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1.恋する幼馴染

 奏汰 side 幼馴染が好きだ。  そいつは生まれた時からずっと俺の隣にいた。  どこに行くにも、何をするにも一緒にいて、家族いや、それ以上に同じ時間を過ごした。  いつからか、なんて覚えていない、気づいた時にはもうそいつの事が好きで、他の誰でもないそいつの一番になりたい。  そう思うようになっていた。  …とまぁ、これが普通に可愛い女の幼馴染だったら少女漫画や恋愛小説として、きっと盛り上がる物語なんだろうが 「そーうちゃん!!」 「うぉっ」  ガバッ 「うへへ~」 「おっ、まえな~、危ないから急に抱きつくなっていつも言ってんだろ!自分の体格考えろよな、このバカ颯希!」  そう、俺が好きな幼馴染は可愛らしくか弱い女子ではなく体格の良い俺と同じ男なのだ。 ■□■  俺の名前は 松永奏汰(まつなが そうた)  この春から星雲高校せいうんこうこうに通うことになる、ピカピカの高校1年生だ。 「入学式緊張するね~。て言うかそうちゃんと同じクラスになれるかな?なれるといいな~」  そう言いながら、不安そうに表情を曇らせるこいつは 向井颯希(むかい さつき)。  俺の幼馴染で、好きな奴、だ。  両親が高校の同級生で仲が良く、結婚するまでずっとルームシェアをしており、結婚してからも隣同士家を建て、自分達の子供も同い年がいいね、なんて話をして、それを実行に移す破天荒な親だ。  考えると頭が痛くなる……  だから俺と颯希は、母親の腹の中にいた時から一緒にいる。  誕生日は俺が7月颯希が9月と若干ズレている。  両家の両親はその事について、「本当は同じ誕生日がよかったけれどそう上手くは行かないよね~」なんて今でも酒のつまみ、とばかりに話し出す。  あ……頭痛が……  そんなふうに俺が、頭を抑えていると 「そうちゃんどうかした?」  と、心配そうに顔を覗き込んでくる颯希の髪がサラリと揺れる。  俺の黒髪とは違う色素の薄い金色の地毛、整った顔立ち、ほんわかした雰囲気。  そう、幼馴染である向井颯希と言う男は憎たらしいほどにのイケメンなのだ。  爺さんがフランス人らしく、クォーターである颯希の髪は、薄い金髪で目は灰色、と言う少々日本人離れした容姿をしており、小さい頃は髪も伸ばしていたからか、何度も女に間違われたり同じクラスの男子にちょっかいをかけられたりしていた。  その度に俺がどれだけ苦労したか……  同い年の奴らならまだいい、だがしかし変態親父や誘拐犯、痴女など、お前どんだけ事件に巻き込まれんだよってくらいにこいつの周りは危ない奴に囲まれていた。  そのくせ、本人には危機感と言うものが備わっていないのか、鈍感なのか、ただの馬鹿なのか、全く気にしておらず、ずっと一緒にいた俺の方が神経過敏になってしまい、こいつは俺が守らなきゃやばい、マジでヤバイと言う気持ちのもと、剣道、柔道、空手、あらゆる武術を習い、今では多分普通の大人なら負けねぇくらいに強くなった。 「奏ちゃんのお陰で、さっちゃんは無事にここまで大きくなったのよ~」  なんて颯希の母ちゃんは言うが、本当にその通りだと自分でも思うし、良く幼馴染の為にここまでやったな俺、とも思う。 「ん!そうちゃんには感謝だー」  と言う、颯希には頭を小突きながら 「お前はもっと自分の事なんだからしっかりしろよ」  なんて、つい声を荒らげてしまう。  けれど、それでもこいつの側を離れられないのは 「全部惚れてるからなんだろうなぁ……」 「ん?そうちゃんなんか言った? 」 「いーや、なーんも」  思わず思ったことが口をついて出てしまったが、幸い颯希には聞こえていなかったようで誤魔化した。  そんな俺に「えー何それー気になるー」とうるさく纏わり付くので頭に軽くチョップを入れるため、少し背伸びをし額めがけて手を振りかざす。  ゴチン  なんて、良い音がして「った~」っと颯希がその場にしゃがみ込んだ。  畜生、昔は俺よりちっさかったくせに無駄ににょきにょき伸びやがって……  俺の身長は161cm、高校1年生にしては少々低い、それに対して颯希は170cm  同じものを食べているはずなのに何故ここまで身長に差が出るんだっ……と落ち込んでいた中学生の俺に剣道の師範が言った言葉を俺は今でもはっきり覚えている、その後起こった出来事も 「あ~成長期にね、筋肉を一気に沢山つけちゃうと身長ってあまり伸びなくなるらしいよ」  呆然。  その後、お前のせいで俺の身長止まっちまったじゃねーかコノヤローっと、俺が理不尽に怒鳴った翌朝颯希は眠そうな顔をして何十枚もの紙を俺に突きつけこう言った。 「筋肉のせいで身長が伸びないっての嘘だよ。ネットとか、医学本とか、読んだけどもそれらしいことは書いていなかったし、ただ骨の成長にとって重要な関節に過剰な負荷をかけてはいけないって事が曲解されてそう言われるようになっただけ、よって奏汰クンの身長が伸びないのは俺のせいじゃありませーん」  そう言いながらジト目で俺を見た後、颯希はその日スタスタスタと俺を置いて学校に行ってしまい、それから1週間俺が悪かったなと渋々言うまでへそを曲げて過ごした。  周りから見た俺達の関係は、俺ばかりが颯希を怒鳴っていて颯希はニコニコしてあまり怒らないイメージらしいがとんでもない、こいつだって怒るし怒鳴るしへそをすぐ曲げるし頑固だ。喧嘩したら俺より頭が良い分ネチネチネチネチ言ってくるし、怒鳴ったら俺と同じくらい口が悪くなる。  だけどこいつ外面だけは良いからな……  そう、皆騙されているのだ、奴の外見と人当たりの良さそうな雰囲気に…… 「はぁ……」 「え、ちょ、急にチョップしといてため息とか酷くない!?」 「ほら、さっさと立てよ。入学式遅れんぞ」 「え、ここに来て無視!?無視するの??」  そうやってきゃんきゃん騒ぐ颯希の事は無視した。

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