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宇宙人の王子様・7
キッチンから出てきた衛さんが、清潔なタオルで手を拭きながら俺とヘルムートの顔を交互に見る。
「交番に行ったんじゃなかったのか?」
「衛さん、えっとあの、実は――」
「衛さん! おれ、ヘルムートといいます! 千代晴のおうちでお世話なってます。衛さんのケーキ屋さん、お手伝いしに来ました!」
「はぁ……?」
呆然とする衛さんに今度こそ事情を説明しながら、俺は自分でも「ぶっとんだ話だ」と思わず笑いそうになってしまった。宇宙人の王子様が政略結婚から逃げてきて、懐かれました――なんて、今どき小・中学生でもこんな酷い妄想はしないだろう。
だけど全て本当の話だ。疑うよりも嘲笑いながら、それでも認めるしかない事実だ。
「うーん……。にわかには信じ難い話だが……」
案の定、衛さんも苦笑いしている。
「連れて来るのはどうかと思ったんですけど、家に残しておくのも不安だし、どうしたモンかなと思って」
「ヘルムート君……」
「はいっ!」
大きな青い目がばっちり見開かれ、衛さんをじっと見つめている。
「………」
衛さんはパティシエという肩書きがなければただの女好きのおじさんだが、ヘルムートの愛らしさとこの大きな目には何か惹かれるものがあるようだ。視線を合わせたまま、年甲斐もなく頬を染めている。
「衛さん。おれ、衛さんのイチゴの丸いケーキ食べました。すごく甘くて、しあわせで、ふわふわな気持ちなりました……。プラネット・クーヘンに衛さん来たら、きっと星中のお姉さん達、衛さんのこと大好きになります」
「な、何だって。そんなにか?」
「はい。クーヘンの人達、おれも……みんな甘いの、特にケーキやお菓子大好きです。ケーキ作れる人、とても大事にされます。衛さんカッコいい。お姉さん達みんな、衛さんのこと夢中になります」
カッカッと顔中から湯気をたたせている衛さん。何やら頭の中では良からぬ妄想を広げているらしい。ヘルムート、意外にヤリ手だコイツ。
「……よし、ヘルムート。大した給料は払ってやれないが、なるべく君の地球での生活を援助しよう。千代晴のことを頼んだぞ、コイツはきっと良い旦那になる」
「はい! ありがとうございます、衛さん!」
「……単純なおじさんだな……」
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