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ビフォア・バースデイ・8

〈王から話は聞いている。ヘルムート王子。君は俺様からの結婚の申し出を振り切り、地球人の一般市民と駆け落ちをしたらしいな〉 「か、かけおちって何ですか……?」  この男はヘルムートが地球に逃げてきた原因だ。ビジョン越しとはいえ心の準備もないままそれを前にし、明らかに狼狽している。  俺はソファから身を乗り出し、ビジョンに向かって言った。 「駆け落ちとは違うけど。俺がヘルムートと結婚することになった地球人、佐島千代晴だ。ヘルはお前から自分の星を守るために地球に逃げてきた。それだけは忘れるなよ」 〈何だこの生意気な小市民は……。俺様はプラネット・ヴァインの王子だぞ〉  あからさまに不機嫌な様子で、カインが腕を組み俺を睨みつける。 「王子だろうと関係ない。お前にヘルの星を好き勝手にはさせねえ」 〈何だと貴様、偉そうに……!〉 「まあまあ! ケンカしないで!」  ナハトが俺の肩を引いてビジョンから離した。 「千代晴ちんもヘルちゃんも、カイン王子はちゃんと分かってるから心配しないで。何のためにボクがビジョン持ってきたと思ってるのさ」 「で、でも……」 〈その通りだよヘルムート〉  別の声がして、俺達は再びビジョンに顔を向けた。そこにいたのは金髪の長い髪が美しい美青年だ。隣には生真面目そうな軍人風の男もいる。 「あ、兄様……それに、先生も……!」 〈初めまして千代晴さん。私はクーヘンの第一王子でありヘルムートの兄、アデリオ・シュトロイゼルです〉 〈自分はヘルムート坊ちゃんの世話役を務めておりました、リゼルと申します〉 「ど、どうも……初めまして」  美しい、流れるような金髪。白い肌に切れ長の青い瞳……これがヘルムートの兄。直視できないほどの、めちゃくちゃな美青年だ。 〈リゼルから聞いたよ、ヘルムート。誰にも相談できず、一人で星を守るために地球へ行ったんだね。身を隠すことで私達のクーヘンを守ってくれてありがとう。そして、すまなかった〉 「いいえ兄様。おれ、地球きて本当に良かったと思ってます。兄様が謝ることなんてありません!」 〈お父様からヘルムートが地球で伴侶を見つけたと聞いて、カイン王子の星、プラネット・ヴァインと緊急会議を開いたんだ。そこでカイン王子から星の開発計画も聞いた。ヘルムートに結婚を申し込んだのは、その計画をより現実的にするための理由もあった、ということもね〉  決まりが悪そうな顔で、カインがそっぽを向く。 〈だけどあくまで理由の一つ、だ。カイン王子はヘルムートを好いてくれていた。自分から逃げて地球人の男性と結婚する決意を固めたと聞いて、ひどく落ち込んでいたよ〉 「あ……」 〈ヘルムート王子〉  こちらは見ずにカインが呟いた。不貞腐れたその顔はまるで、親に叱られた子供のようだ。 〈悪かったな。俺様の決意が王子を追い詰めていたと知り、反省している。……クーヘンにも王子にも手は出さないという書類にサインをした。クーヘンとヴァインの友好関係も今後強まるだろう〉 「カイン王子……。あ、ありがとうございます……!」  ヘルムートが頭を下げると、ようやくカインが照れ臭そうに笑った。

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