寧に丹念に犯し尽くして後悔させてやらねば、と服を脱がせた。
***
「やっやだ……! あっ、あんっ」
少し胸を弄り、首筋にキスして吸い上げただけで、希望はびくびくと身体を震わせた。
ゆっくりと愛撫を繰り返す。
時々目が合うと、希望がキッと睨む。その度に、加虐心と情欲が交わって、ずぐりと腹の奥が疼いた。
けれど、今は希望の反応を楽しむ方が先だ。暴れ出しそうな衝動を抑え込んで、無抵抗で耐える希望を弄んだ。
「やっ……! んんっ……!」
「んー? なぁーに?」
「あっやっ……やだぁっ! んっ! ああっ!」
「えらいえらい、ちゃんと言えてる。頑張れ」
「えっ? う、うんっ!」
少し誉めると瞳を輝かせた。
喜ぶとこじゃねぇよ、と呆れつつも、頬を染めて快楽に耐える姿は可愛い。身体を震わせ、ぷっくりした唇からは熱い吐息が艶っぽく溢れる。
まあでも、もういいか。
じっくり慣らしたそこは、少し撫でるだけでひくついて、雄を受け入れようと媚び強請る。希望の足を掴んで、大きく開かせた。
ひくひくと赤く熟れた蕾が待っている。誘われるままに蕾に押し付けると、希望は快感への期待で瞳を潤ませて、じっとそれを見つめていた。
「あっ……! やぁっ、っあぁ……、……っ? あ、えっ? あれぇ……?」
希望は急に、はっ、とした顔をして、ライを見上げた。
愛撫に蕩けていたのに、正気に戻ったようだ。
希望は目を丸くしてライを見つめて、『これって、やだって言い続けても言えなくなっても最後までやられちゃうのでは?』と言いたげな顔をしている。
間の抜けた表情が、あの謎の猫みたいな姿のクッションに似ていて、ライは笑った。
やっと気づいたなこいつ。おせぇよ。
ライは可笑しくて可笑しくて仕方なかった。
ライの笑みに気づいて、希望は急に焦り出す。
「あっ、ま、まって……んんっ!」
戸惑うように両手を前へ出し、ライを止めようとしている。けれど、ライが止まることはなかった。受け入れる準備もできてしまっていて、ずぐり、と先が入り込む。希望は悲鳴を上げた。
「ああっ! あっ、あっ! だめっだめぇっ! んっ!」
「だめぇ? やだじゃなくて?」
「あっ……、やっ…! んぅっ……! あぁっ、あぁん!」
希望は首を振っていやいや、と逃れようとする。その両腕を掴んでベッドに押し付け、抑え込んだ。
とろんと潤んだ瞳は陥落しているようにしか見えない。それでも希望は「だめ、だめ」とうわ言のように呟いている。まだ耐えているつもりらしい。
奥まで深く突くと、希望は大きく身体を仰け反らせて、一際高い声で鳴く。ビクビクと身体を震わせて、ライを締め付けた。
希望の身体がこんなにも快楽に弱いのは、ライが教え込んだせいなので致し方ない。それでも抗おうとする気丈さが、狂おしいほどに愛しくて憎たらしい。
そのプライドをへし折って、どろどろになるまでいじめて可愛がってやりたい。
「ちゃんと撮っておいてあげる」
「ふぁっ、あっ……、……えっ!?」
「さっきのじゃ表情わかりにくかったもんな。ここからならよく見える」
言われるまで気付かなかったのだろうか。撮影している携帯を見せると、希望は目を丸くして真っ赤になった。
「だっ……! だめっ! やだっ! やだやだ!」
希望は両腕で顔を隠そうとする。これではまた顔がよく見えない。
邪魔な両腕を、希望の頭上でまとめて押さえる。咥え込んだままでは力が入らないらしく、ライの片手であっさり封じられた。
「はっはなして! だめっ…アァッ! ぁあんっ!」
そのまま揺さぶると、感じて揺らぐ瞳もよく映る。これならあとで自分がどんな顔をして抱かれていたかわかるだろう。
覚えてない、なんて言わせない。
隠せなくなって、逃げられなくて、せめてもの抵抗で顔を背けている。
「いやっ、やぁっ……ぁあっ! あぁっ…うぅっ…んぅっ!」
ぎゅうっと目を閉じて耐えていたが、うっすら目を開けてライに視線だけ向ける。
自分に向けられているレンズを再確認して希望は瞳をよりいっそう潤ませた。屈辱と羞恥が耐え難いのか、声が震えている。今にも泣きそうな声で、ぽつりと呟いた。
「……おっ……おれもとるぅ……!」
