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8.恋する後輩
愁也 side
ドカッ
バキッ
「やっぱすげぇや……」
数の不利をものともせず、次々に向かってくる敵を倒すヒロ先輩は本当にカッコよくてすごく、
「綺麗だ」
無駄のない動き、キレのある蹴り、そのどれもがカッコよくて思わず見惚れていた俺は自分が置かれている状況なんてとうに忘れていて
「くそっ、」
「わっ」
男に腕を勢いよく引かれバランスを崩した。
「愁!?」
「舎弟じゃないってんならどうなってもいいよな、こんな奴」
そう言う男の手にはナイフが光っていて俺は思わず固まってしまう。
うーわーこれも漫画で見たことあるシーンだわー
て言うか結構ピンチじゃね?
俺!
そんな現実逃避をしていた俺を怖くて身動きができないと思ってか男はニヤニヤしながらナイフをちらつかせヒロ先輩の方を見る。
「なー、いいよな笹原さん」
「確かにそいつは舎弟じゃないつった。けどな、舎弟じゃなくてもそいつは俺の大切な奴なんだよ!!」
そう言ったヒロ先輩の言葉に男は先程と同じように悲しそうに顔を歪ませ
「なんっ、なんだよぉぉぉ!!」
と叫び声をあげてヒロ先輩に殴りかかる。
けれどそれを簡単に躱したヒロ先輩の蹴りが男の腹に直撃する。
いったそ……
そして地面に蹲る男に近づき
「この落とし前きっちりつけるんだよな、あぁ?」
なんて聞いたこともないようなドスの聞いた声で男の胸倉を掴む。
ヒロ先輩そんな声も出せるんですね……ってそんなこと言ってると場合じゃない!
「ヒロ先輩!俺、俺大丈夫っすから!怪我とか何もしてないっすから!!」
そう言って必死にヒロ先輩に言葉を投げかける。
そんな俺の必死さが伝わったのか
ドンっ
「二度と俺の前に面出すな。愁、行くぞ」
手を離し先程とは打って変わって冷たい声音で男にそう吐き捨て俺を呼んだ。
「んでだよ……。なんで、なんで俺達のこと見捨てたくせにそいつの事は見捨てねぇんだよ、なんで!」
そう後ろで苦し気に絞り出すように言う男の言葉を無視してヒロ先輩は歩いていく。
けど、けど俺は……
「あっ、おい愁!」
この人の根底にある気持ちに気づいてしまったから。
共感してしまったからこのまま、はい、終わりって帰れなくて……
男の隣に膝をつく。
「あんた、寂しかっただけなんすよね。急にヒロ先輩が居なくなって自分達と違う世界に行っちゃって見放されたように感じただけなんすよね。好きだったから、喧嘩がすっごく強くて優しくてカッコイイ先輩に憧れていたから、そんな先輩が居なくなるのが嫌だったんすよね。だから俺みたいなのが急に現れて目障りになって構って欲しくてヒロ先輩呼び出したり俺の事連れてきたりしたんですよね」
「っ……」
「でもやっぱりこう言うやり方良くないと思うんす。て言うかヒロ先輩もあんた達も言葉で話し合うって事吹っ飛ばして拳と拳のぶつけ合いとかいつの時代のヤンキー漫画だよって感じだし、言葉にしないとやっぱ伝わんないっすよ」
そう言う俺を見てヒロ先輩にはため息を吐かれたけれど男の人は小さく息を吸って
「笹原さん……何でチーム抜けたんすか何で俺らのこと見捨てたんすか、俺らずっと、ずっと何でってどうしてって言葉ばっかりぐるぐる頭ん中まわって、それで!だから!!」
そう言葉を放った。
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