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001 やっぱりいいな、この男:R
「ねぇ、僕に抱かれてみない?」
高1の秋。
LHRで学祭の出し物を話し合う最中。クラスメイトの川北 紫道 に、前フリなくそう言ったら。
「からかうな……俺は……」
ひどく驚いた様子の紫道は、見開いた目で僕を見つめ。半分開いた口を閉じてまた開けて。
続きがない。
「男はダメなの?」
重ねたこの問いに答えない……てことは、ダメじゃなくアリ。
「抱くほうがいい?」
イエスって言っても、ネコになってもらう。
けど、聞いてみた。
答えず、紫道が溜息をつく。
「玲史 。俺は、遊びではやらない。ほかあたってくれ」
「ふうん……」
じゃあ、おつき合いしよう!……とは言わなかった。
恋愛なんかに興味ないし。
1回やってみなきゃ、セフレになれそうかもわかんないし……って。
どうだろ。紫道にとっては、セフレも遊びに入るのかな?
いかにも硬派って感じの紫道は、ゴツめなのにキレのある顔で。長身で鍛えられた身体をしてる。
外見はメチャ好み。
ただ、すごくマジメで。一緒のクラスだけど、話すようになったのはごく最近で。エロ話なんかしたことなくて。
だから、僕の誘いに面食らうのは当然か。
プラス。
ケンカは得意でも見た目は華奢な僕がタチなのも、意外だったみたい。
うちの男子校の半分はゲイだけど、学園内の男に手を出したことないから……僕の性癖を知ってるのは数人だけ。
「また誘うけど、気が変わったらいつでも言って」
ニコッとする僕を見る紫道は訝しげ。
「お前、俺をって……冗談じゃないのか?」
「うん。抱いてみたい。ていうか、攻めて泣かせたいなぁ」
僕の言葉に強張った紫道の顔。
悪くない。
欲情と羞恥に歪ませて、ドロドロにしてあげたい。
いつか、ぜひ!
初めて興味を示して見せたこの日から1年。
期待しないで何度か誘ったけど、紫道の返事はいつもノー。軽く誘ってるから、軽くノーされる……みたいな。
どうしてもってわけじゃないし。
手に入らないモノに執着するほど熱くないし。
セックスの相手に困ってもいない。
でも。
心は要らないから、身体を支配させてほしい。
いつもは手軽に落ちる男を相手にしてるし。
すんなり応じてくれない相手に手間ヒマかけることもないのに……紫道へのこの欲望は、何故か消えないんだよね。
そして今。2-Bの教室。
1年前と同じ、学祭の出し物を決めるLHR。
また一緒のクラスになった紫道と僕は学級委員で。同じく1年から一緒の委員長、早瀬 將悟 と教壇の縁に腰かけてお喋り中。
出し物の案を話し合う時間なのに。クラスメイトたちの関心は今日きた転校生、柏葉 凱 に注がれてる。
「僕も今から立候補しとこうかな」
ノンケだって言う転校生と、ゲイの道をすすめる周りの子たちの会話を聞きながら呟いた。
「え!? お前、ゴツめ悪めの男が好みじゃなかった?」
意外だって顔を向ける將悟に微笑んで。
「 そうだよ。でも興味深いんだよね、柏葉くん。ヘラヘラしてるけど、すごく影あると思うから。影って言うか闇? ああいう男を快楽で狂わせてみたい」
率直な意見を。
最初の自己紹介は素っ気なく様子見して、今は気さくで軽いキャラの柏葉くん。
コレ、絶対作ってるっていうか……本性隠してる。
「来週は中間テスト、一月後には学祭。トラブルはごめんだ。ノンケに手を出すのはよしとけ」
紫道に忠告された。
「その通りだ、玲史。転校生はよそのクラスからも注目されて、ちょっかい出されやすい。わざわざうちで面倒を起こすな」
將悟にも。
「わかってるってば」
溜息をつく。
「あーつまんない。紫道は誘っても遊んでくれないし」
「お前の欲望についてける自信はないからな」
苦笑する紫道を見て思う。
2年になって僕の性癖のこと少しは話したけど……僕の欲望、何がメインか知ってるの?
ついてこれなくてもノープロブレムよ?
バリタチだからね。
きみは何もしなくていいの。
全部僕にまかせてくれれば。
自信なんか必要ないから。
ただ。
僕の好きに攻めさせてくれるだけでいいんだけどなぁ。
なんて。
これ言う前に、何か策を練らないと。
『遊びではやらない』が、『自信はないから』になったのは進歩?
脈はゼロじゃない。前よりオトモダチとしての親密度はアップしてるしね。
でも、まぁ……そのうち。うまくいくタイミング、来ればラッキー。
そんなことを考えつつ。
將悟に彼女のことを聞いた流れで、柏葉くんに声をかけた。
「僕は玲史。僕も凱って呼んでいい?」
「いーよー。よろしく、玲史」
凱はニッコリして。
「みんなもねー。セックスの相手はしねぇけど、ゲイの友達も大歓迎だからさ。よろしくー」
無愛想だった自己紹介のときとガラリと変わり。みんなにフレンドリーさをアピールして、一気にクラスに馴染んだ模様。
「凱……か。確かに興味深いな」
紫道の言葉に、肩眉を上げた。
「ちょっと、紫道。凱に抱かれる前に僕でしょ?」
ずっと目をつけてた獲物をかっさらわれるの、おもしろくないよね。
獲物自らが身を差し出すのは、もっとイヤ。
「玲史……お前の見方はどういう基準だ? 人が見かけに依らないのはお前で十分わかってるが、凱と俺で何で俺がネコなんだよ」
不服そうな紫道。
自分をわかってないなぁ……。
「凱もネコっぽいけど、紫道のほうが僕にはそう見える。攻められるの好きでしょ?」
「好きじゃない。痛いのは嫌いだ」
「でも、焦らされて我慢して懇願して、耐えられないくらいの快感を得る……ほら、想像してみて?」
「何言ってんだ……」
あ。
想像した。
で、焦ってる。
「そういうの期待するだけで感じるタイプだよ、紫道は。きっとハマるって」
「……勝手に言ってろ」
紫道が顔赤くしてそっぽ向いた。
かわいい。
うーん。やっぱりいいな、この男。
ほしい……!
僕に抱かれてみてもいい……紫道にそう思わせるために。
ちょっと、がんばってみようかな。
紫道を落とす意欲を新たにしながら。
セフレからの『今日、いつもんとこでいい?』ってメッセージに、オッケーの返事をした。
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