ライは一瞬だが、僅かに目を丸くした。
「ん?」
「らっ、らいさんばっかり、ずるいっ……! おれもとるぅ……!」
ぐす、ぐす、と少し鼻をすすって希望は訴える。
少し考えていたライは、すぐに笑った。
ずるいってなんだよ。
やだと言ってもやめてもらえず、逃げられもせず、恥ずかしさで混乱しているのだろうか。
いずれにせよ、希望が必死に考えたあげく、ライへの対抗手段で出てきた答えがこれなのだ。意味がわからない。
「どーぞ」
「えっ」
今度は希望がきょとん、とした顔でライを見上げた。
ライは自分の携帯を置いて、代わりに希望の携帯を差し出した。カメラを静止画から動画に切り替えて、希望の両手で持たせる。
「ほらちゃんと構えて」
「え?」
「はいスタート」
希望の代わりに、ライが録画開始画面に触れる。希望はきょとん、としたままだ。
「え? あ、でもっ……! あっ、あっ! あぁんっ!」
再び揺さぶられて、希望はビクビク身体を震わせた。
「揺れてるって、ちゃんと撮れよ。ほら、こっち」
「そ、そんなこと、いっわれて、も……! あっ! ひゃぅんっ! あっ、あぁっ、あぁん!」
***
「お前撮るの下手だなー」
「……」
「ずっとぶれてんだけど」
ライが希望の隣で先程までの情事を再生している。
希望が撮った映像では、ライの顔の半分から下、胸から腹あたりで揺れていた。ライの顔がほとんど映っていない。ただ、やたら楽しそうに歪んだ口元だけが映像に残っている。
こんなに笑っていた自覚はなかったので、ライには興味深いことだった。
「お前の声はすげぇよく聞こえるけどな」
「……うぅ――」
ライの隣で布団を被って丸まっていた希望は恥ずかしさのあまり唸って出てきた。今度は頭を抱えている。
「なんでこんなことに……! ダメって言ったのにぃ……!」
「次は頑張れば?」
「頑張ってもやられるじゃん! もう騙されないぞ!」
「騙してねぇだろ。お前がちょろすぎるんだよ。何がヤれるもんならヤってみろだ。ヤられるに決まってんだろ」
「……っ……」
希望は黙ってしまったが、むすっとして膨れている。不満を露にしている。子供じみた態度だ。それでライが謝るとは思っていないだろうに、それでも『俺は怒っています』と主張している。
「何が不満?」
「……」
ちらりとライを睨んで、何か言いたそうな顔をして、俯く。
「……ちゃんと丁寧に口説いてって言ってるのに」
「口説かれたらヤらせんの? 尻軽め」
「違うもん……」
からかうように言えば、希望はますます俯いてぎゅうっと唇を尖らせた。
「……ライさんじゃないとだめなのに……」
希望のこんな面倒で我が儘な一面を知っている者は、おそらく少ないのだろう。自制心の強い、厄介な男だから。他の人間の前ではいいこにしているらしい。
「……気が向いたらな」
希望がぱっと顔をあげて瞳を輝かせた。
「本当に? ちゃんとあまーく優しく丁寧に口説いてね! いつでもいいからね! 毎日でもいいよ!」
希望はにこにこ笑っている。
気が向いたら、と言っているのに、どうしてこんなに簡単に期待するのだろうか。いつになるかもわからないことなのに、希望はその日が来ることを確信している。ライには不思議だった。
しかし、それで機嫌が直るなら楽でいい。
例えこのあと、しばらくの間、『ライさん、いつ口説いてくれるんだろう?』とそわそわした落ち着きのない希望に纏わりつかれて、二人きりになって近づいただけで期待の眼差しが煌めき、星をぶつけられることになるとしても、なんとかなるだろう。放っておこう。
こうやって、掌でコロコロ転がっている希望は可愛い。
時々跳ね回って飛び出していくが、自分から戻ってくるなら許そう。自分の気分と希望の態度次第だが。
戻ってこなくても問題はない。何度でも連れ戻すし、何度でも証を刻み付けて、次は絶対に逃がさない。
希望がどこへいこうと、ライには関係ないことだった。
そうやっていつの日か、他の世界や他人のことなどぜんぶ忘れて放り出して、この掌の中でしか生きられなくなればいい。
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